↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【三章開始】「好きにしていい」と言った旦那様、ただのコミュ力ゼロだった~念願のハンドメイドコスメをしちゃいますね~  作者: 松平 ちこ
三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

125/133

第18話 静寂に包まれた城下

「お義父様、ありがとうございました」


「嬢ちゃんに素直に礼を言われると、痒くてならねぇな」


 フルールが感謝と共にお辞儀すれば、じゃらりと手枷がなる。両の手首に嵌まった分厚い枷は、肩幅よりやや長い程度の一本の鎖で繋がっていた。


 ――本当に飛ばすから、道中は会話もままならなかった。いや、話すことはないんだけど。


 ジェットコースターを連想した飛行体験は、以前強引に連れ出された時を思い出させた。アレはまだ優しかったのだと、比べるまでもないものだった。

 王都郊外の開けた場所に降り立った今でさえ、足元がふわふわとして、胸がいっぱいだった。


「俺は長く砦を留守に出来ねぇ。本当にいいんだな? 魔封じの手枷は、今の嬢ちゃんと相性が悪い。なるべく早く解いてもらえ? 無理なら、その身につけた魔石を割れ――」


「大丈夫ですわ。お義父様は以前の提案を覚えてくれていれば」


 スッと、フルールの耳元にアルディが顔を近づけてくる。

 今からでも匿うと主張するアルディに、フルールが不敵に微笑んで見せれば、盛大にため息をついた彼に頭を小突かれた。


「嬢ちゃん。貸しは、砦のモンスター肉による晩餐だ。男どもの中に放り込んでやるからな、覚悟しろよぉ」


「あら、それはなんて楽しそうなのかしら、お手紙を書きますから、とびきり良いものを期待してますわよ?」


 二人で黒く笑い合うと、別れの言葉もそこそこにアルディは颯爽と空へ飛び立っていった。一人だと、なお速いらしい。あっという間に消えた姿を、フルールはじっと見送った。


「お待ちいただき感謝申し上げます。王太子殿下」


「……別に」


 飛行中、思い悩んだ様子のラフィネにフルールはそっとする。城下に向かって歩き出した彼の後を追いかけた。


「夜明け前にしては、静かですわね」


 うっすら明るくなってきた街並みを歩き、フルールは疑問を口にする。人が居ないのだ。

 いくら王都といっても、まだ平民の多く住むエリアだ。朝の支度などで慌ただしさがあっても良いはずなのに――と不思議に思う。


「……王都にも、例の病が流行り始めている」


「だからと言って、ここまで機能不全に陥るものですの? 医師や薬師はなんと?」


 返事が返ってくるとは思っていなかったフルールは期待せずに、ラフィネに声をかけた。


 ――罹りたくないにしても、異常だろう。


 ピッチリと閉められた窓。息を潜めるような静寂は、一種のゴーストタウンのようでもある。


「最初は嘔吐、腹痛などが多い。その後、痛みを伴い四肢の壊死まで進む。一度快方に向かっても、急変する。生存率は芳しくない。精神錯乱者に至ってもそう、治療法はない」


「なるほど。そんな中、旦那様はよく大人しく牢に入りましたわね?」


 ラフィネのズレた返しは指摘せず、代わりにフルールは、責任感のあるルゼルヴェが黙っているはずがないと言った。


「――ってない」


「はい?」


「ルゼルヴェは、牢には入ってない。アイツも倒れたんだ。今頃は、治療を受けてるだろう」


 ――あぁ、だから……止める人も居ず、頼れる人も居ないから。この人は、サントュール領まで飛び出せたのか。


 妻と腹心が倒れたのなら、思い詰めもするだろうなと、フルールはどこか凪いだ心で思った。

 我ながら、その薄情な心には呆れの念も抱く。仮にも夫が奇病に倒れたと聞かされたのに、妻としてあるまじき心境だろう。


「王太子殿下は、旦那様と調査をされていたのですよね? 病に倒れた時もご一緒に?」


「情報の精査は、ルゼルヴェも担っていたからね。ああ……、スルスよりも一緒に居たな。だけど、倒れたことは知らない。出立の準備をしている時に聞かされた」


「では道中の騎士で、その病に倒れた者は?」


「居ないね」


 前を歩くラフィネは、気を病んではいても、体調そのものは悪いようには見えなかった。


 ――ここの世界観、発展途上の中世、近世に似てるところがあるわね。


 ハッキリ似ていないのは、生活魔法があることだ。水が出せるから飲み水に困らず、汚れを落とすなどの清潔保持の意識もある。

 衛生面は特に、あの時代とは全然違ってマシなのだ。


「……君は、夫が倒れたのに平然としていられるんだね」


「冷血、と思っていただいても良いですわよ。王太子殿下と違って、愛し合った中でもありませんから。

 王太子殿下こそ、旦那様が倒れてなお、私を捕縛する理由は?」


「君の生家の伯爵家、そこも被害報告が上がっていない。君の弟も、今頃は捕らえられているはずだ」


「あぁ、伯爵様も。……私同様、無実だと思いますけどね」


 フルールの弟は学生の身分でありながら、急な爵位継承で慌ただしい日々を送っている。

 それは、フルールが結婚で家を出るまでも続いていた。陰謀など画策する暇も実行する余裕もないだろう。


 辿り着いた王城では、さすがに警備の兵がいた。ラフィネが帰城を告げている。


「王太子殿下。私はこのまま喜んで兵と牢へ行きますわ。ですから、スルス様のお側に」


「だが、僕は――」


「万が一が気がかりでしたら、濃厚接触さえ避ければ良いかと。おそらく王太子殿下は病に罹りません。

 罹るならば旦那様が罹患した時すでに、もしくは、私と出会ってからでも、病に倒れられたはずですから」


 道中で考えた答えを、フルールは口にする。何も分かっていないが、ラフィネが無事なのがなによりの証拠のように思った。


 ――人に移る単純な感染症ではないのでしょう。


 汚染された水を飲む環境になく、それでも胃腸から来るならば、ウイルス性よりも細菌――食中毒の可能性もあった。

 ただ地域に差が出るのは理解できても、集団食中毒の場合、国内で広範囲に発生する現象はおかしい。


「ただ、牢で大人しくしているだけでは手持ち無沙汰なので、捜査資料も見せられる範囲で見せてもらえたら嬉しいですわね。

 身の潔白を証明するために、姉弟で知恵を絞るくらい許容していただけませんこと?」


 ――情報が足りない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。