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【一章完結】「好きにしていい」と言われたのでハンドメイドコスメを始めました ~ドライな妻が成り上がる一方、旦那様は思ってたより捨てたものではないようです~  作者: 松平 ちこ
一章 嬉々とした出発、目指せ美のスローライフ編

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第33話 化粧水作りとラベンダーの群生地、こだわる理由は素材としてだけじゃありません

 フルールは蒸留のコトコトとした音を聞きながら、成功するように祈っていた。


「時間がかかるなら、座った方がいい」


「あ、そうね。ありがとう」


 立って見つめていたフルールに、ガルドが椅子を持ってきてくれた。

 普段なら夕食の下ごしらえなど、時間を有効に使うのだが、なぜだが手に付かなかった。


「……そろそろかな」


 しばらくの間、とろ火を眺めていた。音が微かに変わったことに気づき、蓋をそっとずらしてみる。

 焦げては無かったので一度火を止め、再び蓋に氷を乗せ、冷ますことにした。


 フルールが蒸留器にベッタリの間、ガルドはテーブルでうどんの生地を作っていた。

 驚いたことに、あの日のうどんは全員が気に入ったらしい。週に一度、うどんの日が出来ていた。

 今のところ、トッピングを変えて被らないようにとフルールは献立を考えていた。


「ああ、旦那様が来た時も用意しないといけないのよね。次は天ぷらでも振る舞おうかしら?」


 手紙の内容を思い出して、フルールは腕を組む。

 ルゼルヴェになんの目論見があるのか、うどん専門の飲食店を作るらしい。

 フルールにメニューの買い取りと、料理人の指導の依頼が書かれていた。


 ――美容のお店と飲食店の二店舗押さえちゃうって、相変わらずやり方が予想を越えてくるわ。


 王都の白粉を買い集めたことを思い出して、フルールはため息を吐いた。

 使えるものは使う、それだけは夫婦で少し似ているかも知れないと思った。


「さて、先に化粧水を作っちゃおう!」


 頬をぺちっと軽く叩いて、フルールは気合いを入れた。熱量が高いのは、ラピットのためだ。

 以前ナンパに絡まれた際、少し擦りむいていたらしい。傷跡は乾燥に弱い、少し荒れていたのをフルールは目にしてしまった。


 ――日にちが経てば消える傷跡で良かった。


 それでも乾燥で割れたり、掻いてしまったら残ってしまう。 しっかりとケアが出来るよう、肌の健康を少しでも後押し出来たら良いなと思う。

 夫からの贈り物として、ラピットが受け取れば夫婦仲も更に良くなるだろう。

 フルールたちと違い、あちらはとても仲が良い。


 小さな小瓶を横に用意して、鍋の蓋を開ける。ふわりとベリーのみずみずしい香りが広がった。


「良かった、どっちも出来てそう」


 鍋には、くたくたになったベリーが入っている。中央の空き容器を取り出せば、二層に分かれた液体が中に入っている。

 上澄みが精油で、残りが芳香蒸留水だ。精油は小瓶へと慎重に移し替える。


 芳香蒸留水の方は、ほのかに香る程度にまで水を入れて薄めた。

 仕上げに、少量のアプリコット入りのお酒を入れて混ぜ合わせる。


 試しに腕に塗り込むと、アルコールがひんやりとして気持ちが良い。

 フルールは鼻を近づけて、香りを確認する。フルーティーな香りが、優しく鼻腔をくすぐった。


「防腐剤がなくて数日で使いきらないとだから、皆で分けてしまいましょう」


 こういう時、ガルドは先ず遠慮する。現に今も、フルールが危険なことをしていないと確認して去っていった。

 カームは純粋に喜ぶだろう。好奇心旺盛な

 フィアビリテも使いそうだ。ラピットの夫には、特別だと渡すのが良いかもしれない。ら


「アンジュさんにバレると、ねだられちゃうからね」


 美容が好きな肉屋のマダムを思い浮かべて、フルールは口許をほころばせた。

 残りのベリーをジャムにするべく、再度火を入れる。

 香りは精油にとられ飛んでしまったが、グツグツと煮込むいい音が聞こえてくるのだった。




 ◇◆◇◆◇◆◇




「どうだい、フルールちゃん。希望に叶ってるかな?」


「いい! 浅箱も、箱も十分よ!」


 腕を見たいと思ったのも一つだが、取り急ぎ欲しいと思ったものを頼んでいた。

 固形石鹸を量産するに辺り、作業効率のため取り外しが簡単な浅箱が欲しかったのだ。これで完成後の取り外しが容易になるだろう。


 一つ一つを確認していくなかで、指で引っ掛かるところがなく、丁寧な仕事だとすぐに分かった。

 仕組みに関しても、フルールの女性の力でスッとつけ外しが出来るのはありがたい。


「今後も、木工品を頼みたいと言っても大丈夫かしら?」


「おう、繁盛期は調整させてもらうが、そうでないなら大丈夫だ」


「ありがとう。助かるわ。木箱も大きさがちょうどよくて。うまく行ったら、こっちもまた頼むわね」


「それ、不思議な造りだが何に使うんだ?」


 下部に、小さな出し入れする穴がある抱えるほどのサイズの木箱だ。中は空洞になっていて、蓋となる天板を閉めれば箱になる。

 今回、前世でかなり昔に使われたタイプの物を再現した。


「今はもう設置の時期が過ぎてしまったけど、丘陵地に花が咲いてるでしょう?

 養蜂にも手を出そうと思ってて。再来年辺りに蜂蜜が取れたら嬉しいわよね」


 蜂蜜は存在していた。ならば蜂はいそうなものだ。そしてラベンダーは蜂蜜にも適している。


「蜂蜜!?」


「はちみつってなんだ?」


「甘味ですよ! 甘味! 奥様、そんなのもやれちゃうの!?」


 フィアビリテが興奮気味に語る。なるほど彼は甘いものが好きらしい。


「全くのど素人よ? だからとりあえず置いてみようと思ってて」


 ラベンダーの季節はピークを過ぎつつある。丘陵地と近くの森の中間に当たる場所へ、とりあえず置いてみようと思ったのだ。


 ――ここの気候の適切な時期が分からないから、置いてみないとね。


 前世では春に活発だった。家の環境が良かったのか、毎年蜂避けをしないと巣を作られた。

 今回来てほしい蜂は、比較的無害な種を希望したいが、何事もやってみなければ分からないことだった。


「……この世界のことは、何も知らないのよね」


 ボソリと呟いたフルールの声は、蜂蜜で騒ぐ彼らには届かない。

 跡目でもない、どこかへ嫁ぐだけの物静かな貴族令嬢としての人生で、無知は差して困ることではない。

 けれど、今のままでは知らないことばかりでは、いつか足元をすくわれてしまうのも事実だった。

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