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【三章開始】「好きにしていい」と言った旦那様、ただのコミュ力ゼロだった~念願のハンドメイドコスメをしちゃいますね~  作者: 松平 ちこ
三章

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第24話 旦那様、ブチギレです

久しぶりの更新となり、すみません

またボチボチと再開していきます。よろしくお願いしますm(_ _)m

「……王太子殿下。私、この結果は見なかったことにしますわ」


「巻き込んだことは、そりゃあ申し訳ないけど……。君さ、化粧品事業だけじゃなくて時々でいいから、僕の話し相手になってくれない?」


「発言にお気をつけくださいませ。どちらもすでに家庭がありますわ。公開不倫を言い出さないでくださるかしら?」


 二人だけの部屋で、渋面になるフルールに対して、ラフィネは軽口を叩く余裕が戻っていた。

 二人の手元には、資料を読みふけり精査し、今回の大規模な病についての原因をまとめた紙が雑に散らばっている。手分けして、思いのままにメモを書き付けた結果だった。


「えぇ……。だってここに行きつく、その頭脳は惜しい、実に惜しい。喉から手が出るほどに欲しい。プレーンは貴重……、楽してスルスとの会瀬が増える」


「最後、願望が駄々漏れですわ。これから起こる政治の泥々としたものに巻き込まないでください。切実に善良な一民なのですから」


「えぇ、陰謀にも長けてそうに見えるけどね? じゃなきゃ、国として取引している他国の交易品に目を付けないだろ」


「広い視野で見れば、王太子殿下なら、お一人でも辿り着けましたわ。それに城には優秀な人材が多く在籍されているでしょう?」


 病についての進捗資料は、現地で書かれたものは書式も何もあったものではなく、読みにくいものだった。

 が、追加で頼んだ交易品や豪雨災害の復興支援に関しての資料は読みやすく、情報がまとめやすかった。書き手の質の良さが現れている。


「初の王族付き女性文官、ありだと思うんだけどねぇ……」


「慎んで辞退いたしますわ。身に余りすぎる待遇です」


 フルールの今回の知識は、前世の歴史から来ているだけだ。原因が麦角菌と誤認させた新薬の実験を他国で行ったなど、国絡みの陰謀を興味本位で覚えていたに過ぎない。


「それにしても、一昨年、昨年半ばまでの輸入には問題なかったところを見ると、どう切り込むか悩ましいね」


「どちらにしても、向こうの非には変わりありませんわ。あとは懐の探りあいですわね」


 自国の大打撃を周辺国に隠したいのであれば、あまり公には出来ない。

 揉めない方向であれば、取引をやんわりと減らしていく辺りが妥当だろう。


 ――徹底的にやるなら、やりようはいくらでもありそうですけど。


 そういうリアルな駆け引きには、フルールは弱いのだ。出来れば関わりたくない一択である。遠方のゴシップはいいが、渦中には居たくない。


「――っ!!」


 冷えた空気が突如として室内を襲った。扉が壊れるのではないかという勢いで開け放たれる。そこにいたのはルゼルヴェで、顔色は蒼白、汗もかいていた。

 彼の手が触れた扉には霜がつき始め、制御しきれない魔力が漏れているらしい。どう見ても起き上がっていい人間ではなかった。


「――旦那様っ!?」


 バキッ。


 轟音と共に、ラフィネに向けて氷の槍が幾つも出来た。部屋の温度が氷室のように冷える。

 ツカツカと歩いてきたルゼルヴェは、フルールの了解をとらずに上着の袖を捲り、手首の枷を確認すると眉間に皺を刻む。


「何日だ」


「旦那、様?」


「答えろ、ラフィネ。着けて何時間経っている」


「三日は経っていない。悪い、初日の記憶が曖昧だ……」


 詰問するルゼルヴェに、ラフィネは目を反らすことなく白状した。フルールはそこに時計もないのだから、曖昧とは違うだろうと思ったが口を挟める雰囲気ではなかった。


「鍵」


「……ちょっと旦那様。知己とはいえ、いくらなんでも王太子殿下に失礼ですよ」


