第7話 夏場の肌ケアも大切ですの
「さらっと書いてしまうなんて、フルールは本当にすごいわね」
「スルス様。私が手ずから作ってますから、いつも頭の片隅にあることですのよ。例えばオリーブ油、肌には保湿と言いましたけれど、先ほどの用紙で例えると……。
パッと思い浮かべるだけでも、たくさん出てきますわ」
フルールは指折り数えて、先ほどの広告標ぼうを保湿と関係ある項目をそらんじてみせた。
頭皮、毛髪にうるおいを与える。
頭皮、毛髪のうるおいを保つ。
毛髪の水分、油分を補い保つ。
裂毛、切毛、枝毛を防ぐ。
毛髪のつやを保つ。
毛髪につやを与える。
肌を整える。
肌荒れを防ぐ。
皮膚にうるおいを与える。
皮膚の水分、油分を補い保つ。
皮膚を保護する。
皮膚の乾燥を防ぐ。
「肌が乾燥するとかさついたところから、傷や病気の原因になりますし、保湿はいつの季節でも大切ですわ」
髪のキューティクルや肌バリアといった面だけでなく、感染症予防の面でも、保湿は欠かせないものだった。
「ん? 暖かい気候の時は、別に大丈夫じゃない?」
「ラフィネ様。冬場は目に見えて乾燥するので分かりやすいですが、夏場も大変ですのよ? 日差しのダメージで肌は傷つきますし、暑さや汗で水分や油分が損なわれやすいですわ。
汗もかくし、肌がべたついているから不必要ではなく、足りてないために過剰分泌する場合がありますの。そうなるとお肌にとっては悪循環ですわね」
「あら、それならお手入れはどうするべきなのかしら?」
「まずは清潔にして、その後に冬場ほどではなくとも、しっかりと肌の水分補給と保湿をするのが望ましいですわ。程度は肌質に合わせるのがベストですわね」
興味本位のラフィネの疑問に答え、困った仕草をしたスルスの質問にもマニュアル的な返しをする。二人の肌質が分からない以上、どうしても万人受けの回答になるのだ。
――前世なら、冬はしっとり目、夏はさっぱり目の化粧水、乳液と分けてするだけもだいぶん違う。エアコンで夏場でも乾燥するしね。
細かくするなら、おでこと鼻周りのTゾーンと頬や周辺といった部分で使い分けるのも良い。
逆に保湿のし過ぎは吹き出物など、新たな肌トラブルが出てきてしまうので、本当にさじ加減ではあるのだが。
――この世界は水で洗って終わりが多いから、まずは初歩的なことからでしょうね。
水で洗う以上に、石鹸を使うと汚れだけではなく、水分や油分も流れてしまう。
この世界は、それがまだ普及していないために乾燥の点ではマシだった。
「夏場で気をつけることとしましては、あとは汗を拭く時などですわね。タオルで擦ればその分肌に傷がつきますから、押し当てるように拭き取るのが理想ですの」
「ルゼルヴェ、お前には無理だろ?」
「……振るな」
フルールの補足に、なぜかラフィネが横のルゼルヴェをからかっていた。スルスはマドレーヌをつまみながら、メイドにメモを取らせている。
城勤めのイメージから、勝手に内勤なら無縁そうだと、フルールは思っていたのだがそうではないらしい。
「おや、不思議かい? 屋内でも暑い時は暑いからね。それに夫人の前では大人しいみたいだけど、自分のことになると雑だよ、コイツ」
「屋内がそこまで暑いとは意外でしたわ」
フルールはそれだけ言って、紅茶に口をつけた。ラフィネが目をしばたかせたので、そっと視線も外しておく。
――旦那様との関係はご存知でしょうに、一緒に住んでない時点で知らないわよ。
メイドが書き起こしたフルールの言葉をしたためたメモの確認していたスルスが、一つ頷いてフルールへ向き直る。
嫌な予感はしながらも、フルールも微笑で応じた。
「……やっぱり、フルールも草案作りを手伝ってくれないかしら? 時間のある時で構わないし、書簡のやり取りでも良いわ」
「私に出来る範囲でしたら、喜んで応じさせて頂きます」
実質、命令に等しいだろう。フルールは居ずまいを正して返答する。
申し出自体に、メリットがないわけでもないのだ。前世相応とはいかないが、少なくともキチンと決めてしまえば、フルールの益になることだった。
「ラフィネ様」
お開きになったお茶会で、見送りだと言うラフィネにフルールは話しかけた。
「先ほどは夏場の保湿がメインになってしまいましたが、これからの寒さ、乾燥の季節には、お気をつけくださいませ。
書類仕事ではさらに手がかさつきましょう。乾燥して皮膚の固くなった手指でスルス様に触れれば、傷をつけてしまうことになりますわ。保湿をしっかりすることをお勧めします」
スルスの名前を出して、ぎょっとしたラフィネにフルールは笑顔を返した。
散々振り回されたのだ、これくらいであれば不敬にはならないだろう。




