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【三章開始】「好きにしていい」と言った旦那様、ただのコミュ力ゼロだった~念願のハンドメイドコスメをしちゃいますね~  作者: 松平 ちこ
三章

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第12話 同日夜、不吉な風が国に吹く

「……ふふ、……ふふふ……」


 月が照らすバルコニー、鼻唄を歌い、長い髪を弧を描いて、少女がくるくると踊る。瞳はどこか遠くを見つめ、幸せそうに笑っている。


「お嬢様、失礼しま――あぁ、お嬢様! またそのように外に出られてっ!!」


「あはは、ははははははっ!」


 部屋に入ってきたメイドが、ぎょっとする。あっという間にバルコニーの手すりに立った少女がメイドに目を掛けることもなく、笑い声を上げ――落ちた。


「きゃぁぁぁぁぁぁ!! 誰か! 誰かぁ! お嬢様が下にっ!!」




 ◇◆◇◆◇◆◇




 ドン、ドン、ドン……。


 ドンドンドンドンドンドン。


「……こんな夜更けに、急患か。あぁ、待て待て、今開ける」


 外から漏れ聞こえる喧騒に、ボリボリと頭を搔きながら男は玄関口の扉を開ける。血相を変えた親子がそこにいた。


「痛いよぉ! 痛い、痛い、痛い、痛いぃ!!」


「先生! 突然痛みを訴えたんだ。なんとかしてくれ!!」


 母親が抱えた子どもが、火がつくように泣いている。耳に刺さる泣き声に、男も慌てて中へと招き入れる。


「あ、ああ! 中へ、痛いのはどこだ?」


「痛いぃ、痛い。手が、手がぁぁぁぁあ!!」




 ◇◆◇◆◇◆◇




「――やっぱり。夫人の見つけた物は、正しく毒草だったか」


「最初から信じておられたのですか?」


 ラフィネは牢屋の前、物言わずに倒れている男を見つめて静かに呟いた。後ろに控えた近衛騎士が、驚きを隠さずに聞いた。


「こと植物において、彼女はかなり知見が深そうだと思ってたからね。それに毒の有無だけなら判別は容易だろう?

 僕は今、知りたいんだ。毒草なら放置は出来ない。そうでない場合、あそこを更地にも出来ない。詳細を調べるのは必要だ。それは専門家に任せただろう?」


 ルゼルヴェが抜いた草は、研究機関に届けさせた。近日中に回答が出るだろう。

 近衛騎士が布に乗せた紫の花は、ラフィネが新たに抜くよう指示したものだ。

 そして、死刑が確定した男へ食べさせた――それだけの話。


「さて、念の為。もう一人いっておくか」


 ラフィネは、隣の独房へ視線を移す。中にいる男が一人、顔を青くさせていた。

 一人だと、たまたまかもしれない。毒の有無をこの目で確定させることが、ラフィネの目的だった。


「ひっ……、ひぃ! な、仲間が今まで連れて、かれて……戻って、来なかったのは……っ!?」


「酷いな。先ほどの男と君の二人は、僕の交渉に首を縦に振った。協力してくれた暁には、無罪放免として国外へ出ることを許可すると言っただろう? 嘘はついていないよ?」


 ただ、国外へ出る時に生きているかどうかは保証していないだけで。ラフィネは後ろの近衛騎士に指示し、紫の花を男へ与える。


 ――大分数が減ったな。ま、良いことだけど。


 ラフィネはつまらなさそうに男から視線を外すと、独房の管理を担当している騎士へ向き直って命を下す。


「――結果を見届けたら、報告を。その後はいつも通り処理をしておいて」


「御意」


 辛気くさい地下の階段を登り、追従する近衛騎士に話を持ち出した。


「例の花は全て抜こう。研究機関に全て運び込め。不要分は即焼却するように徹底してね」


「はっ」


 にこりと笑って、ラフィネは外に出る。冷たい風が吹き抜けて、金の髪をさらりと撫でる。


「庭師には明日……。その後、仕入れ元の商会。ああ、スルスや母上にも、花を抜いたことだけは告げておかないと怒られるな」


 今後の予定を立てて、ラフィネは目を細める。毒草が一つとは限らない、王城内を精査するべきだろう。


 ――たまたま見つけた彼女は、果たして……。


 ルゼルヴェと結婚し、すぐに白粉に有害な物があるとフルールは告げた。

 この度、王城に招いたのはルゼルヴェで、許可を出したのはラフィネだ。たまたま赴いた先で、またも彼女は毒草を見つけた。


「二度あることは三度ある。まだなにか、起こるかもね?」


「殿下、何か……?」


「いや、惜しいことにはならないことを、祈るばかりだと思ってね」


 ラフィネの呟きは、風に拾われて誰にも聞こえなかった。聞き返した近衛騎士に、ラフィネは王太子として微笑んで返す。


 ――偶然も重なれば、必然だ。それがもたらすのは幸か不幸か……。


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