 隣に立つルゼルヴェがラフィネに向かって右手を突き出した。寄越せと言うことなのだろう。その有無を言わせぬ剣幕に、フルールはようやく口を挟む。


「ラフィネ、鍵。それとお前の管理区画、使わせてもらうぞ」


 ルゼルヴェは左手でフルールの手を掴んだまま、視線をラフィネに固定していた。

 ラフィネは鍵を懐から出しながら、そこでようやくルゼルヴェの意図が察せられたらしい。強張った顔に悲壮な色が混ざった。


「……まさか夫人は、魔力量が……?」


「お前と答え合わせする暇はない。フルールは返してもらう。行くぞ」


「ちょっと、あの――旦那様! 色々と、お待ちくださるかしら!? で、殿下っ。御前失礼します!」


 フルールの手を掴むルゼルヴェの力は痛くない。だと言うのに全く振りほどけず、ルゼルヴェに引きずられるようにフルールはその場を退室した。


「――旦那様っ! どこに連れていくつもりですか!?」


「ラフィネの食料畑。来年、奴が食いっぱぐれようが当然の報いだ」


 閑散とする城内。それでも時折、すれ違う人間は居る。連れだって歩くフルールの姿も、膝丈ほどのワンピースタイプの下着の上にコート一枚羽織って前をキチッと留めているだけ。貴族夫人として褒められたものではない。

 が、全員が全員それを咎めることも反応することも出来ず、ルゼルヴェの気迫になにも言わず道を開けている。


 ――もう、めちゃくちゃだわ!


 ルゼルヴェと触れているフルールの手には、なんともない。だが、彼が歩いた道にはすべて氷の膜が張っている。

 魔法の制御が出来ているのかいないのか、フルールには訳が分からなかった。


「畑に――って、まるで今から壊しに行くみたいな言い方ですわっ!」


「ラフィネはそう理解している。他の王族の管理区域ならいざ知らず、宣告はした。問題ない」


「大有りですわね!?」


「大有りなのは君だ。私は、あの場で城内を吹き飛ばしても良かったんだぞ。城の外側に出るだけ譲歩だ」


「だから、さっきから何の話ですか!」


 廊下で言い合うように次第に声が大きくなっていく。それでも、前を歩くルゼルヴェの足は止まらない。


「――魔力測定器を壊したらしいな?」


「っ、旦那様。今、それは……」


「ああ、休暇を取って話をしに行くつもりだった。そうはならなかったが――魔力が溜まりすぎれば毒だと以前に言ったぞ。なぜ枷など嵌めた。ラフィネなどに応じる必要はなかったはずだ」


「……不敬ですわ、旦那様」


「愚か者に従うほど、私は腐るつもりはない」


 ルゼルヴェが立ち止まり、ようやくフルールの目を見た。その場に留まったことで、ルゼルヴェの足元の床だけでなく、壁にまで霜がつき始めている。


「君は、今の身体の状態をちゃんと分かっているのか。その枷は、魔力を通さない天然の物で出来ている。装着者の身体から魔力を体外へ出さないだけでなく、体内でも同様の事が起こっている。つけ続ける限り魔法を封じるだけでなく、枷の許容量を越えるまで体内で作られた魔力が溜まる一方だ」


「魔法使いを封じる枷ですから、それは当然では……?」


 じっと見つめられて、フルールは少したじろいだ。女医に測定器を壊したことを口止めしたのは、面倒事を避けたい一心で事実だからだ。


「手首に着けた枷程度では、長期間の着用による君の魔力に耐えられない。さらに外した場合、溜め込んだ魔力が一度に解放され暴発する。――分かるか。君は今、いつ王城を吹き飛ばしてもおかしくない生物兵器と変わらない。常人の枷の常識など通じるものか」


「……」


 食欲不振から始まった軽微な不調、薄々気づいていたことをルゼルヴェからハッキリと、フルールは告げられた。


 ――ああ。この人は、王城を気にしてないわ。爆死するかもしれない状況で、私が私を蔑ろにしたことに怒ってるのね。


 ルゼルヴェが初めて家を訪れ、再会したあの日、いつかの暴漢が家を占拠した時の邂逅と変わらぬ怒りがそこにあった。

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