第39話 魔力過多らしいですけど、まずは内覧ですよ、旦那様!
「……生活レベルなら、普段から使ってて何も問題はありませんけど?」
ルゼルヴェの言葉を受けて、フルールは思い返してみても、危険だという認識が持てなかった。
今朝だって、洗顔や飲み水で水を出している。
「生活魔法であれば、それこそ幼子から使えるのだから、発動イメージが固定化されているのだろう。
その大量の水は、イレギュラーな状況下だったんじゃないのか?」
ルゼルヴェが冷静に分析をして指摘し、フルールが我が身を振り返った。
「そうですわね、実験の延長でしたわ」
「……実験」
はぁ、と大きなため息をついてルゼルヴェが腕を組んだ。
「慣れない使い方をするのは禁止だ。ただし生活魔法は意識して頻繁に使え、魔力が溜まり過ぎるのも良くないからな」
「……でしたら、開けた場所で、人目があったら良いわけですから。フィアビリテに練習を付き合ってもらおうかしら?」
二人の護衛を思い浮かべ、フルールは思案する。
ガルドは魔法が得意ではない。魔法が得意なルゼルヴェと共に育った、フィアビリテの方が適任だろうと考えた。
――転生ものの定番だから、独学でも言いはず。
事業案の際に、フィアビリテは茶々を入れてきた。練習の際でも、アドバイスくらいは期待しても良さそうだと思う。
「待て、何で真っ先にアイツが出る」
「いつも一緒ですし?」
ムスッとしたルゼルヴェに対して、フルールは意味が分からず当然のように答えた。
採取の延長と考えれば何も、不思議ではなかった。
町中ではガルドが、外ではフィアビリテがフルールの護衛につくことが多い。
四人でまとまって過ごす方が、今は少なかった。
「私の方が上手い」
「旦那様、ずっと気になってましたけど、お仕事はどうしてるのですか?」
ルゼルヴェがフルールの指導をすると取れる発言に、避けていた話題に触れてしまう。
利害関係である以上、深く関わらないとフルールが決めていたからだ。
聞いたところで、どうすることも出来ないのであれば話の意味がない。
「一度戻った際、部下に泣きつかれたが、城はラフィネの自業自得だ。
それに今は、これも仕事の一つだ。化粧品の施策を形にするよう、王妃からも頼まれているからな。
侯爵家のことは、普段から人に任せている部分も多い。王都と行き来したところで何も問題はない」
横に置いていた書類を手で示し、ルゼルヴェはなんてこと無いように告げる。
――いや、今、王妃様って言った?
ますます夜会には出席しなければいけないではないか、フルールは内心で頭を抱えた。
ルゼルヴェは意にも介していないところを見るに、女性関係だけでなく、対人関係全般に対して、どこかずれてると確信した。
「今回は荷物が多いから馬車を使ったが、馬であれば移動はかからない」
「……それ、旦那様の負担が増えているだけですわ。そこまでしていただかなくて結構です」
ルゼルヴェの言い分には問題大有りだ。フルールは今度こそ頭を抱えて、提案を却下した。
なぜ、激務に対して自信ありげな態度で居られるのかが分からない。
――若いって良いわね。倒れてからじゃ、手遅れなのに。
今の年齢ならフルールの方が若いのだが、そんな激務に身を投じる気はもう無い。老婆心ながら、ただ祈るばかりでしかはなかった。
「――着きましたよ~。ってあれ? まずい感じ?」
ガタンと揺れた後に馬車が止まり、フィアビリテが扉を開けた。ルゼルヴェとフルールを交互に見て、察しよく首を捻った。
「大丈夫よ、ありがとう」
「奥様、帰りは窓開けときます?」
先ほどから聞こえている賑わう音に、フルールは気づいていた。話題を終わらせるべく、ルゼルヴェより先にフルールは降りる。
目の前には、今日の目的地である領都の物件が建っていた。
「……ここは、物販を扱うことになる」
やや不機嫌に後から降りてきたルゼルヴェが、鍵を取り出して扉へと向かう。
昨夜、すでに本に意識が向いていたフルールは、行き先をどうするかと訊かれて何も答えられなかった。
――だって、旦那様に土いじりとかダメでしょう。
本来は王太子付きで、侯爵家当主である。田舎町で寝泊まりするだけでも、毎度おかしいとフルールは思っていた。
それでいきなり二人で出掛けると言われても、行き先など当然決まるわけがない。
苦し紛れに思い出したのは、ルゼルヴェが用意した店舗だった。
内装は任せると手紙にあったから、内覧がしたいとフルールは申し出たのである。
「何もないんですのね」
ルゼルヴェのエスコートで中に入れば、フルールは辺りを見渡した。ガランとした広い室内だった。すでに掃除は済ませてあるのだろう。空き店舗でありながら、埃っぽさが全くない。
「内装は任せると書いただろう。物があったら邪魔じゃないか」
――ああ、ホントに一から作り上げるのね。
ルゼルヴェの言い分に、フルールはその期待のかけ方に感心と共に呆れる。
フルールを信頼しているのかもしれないが、こちらではただの貴族女性にしか過ぎない。未経験者として転ける心配を抱かないのだろうか。
「ええ、それはもう。やりがいがありそうですわね」




