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【三章開始】「好きにしていい」と言った旦那様、ただのコミュ力ゼロだった~念願のハンドメイドコスメをしちゃいますね~  作者: 松平 ちこ
三章

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第23話 確かな好転の兆し

先週から私用が立て込み、更新が落ちておりました。すみませんm(_ _)m

 約二年前の国内各地で起きた、豪雨による自然災害。被災地への復興支援を金銭の他、国は備蓄を開放していたとエルブは言及した。

 当時、病床についていたフルールには、知るよしもない話だ。ただテール伯爵領はフルールの乗った馬車の滑落以外、豪雨での被害は軽微だったはず。


 ――あの子は当主だから、国からの通知にもキチンと目を通していたのね。


 両親の葬儀に、当主交代に、不慣れな執務、エルブはずっと慌ただしかったにもかかわらず、突然の拉致同然の連行にも冷静でいた。肝が据わってるどころではないだろう。


「……普通に、学業を修められていたら」


「夫人?」


「なんでもないですわ。王太子殿下」


 タラレバが口から零れ落ちて、フルールは頭を左右に振って思考を切り替えた。前世よりもまだ、学歴が物を言うわけではないのだ。

 そのエルブは先ほど、渋々ながらも騎士に連行されるようにして治療を受けに部屋を退出していた。


「やはり、枷も外した方が良いのではないかな?」


「着けたご本人が何を今さら。容疑者なのは変わりませんし、負い目を感じていただけるのであれば、テール伯爵様への治療をしっかりとしていただければ良いのです」


 フルールは手枷をそのままに、吐瀉物まみれの服をラフィネに切って回収してもらった。

 今は、鎖の上から先ほど被せられたルゼルヴェの上着を着て、前をピッチリと閉めた形だ。褒められた格好ではないが、ここにはラフィネという妻帯者一人。

 袖の中に鎖があり窮屈ではあるが、フルールはそれでいいと断りを入れた。


 ――ここで枷を外したら、後が怖いわ。


 袖の中の手枷をチラリと見て、フルールは息をつく。熱がこもったような、気だるげな感じは無くなっておらず、以前冷気が漏れていた時を思い出す。


 ――王太子を害するとか、城の損壊とか、騒がれでもしたら洒落にならないわね。


 前世の水風船やホースと言った類いを思い出していた。出口を縛って溢れる末路がどうなるか。けれど、どう対処して良いのか分からないのであれば……ここはもう、いけるところまで行くしかないだろう。

 麦角が原因と仮定して、フルールが出来る範囲で残るはエルブの言葉の裏取りだけなのだから。


「……無知を承知でお尋ねしますが、豪雨災害は国内でそこまで酷いものでしたの?」


「そうだね。一番酷いところは畑に備蓄に双方被害を受けたから、その年は冬を越せない民が多かった。家を流された者もいたからね。今年は幾らかまともな年を過ごせそうだと、復興支援を割り振る中で話が上がっていたんだ」


「では、伯爵様の言うように備蓄の補填は……」


 前世と今世、二つを照らし合わせて、フルールはパズルを組み立てていく。流通が行き届いた前世でさえ、災害は深刻なのだ。今世は前世でいう大昔の文明レベルと似ている。百年、二百年は軽く前だろう。


「国内で補える範囲までは、まだ回復していない。ライ麦は全て輸入品だ。麦より栄養価があると聞いて、試験的に導入していたのもあってね。麦は一ヵ国に偏らないよう周辺国から買い付けをしていたが……、状況からして質の悪いものを引き当てたのだろうね」


「麦角は、製粉すると分からないものです。あるいは……」


 この国にとって未曾有の事態だったとしても、輸入元はそうとは限らない。

 取り除けるものを取り除かなかった――他国が、相手なのに、だ。フルールはその先を言わなかった。


「頼まれた資料です」


 規則正しいノックが響いて入ってきたのは文官だ。フルールの姿にぎょっとするが、ラフィネの指示で手近な机に置くとそそくさと退室する。


「そんなに、慌てて出ていかなくても……?」


「それを言うのは多分、夫人だけだよ。資料を机に置いただけ頑張ったと思うね、僕は」


「あら、王太子殿下。ずいぶんと滑らかなお口になられたようで」


 扉を見つめてフルールが呟いたら、ラフィネから軽口が飛んできた。心底意外に思ったが、ラフィネが泣きそうな顔で苦笑した。


「弟君が倒れたのに、動じない。的確な対応をする君を見て、これでも己を恥じている。目が覚めた気分だよ」


「まぁ、それはスルス様がお喜びになりますわ」


 病人に余計な心労をかけなくていい、フルールは素直にそこを喜んだ。


「いや、麦に関連する物を食べなければいいと、もっと早くに気づいていたら……。こんな事態にはならなかった。スルスには怒られるだろう」


「習慣は見落としを生むものです。仕方ありません。私たち姉弟は、輸入品のライ麦パンに馴染みがありませんでしたから、気づけたのです」


 資料を読み漁り始め、もう見落とすものかとラフィネの瞳には確かな力がある。

 それを見て、フルールは責めることはしなかった。前世だって、ビタミン不足による船乗り病、白米が主流になった頃に起きた脚気など、原因の判明にはかなりの年月を要したらしいのだから。


「それもあるけれど、スルスにもルゼルヴェにもやはり怒られるよ。君に手枷をつけさせた。無理矢理連れてきてしまった」


「それは、寝こけている旦那様が怒る理由にはなりませんわ。掘り下げれば、自業自得ですもの。夫の不始末を拭うのは、妻の役目でもあります。私は自分の意思で手枷をつけ、ここに来ていますから」


 ――なにより、これで助かる命は確実に増える。


 そのための裏取りをするため、フルールはペンを手に取った。すでに広げられている国の地図、病について記されているそこに、新たに輸入品の分布について加筆していく。

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