第6話 店頭宣伝で即興する時は、気をつけたものです
「どうしてそこで医療が出てくるのかな?」
「殿下、美容と医療は違うものですが、壁は明確にしてこそなのです。例えばですけれど、スルス様にもお使いいただいている中に原材料でラベンダーがあります。
鎮痛、鎮静、抗菌、など精油には身体への効果が、実に沢山あると言われていますの」
――万能精油とか言われたりね。
ラフィネの問いに、フルールは身近な物で例え話を始めた。町の近くで採れることもあり、商品にも多数使っている。
それに前世でも、ラベンダーは古くから根強く支持を得ているハーブの代表格だった。
「あの紫の小花ね。侍女たちが固形石鹸をいたく気に入っているわ。手が綺麗になったって」
「それは良かったです。ただ、そこに手荒れが治ると広まって傷薬として使い始めるとどうでしょうか?」
「今の話だと、石鹸だから傷薬ではないわね」
フルールの答え合わせに、スルスが付き合ってくれる。ラフィネも面白そうに耳を傾けていた。
「はい。医師でない私が作るものはあくまでも美容が目的ですから。あとは、オリーブ油もそうですね」
「あらそれは、料理にも使われているものじゃなくて?」
「そうです。スルス様に以前お渡ししたシュガースクラブ、さらりとした使用感の方にオリーブ油が入っています」
「……」
フルールがパート・ド・フリュイを一つ摘まんで口許に持っていくと、以前の会話を思い出したのか、ポッとスルスはフルールの手元を見て頬を染めた。
――可愛い! じゃなくて!
「オリーブ油にもオレイン酸、スクワレン、βカロテン、ビタミンE、ポリフェノール類といった栄養素が含まれているのですが、主に保湿を与えてくれるものです」
「……そうね。……保湿……」
スルスは隠すように、カップを口許に持っていく。ラフィネが目だけでそれを見、目元を綻ばせた。何か思い出したのだろう。
「そこに、シミに効くとうたい文句を掲げれば、シミが無くなると思い殺到する方々が出るかもしれません。人によっては、薬よりも魅力的に映ることもあるかもしれませんね」
人の美の執着は本当に怖い。全員が全員ではないだけに、印象操作の危険性がある分、気をつけたいところだ。
「ラベンダーに限らず、蜂蜜、アロエを効くからと医者に頼らず使うのと同じだな」
「まぁ旦那様、民間療法をお使いに?」
「砦で、薬が無い時に火傷にアロエはあるな。だが、医者の薬が一番だろう」
ルゼルヴェが、マドレーヌに手を伸ばしながら口を挟んだ。フルールもそれに頷く。
「ですから、素人が安易に鵜呑みにしてしまうことがないよう、取り扱う側が、慎重になるべきだと思いますの、悪用を防げますし」
フルールは近くのメイドに声をかけ、書くものを借りる。スラスラと書き出すのは、前世の広告の標ぼうだ。
頭皮、毛髪について。
頭皮、毛髪を清浄にする。
香りにより毛髪、頭皮の不快臭を抑える。
頭皮、毛髪をすこやかに保つ。
毛髪にはり、こしを与える。
頭皮、毛髪にうるおいを与える。
頭皮、毛髪のうるおいを保つ。
毛髪をしなやかにする。
クシどおりをよくする。
毛髪のつやを保つ。
毛髪につやを与える。
フケ、カユミがとれる。
フケ、カユミを抑える。
毛髪の水分、油分を補い保つ。
裂毛、切毛、枝毛を防ぐ。
髪型を整え、保持する。
毛髪の帯電を防止する。
――ここに、抜け毛に効くとか育毛に良いとか断定すると、今度は世の男性がうるさくなるのよね。
皮膚、肌について。
(汚れをおとすことにより)皮膚を清浄にする。
(洗浄により)ニキビ、アセモを防ぐ(洗顔料)。
肌を整える。
肌のキメを整える。
皮膚をすこやかに保つ。
肌荒れを防ぐ。
肌をひきしめる。
皮膚にうるおいを与える。
皮膚の水分、油分を補い保つ。
皮膚の柔軟性を保つ。
皮膚を保護する。
皮膚の乾燥を防ぐ。
肌を柔らげる。
肌にはりを与える。
肌にツヤを与える。
肌を滑らかにする。
ひげを剃りやすくする。
ひげそり後の肌を整える。
あせもを防ぐ(打粉)。
日やけを防ぐ。
日やけによるシミ、ソバカスを防ぐ。
乾燥による小ジワを目立たなくする。
香り
芳香を与える。
――シワに効くとかだけじゃなくて、ニキビや汗疹に良い! とか断定してもダメなのよ。
口唇について。
口唇の荒れを防ぐ。
口唇のキメを整える。
口唇にうるおいを与える。
口唇をすこやかにする。
口唇を保護する。口唇の乾燥を防ぐ。
口唇の乾燥によるカサツキを防ぐ。
口唇を滑らかにする。
――効果を誇張してもいけないし、レビューをそのまま載せるのも危険なのよね。
注意事項について。
例えば、「補い保つ」は「補う」あるいは「保つ」との効能でも可とする。
「皮膚」と「肌」の使い分けは可とする。
( )内は、効能には含めないが、使用形態から考慮して、限定するものである。
――爪やオーラルケアについては、割愛で良いでしょう。
爪は逸脱しにくく、歯科衛生については、シンプルな歯磨き粉しか出回っておらず、未発達分野だ。フルールも手を出すつもりはなかった。
「化粧品に関しては、例えばこういった文言から逸脱しないように、などとルールを設けてしまうのもありだと思いますわ」
書き上げた用紙を、メイドに頼んでスルスとラフィネに渡してもらう。受け取った二人は、紙とフルールを見比べて驚いているらしい。仕草がそっくりで、似たもの夫婦なのだとまたほっこりする。
――偽広告も増えて、丸暗記したから、覚えてただけよ。
フルールは手拭きで清潔にした後、マドレーヌへと手を伸ばして食べる。しっとりとした食感に、蜂蜜の優しい甘さとバターの香ばしさが口の中に広がった。
――頭を使うと、糖分は摂取しないとね。




