表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【一章完結】「好きにしていい」と言われたのでハンドメイドコスメを始めました ~ドライな妻が成り上がる一方、旦那様は思ってたより捨てたものではないようです~  作者: 松平 ちこ
一章 嬉々とした出発、目指せ美のスローライフ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/63

第27話 さて、旦那様。玉ねぎで泣いてください

「――っく」


 涙を堪えてルゼルヴェが苦悶の声を漏らせば、目の前でにまにまと笑んでいるフルールと目が合った。


「旦那様、飴色玉ねぎを作る予定なんですの。もっと薄くお願いしますわ」


「分かったから、包丁の前に手を出すな」


 ルゼルヴェの前にあるまな板、その上に乗っているのは半分ほど切れた玉ねぎだ。

 フルールが無防備に手を伸ばしてくるせいで、思うように包丁を動かせない。


 今、調理場では、カームが肉を炒めている。

 ルゼルヴェのやや離れた隣では、ガルドが生地を伸ばしていた。


 ――なんで、こんなことに。


 買い出し組が戻るまでの間、フルール主導でガルドが休ませた生地を再び捏ねていた。

 それが面白くなかったルゼルヴェは、昼食作りを手伝うと買って出た。

 フルールはそれに驚くこともせずに了承したのだが、その時にルゼルヴェが感じた違和感が、今ハッキリと分かる。


 ――私への仕返しのつもりか。


 カームが、フルールの酔っ払いの原因はルゼルヴェだろうと冷たく言ってきた。

 再会してからずつと、とりつく島もないフルールの態度。どちらかと言えば、無関心もしくは嫌悪が強そうだった。


 今まで放置していたのだから、それは当然の結果だった。

 彼女が納得のいく関係と距離を探り、契約を持ちかけた。

 あの時、フルールの感情を引き出せたことで一歩前進したと思っていた。こんな形でやり返されるとはルゼルヴェは思わなかった。


 買い出し前のフルールの提案は、カームとガルドから却下された。

 彼女は見て分かるほどに不機嫌になっていた。そして今は、上機嫌だと一目みて分かる。

 ルゼルヴェが玉ねぎを切って目に痛みを感じ始めた頃から、フルールはずっとこの調子だ。


「……薄く切れれば、いいんだろう?」


 二玉切るように言われたが、まだ一つ目。しかもフルールは全体を見渡した上で、ルゼルヴェの作業を無駄に長引かせようとしてる節がある。さすがに、ちょっと面白くないだろう。


「もちろんですわ。作るのは甘辛牛肉の温玉ぶっかけうどんですもの」


 目の前のフルールは変わらず、とても嬉しそうに話してくる。ルゼルヴェにまで親しげな態度を取っているのは、酔っているからだ。


 ――そのうどんとやらが、すでに私は知らないものなんだがな。


 いつまでも付き合ってやりたいと、沸いてくるこの気持ちはなんだろうか。自惚れるなとルゼルヴェは気持ちを切り替える。

 ふうっと息をついて、ルゼルヴェは途中の塊と残りの一玉を手に取ると、真上に放り投げた。


「あ!」


 フルールが驚いて声を上げ、ルゼルヴェは意表がつけたと少しだけほくそ笑む。

 宙に浮かんだ玉ねぎが、スパパと一瞬でスライスにされ、まな板の上へと落ちていった。

 ルゼルヴェが夜営で調理する時は、まな板などを出さずそのまま魔法で刻み、鍋へと入れてしまうことが多い。包丁を使うよりも、こちらの方が慣れていた。


「食べ物で遊んだらダメなのに! なにこれズルい!」


「魔法で切っただけだろう。遊んでいるように見えたのか?

 薄く切れれば良いと言ってたじゃないか。出来たぞ」


 ワッと抗議するフルールへと、玉ねぎが乗ったまな板を差し出した。

 そして、ルゼルヴェが目元を拭おうと手を伸ばし――。


「ダメ!」


「っ!」


 フルールが身を乗り出して、ルゼルヴェの手を取ってきた。

 隣に座ることさえ許されていない、まさかフルールの方から近づいて来るとは思わず、ルゼルヴェは文字通り固まった。


「目が痛いのは、プロパンチアールSオキシド、ええと……玉ねぎの催涙効果! そういうの!

 手にもついてるのよ。触ったら、もっと大変になるんだから。先に手を洗って!」


 なにやらよく分からないことを言い、頬を膨らませて怒るフルール。存外、悪くないなとルゼルヴェは瞬きをして、彼女を見つめてしまった。


 ――悪くないって、なにがだ?


 思考停止したルゼルヴェに、痺れを切らしたフルールが、水を出してじゃばじゃばと代わりに洗い出してくるではないか。

 それが少しくすぐったくて、ルゼルヴェは小さく笑った。


「なに笑ってるのよ。玉ねぎ、目につけるわよ?」


「大変なことになるんだろう? やめておくよ」


 ――止めたくせに無茶苦茶だな。


 酔っていて言動が幼く、ころころと変わる表情はただ面白い。ルゼルヴェには見せたことのない姿だ。

 カームとガルドは普通にしていることから、彼女の側面の一つなのだろう。


「旦那様、フルール様をからかわないでください。お肉に火が通りましたけど、どうしますか?」


 フルールとルゼルヴェの間に入るように、調理場からカームが指示を仰ぎにやってきた。

 フルールはすぐに応えず、ガルドの進捗を目で見て確認している。伸ばした生地を折り畳み、丁度、彼が包丁を手にしたところだった。


「お肉は一旦器にあけて、肉の油でそのまま玉ねぎを炒めてくれる?

 茶色くなってしんなりしたら、赤ワインを加えて煮詰めて欲しい。あと、うどん用に大きいお鍋も出しといてぇ」


 酔っているはずなのに、迷いなく指示をするフルールの姿はどう見ても料理をしなれている人間のそれだ。


 ――その指導力は、どこで培ったんだ?


 ルゼルヴェと結婚してから、これだけ奇抜に動いている彼女。それ以前の素行調査ではこんな情報はない。

 フルールという女性の謎が、ルゼルヴェの中で深まっていく。けれどそれは不快ではなく、むしろ心地良いとさえ思っていた。酔いが見せる、一時の夢のような感覚だった。


 ――素の彼女と、この距離で居られたら。


 先の未来、その一端をルゼルヴェは垣間見た気がした。

 フルールを軽視した過去のことを精算など出来ない、今さらでしかないからだ。

 彼女との新しい関係、距離を、再構築していくことが今後の課題だろう。


「なんて顔してるの、変な旦那様」


 フルールが笑顔で話しかけてくる。ルゼルヴェは自分がどんな顔をしているかなど、分からなかった。

 ただ、この仮初めの笑顔を見て、彼女を失わずに済んで運が良かったことを感謝していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