第34話 お久しぶりです、旦那様。おやつにしましょうか
目の前に置かれた数々の品を見て、フルールは両手を合わせて微笑み、素直に喜んでいた。
「わぁ、凄い荷物ですね!」
ある日の昼下がり、護衛に荷物持ちをさせたルゼルヴェが訪れた。
顔を出したかと思えば、フィアビリテを見つけるなり容赦なく連行していき、彼もまた荷物を運ばされていた。仲の良いことだと思う。
「何を驚いている。君が要望したのだろう?
素材関係は、まだ調べさせている物もあるが、一先ず欲しがっていた機材と道具類……本は、あらかた揃ったと思う。確認してくれ」
運び込まれていく品を見守りながら、ルゼルヴェが涼しい顔で、報告と共に数枚の書類を手渡してきた。
内容は今回持ってきていない素材に関する、現状報告のようだった。
「本は後で読ませていただきますわ。機材も試してみて、ですわね。
では、旦那様。これ追加のリストです」
「リストではなく、冊子だな」
二階の自室から持ってきたリストをルゼルヴェに手渡すと、彼は呆れながらも笑みを浮かべて受け取っていた。
――何かしら、こう……取引先のお得意様、みたいな?
初対面の時のように冷たくもなければ、以前再会した時の押し付けがましい態度やぎこちなさが今はなかった。
対応しながら感じた既視感に、フルールは名前をつけた。
「ええ、購入して終わり、ではなくて領地での資材調達の要望も込みですもの」
汎用性が高く領地で可能だと思えるものについて、それに付随する希望を書いた。
領地経営をしているのはルゼルヴェだと、フィアビリテが以前言っていた。
そこまででしゃばる気がフルールには無いので、彼が取捨選択をすれば良いと思って投げることにした。
「……そういえば、旦那様たちはお昼を食べられたので?」
「軽食なら済ませている」
――それ、ほぼ食べてないんじゃないの?
町には、食堂兼居酒屋が一件あるだけ。そこへ立ち寄ったとは荷物の事を考慮すればあり得ないと予想がついた。
ルゼルヴェにそつなく返されたが、彼はまだ若い。護衛たちも身体が資本だろう。
有事でもないのに、携帯食料で済ませていいわけがない。
「カーム。ちょっと早いけど、ちょうど良いからおやつを用意しましょう。手伝ってー」
洗濯物を取り入れていたカームを呼び、フルールは長い髪をひとつにまとめて括る。
「……何か、手伝うぞ?」
「カームと二人で十分ですわ。旦那様は、お渡しした物に目を通してくださいな。後で質問を受付ますから」
ルゼルヴェが名乗りを上げたが、フルールは断った。前回とは違い、今回はもてなす側だ。
荷解きを終えたタイミングで彼らに振る舞いたいのだ。
「種類が用意できて、手早いと言えばクレープかしら?」
地下の食料庫へ向かい必要な材料を選び、調理場でさっそく準備に取りかかる。
普段作る薄焼きパンだと、厚みがある分少し時間がかかる。クレープのように薄い生地にして、その分具材を巻く方が食べごたえもあり良いだろう。
小麦粉と水、塩一つまみをボールに入れ、トロリとした粘度の低い液状になるよう手早く混ぜ、フライパンに生地を流し入れた。
「……どうかなぁ? ん。良い感じね」
フルールは手首を回して生地をフライパンに沿うようまんべんなく薄く広げる。
ふつふつと火が通れば、反対側にし、軽く焼いて回収すると次を焼いていく。
「フルール、私は何を手伝ったらいい?」
「あ、良いタイミング! こんな……感じ、で、生地を焼いていって欲しいの」
調理場に現れたカームに、ちょうど焼いていた三枚目の作り方を見せて、フルールは交代をする。
そのまま野菜を水洗いすると、キャベツ、ニンジンを千切りにしていく。ニンジンは歯応えのために、ちょっと太めだ。
焼けた生地の上にキャベツ、ニンジンを敷き、ベーコンと削ったチーズをのせた。着火の火魔法を指先に灯らせ、炙り焼きにする。
香辛料を混ぜたピリ辛ソースをかけて、最後はクレープと同じ要領で巻いた。
フルールは同じものを幾つかつくりながら、隣のカームがだんだんとクレープ生地としてそれなりに焼けているのを見て、追加でお願い事をする。
「カーム、慣れてきたらもう一つのフライパンでソーセージと目玉焼き焼いといてくれる?」
フルールはそう言いながらも、すでに準備を済ませて焼き始める。ソーセージの肉がパチパチと焼ける、いい匂いが立ち込めた。
カームに無理そうなら、フルール自身が管理するつもりだ。
カームが失敗した生地を小皿に並べていき、アプリコットを潰し、レモンを用意すると別の容器に絞って果汁を集める。
皮はいつものように取っておいて、後で美容素材にする予定だ。
キャベツとニンジンをベースに、メインの目玉焼きにはスパイスを、ソーセージにはケチャップをかけてそれぞれ巻いた。
水を牛乳に変えて新たに生地を作り、先日のベリージャムとチーズを合わせて巻く。デザート枠である。
空いたフライパンにバターと先程の果肉と果汁を加え軽く煮る。辺りにバターの香ばしい香りと濃厚な甘い香りが漂った。
小皿に並べたクレープ生地の上にソースとしてかけ――クレープシュゼットの出来上がりだ。
「カーム、テーブルにざっと並べちゃいましょうか。ここでは皆で卓を囲んで食べるものだから。旦那様だからって特別扱いはなしよ」
「運べば良いか?」
ひょっこりと相変わらず良いタイミングで出てくるのは、荷物の置場所の指示をしていたガルドだ。
「あ、ガルドありがとう。荷物の方は?」
「食品関係はいつものように食料庫、それ以外は備品置き場。機材と本は部屋の角に置いてある」
小さな家のため、素材としての用途だとしても、食べられる物は地下に一緒に置いていた。
食料庫には毎朝、大きな氷塊を魔法で出して冷蔵庫にしているからだ。
「ありがとう。それで、完璧よ」




