↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【三章開始】「好きにしていい」と言った旦那様、ただのコミュ力ゼロだった~念願のハンドメイドコスメをしちゃいますね~  作者: 松平 ちこ
三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

123/130

第16話 誰に物を言ってるんですか

「嬢ちゃん、久しぶりだな」


「あら、お義父様ではありませんか、お久しぶりですわね」


 晴れた昼間、家の玄関に立ったのは、アルディだ。最後に会ったのは、治水工事の進捗で強引に現場に連れていかれた時。


 ――ああ、そうだ。稲も探さないと、植えるなら年明けから準備しなきゃだし。


 フルールが開けた穴に水が入り沼地になった。良さそうな質感だったから、是非とも米を植えてみたいのだ。


「……おい、嬢ちゃんよ。俺の顔見て、今絶対関係ないこと考えてるだろ」


「失礼ですわね。無関係ではありませんわ」


 思考は確かに他所へと旅立っていたが、稲作をやるとなれば巻き込むのだから、無関係ではないだろうと、フルールはいたずらっ子のように笑う。


「はぁ……、いつものお喋りには付き合ってやれねぇんだ。荷物をまとめな、匿ってやる」


「はい……?」


 めんどくさそうに息を吐き出して、首の後ろを掻いたアルディに、フルールは首を傾げる。

 唐突過ぎて意味が分からなければ、普段の強引さもないのだから変だろう。


「あれ、アルディ様」


「おう、フィアビリテ。なんだ、その顔はやっぱり王都じゃ遠すぎて、お前じゃ気づかねぇか」


 裏で薪割りをしていたフィアビリテが、来客に気づいて表に回ってきたのだ。彼もまた、意味が分からないといった顔をしていた。


 ――王都?


「……アルディ様。今、王都って言いました?」


「おう言ったぞ。王都で魔石が割れた。お前なら、その意味はさすがに分かるだろ?」


 訝しんだフィアビリテは、アルディの言葉を聞いてざっと青ざめた。その反応が珍しくて、異常事態なのだとフルールも身を固くする。


「キナくせぇ動きは把握してたがよ。領境の関所から早馬の報せだ。王太子のガキがこっちに来てる」


「お義父様。王太子殿下に不敬ですわ」


「あぁ? 騎士が数人とはいえ物々しく武装して来るのに、敬う必要がどこにあるんだよ?」


「……武、装?」


「奥様、前に言いましたよね。しばらくは王都に来るなってルゼルヴェに言われたって」


「そうね?」


 流行り病が移るから来るなと、ルゼルヴェが言ったのだろうとフルールはずっと思っていたのだ。


「国に広まった病は流行り病じゃなくて奇病なんです。サントュール領では被害報告が無く、領民は無事です。なので恐らく……」


「ああ、侯爵家に嫌疑がかかったのね? 旦那様は拘束でもされたのかしら?」


「さぁな。あの愚息は、自分のためになんて割らねぇ。だから俺は、こっちに来た」


 最近は本当に、家のあるここ――領地の端で、ずっと過ごしていた。

 冬物向けの新商品として、ハンドクリームや保湿効果のあるものを作るために。世辞に疎くなるのは、仕方ないではないか。


「あら、それでしたらお義父様は砦にお戻りになって下さい」


「ああ?」


「未曾有の奇病が流行っているのは分かりましたわ。で、手薄になったところを攻め入れられてしまっては、セオリー過ぎて笑えませんの」


「嬢ちゃん?」


 だから、今更ながらこの流れは分かる。どこか、ドラマのような展開でもあったからだ。

 フルールは迷うこと無く、アルディの気遣いを断った。


「大体ですね。嫌疑がかかったとして、何故、私が逃げて匿われなければならないのですか。悪いことはしてませんわ」


「奥様、捕まればどういう扱いになるか分かりませんよ。だから、ルゼルヴェも――」


「普段、命を張ってモンスターと死線を潜り抜けて来られた方々が、随分と日和ってますのね」


「いや、それとこれは……」


 歯切れの悪いフィアビリテは、さっきから顔色が悪い。ルゼルヴェが気がかりなのだろうと、それだけで伺い知れた。


 ――バカなの。私が逃げたら、旦那様の立場が悪くなるだけなのに。


 フィアビリテの行動は矛盾していた。本人は気づいているのだろうか、ルゼルヴェが心配なのに、フルールを守ろうとするその歪さが。


「上に立つものが愚行を犯すならば、それを諌めるのは臣下の務め。先ずは、王太子殿下の言い分を聞いてみなければ、何も分かりませんわ。

 聞いた上で、旦那様で不足でしたら、私も侯爵夫人ですもの。受けてたとうではありませんか」


「言いたいことは分かりますけど。奥様、それじゃ最悪――」


「事実無根で殺めれば、どれだけ隠したところで人心は離れていきますわ。そんな王家には未来も何もありません」


 この国の歴史は知らない。が、前世はそうだった。衰退と繁栄を繰り返し、多くの血と屍の上に現在があった。


 ――あそこにはモンスターなんていなくて、人類の絶滅を危惧するほどの危険な動物もいなかったのに。


 ただ、人と人とが長い長い間、争っていた。賢王であれば治世が続き、愚王なら崩壊する話だけなら簡単なことだった。


「ルゼルヴェ・サントュール侯爵が妻、フルール・サントュールは逃げも隠れもしません。お二人は、私が気弱で泣き暮れる令嬢だとお思いですか?」


「ないな。やっぱり嬢ちゃんは誰だろうと立ち向かってこそだわ」


「……俺、またルゼルヴェに顔向け出来ねぇ」


 ドヤァと玄関で開き直るフルールに、アルディは笑い、フィアビリテは頭を抱え唸っていた。


 ――お義父様も、図ってましたわよね。本気で匿う気なら、有無を言わさずのはずですもの。


 こんなところで立ち話などする性格ではない。どちらに転んでも良いよう、アルディは構えていたのではないかとフルールは思ったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。