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【一章完結】「好きにしていい」と言われたのでハンドメイドコスメを始めました ~ドライな妻が成り上がる一方、旦那様は思ってたより捨てたものではないようです~  作者: 松平 ちこ
一章 嬉々とした出発、目指せ美のスローライフ編

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第28話 手打ちうどんはコシが強くて侮れない

「作るだけ作って、寝るのか……」


 幸せそうにカームに持たれて、フルールが寝息を立てている。その寝顔はとても満足げだ。

 ルゼルヴェはその向かいで、うどんを食べていた。


「つまみ食いもされてましたし、少しは食べておられます。そもそも熱もあるし、お酒も呑まれてますから。こんなものですよ」


 カームがフルールの頭を撫でながら、ルゼルヴェに答える。その親しい距離感に、ムッとしたわだかまりを微かに覚えた。

 酔ったフルール主催のうどん作りはその後、滞りなく終わった。


 麺が多いから分けて茹でると彼女が言い出すと、調理場に椅子を置いて作業する気満々だった。

 それに全員で、待ったをかけたのは言うまでもない。


 ――あれは、完全に怪我を忘れていたな。


 フルール自身はかなり不満そうだったが、カームとガルドがうまく誘導していた。

 茹でる時間も変えていたようで、味見をしてはフルールが嬉しそうにしていた。

 ルゼルヴェは遠くからしか見ることが出来ず、なんだが歯がゆく思っていた。


 正体不明のどっとした疲れをルゼルヴェが感じていたら、食欲をそそるいい匂いが調理場から漂ってきた。

 先ほどまでは個々の食材の匂いだったが、仕上げに入ったのだろう、香ばしい肉の香りに甘く煮詰めた匂いが混ざっていた。


 ほどなくしてルゼルヴェの目の前に出てきたのは、器に盛られた見慣れない料理だ。

 スープが少なく、太く白い麺の上には肉と玉ねぎが乗っている。

 真ん中には白いぽてっとしたものが乗っていて、割ると中からトロリと黄身が出てきた。

 卵と絡めて肉や麺を食べると美味しいのだと、寝落ちする前のフルールが誇らしげに言っていた。


「初めて食べる料理ですけど、美味しいですね、これ。つるりと短時間で食べられるのに、麺の存在感があって食べた感もあるし、肉と合わせて腹持ちも良さそう。

 庶民受けに良さそうですよね。奥様は、飲食店もやれちゃうのでは?」


 フィアビリテがそう評価して、うどんをペロリと平らげていた。

 その感動を伝えにくのだろう、外の護衛の分の食事を持つと、足取り軽く出掛けていった。ルゼルヴェが頼んだ用件も、忘れずに持って出ていったようだ。


 もちろん、ルゼルヴェも美味しいと思っている。もちもちとした弾力で、歯応えがある麺もそうだが、卵と合わせて食べると食が進んだのは事実だ。


「……なぜ、今まで目立たなかった?」


 ルゼルヴェは、そこが不思議で仕方なかった。報告で聞く彼女は、かなり破天荒な行動が目立つ。

 実際の彼女を目の当たりにして腑に落ちたが、さらに疑問は深まるばかりだ。


「あ、前に聞いたことがあります。療養中にたくさん本を読んでいたからだと、その後はひっそりと過ごしていたそうです。

 色々出来る今が楽しいとも、言っておられました。」


「本……?」


 それは、先人の知恵に基づいているということだ。けれど白粉の毒性など、この国で知る者はいない。目の前の料理も同じだ。

 外国からの輸入品だと仮定して、そんな本が地位の低いフルールの生家にあるとも思えない。

 知識と言えば自然と行き着くものが本だ、それは、体のいいフルールの嘘に使われていると思えて他ならない。


「……それが本当なら彼女の生家は関係なく、本当にただの雇われか」


 フィアビリテの報告で、フルールの家にいた男の動機は割れた。

 隣街の商家の雇われらしい。この町の噂を聞きつけて、製作者を連れてくるように言われたそうだ。


 家が食料品以外荒らされていなかったのは、目先の利益ではなく長期的な利益を目論んでのこと。

 製作者を自らの懐に入れ、独占するべく作らせるつもりだったのだろう。

 それさえもカモフラージュで、背後にまだとその可能性も考慮したが、カームが言うことが本当なら、その線は薄そうだ。


 ――不愉快だ。


 生家が絡むかどうか、どちらにしてもルゼルヴェには関係ない。

 こちらが慎重にならざるをえないのに、それを土足で踏みにじる者が現れるなら、容赦する必要はない。


 手を出した商家は、これが初犯ではないだろう。近隣の優秀な人材に、日頃から目を光らせているのだから。

 後ろ暗いことに手を染めているなら、余罪まできっちりと吊し上げるだけだ。


「商家の方は、これから捕まえるとして……ガルド、フルールから目を離すなよ」


「はっ」


 これからも、似たようなことは起こりうる。手練れが側に控えていると分かれば、そこらの者へは抑止力には十分だ。


「……転売もあり得るな。さっさとブランド化させるか」


 領民の仕事にもなると、フルールは言っていた。彼女の中に、すでに幾らか構想があるようだった。販売経路を整えれば事業としてすぐに成り立つだろう。


 王都に戻れば、白粉の続報も聞くことになる。買い集めた物は、何もここにある一つではない。

 同一のものを、すでに王都で犯罪者たちに試させていた。

 そしてフルールが実演し黒く染まった白粉は、先ほどフィアビリテが持って出た。

 護送する道すがら、男たちへ塗り観察するように命じたからだ。


 ルゼルヴェは口許をハンカチで拭うと、空になった器を見つめていた。


 ――飲食店、か。


 フィアビリテの言葉を、ルゼルヴェは反芻していた。この手の見せ所は、心得ている。信頼を得るためには、惜しみなく使えるものを全て活用するつもりだった。


 ――今回、フルールは献立の立案と指揮をしていたな。


 捻挫のため、今回の調理にフルールはほとんど関わってはいない。

 手打ち麺を、口頭指示で作り上げる完成度は、人に教えるのが上手い証拠だ。

 それは、フルール自身が作り慣れているからだ。確信に近い感情で、ルゼルヴェはそう思っていた。


 ――聞いても、答えないだろうな。


 実際、一度はぐらかされている。色々と気にはなるが、それはまともな関係性を築けてからだろう。

 焦って聞き出せば、他人行儀どころか、この距離感さえ失くなってしまう。そんな予感が、ルゼルヴェにはあった――。

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