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【三章開始】「好きにしていい」と言った旦那様、ただのコミュ力ゼロだった~念願のハンドメイドコスメをしちゃいますね~  作者: 松平 ちこ
三章

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第5話 一臣下に求めすぎな気もしますが、甘味に流されてます

「お待たせしてしまったわね。……あら、何か面白いことがあって?」


「ただいま、スルス。夫人が面白くてね。君が惚れ込むのも頷けると言うものだったよ」


「まぁ、ラフィネったら。それだけ言われると、とても気になって妬けてしまうわ。意地悪ね」


 ラフィネは出迎えてくれたスルスに抱きつくと、軽く口づけをしている。

 その距離の近さは非公式と言うこともあってだと、フルールは目線を反らして思い込むことにした。


 ――愛妻家アピールは要らない場面。さっきの様子から仕事だって出来る人よ、たぶん。


 通された場所は、先ほどとは別の庭園にあるガゼボ。四人分のティーセットと軽食がすでに並べられていた。

 さらに近くに控えていたメイドが、フルールにタオルを差し出してくる。


「ありがとう」


 タオルを受け取って、イヌサフランを触った時の手指の汚れに気づく。隣を見れば、ルゼルヴェも手を清めていた。


「紅茶とパート・ド・フリュイ、マドレーヌを用意したの。お口に合うと良いのだけれど」


「スルス様、ありがとうございます」


 フルールはスルスに礼を言いながら、テーブルを眺める。もっとも目を惹くのは、一口サイズのサイコロ状にカットされた砂糖菓子であるパート・ド・フリュイだろう。


 ――味が濃くて、しっかりとした弾力と滑らかさ、それにシャリっとしてるのよね。


 果実のジュースやピューレを主原料に、砂糖とペクチンで固めたものだ。表面にまぶされたグラニュー糖がキラキラと輝き、その見た目から食べる宝石とも称される。


 ――ゼリーやグミとは違う食感が、パクパク食べるものでもないけど、癖になるのよ。


 果実がそのまま反映された自然豊かな色彩が白い皿の上、テーブルに華やかさを演出していた。

 シンプルな材料ながら、繊細な作りでこだわれば奥が深く、フルールは今世では作れない。実物を見るのは、伯爵令嬢での夜会振りだった。


 ――前世なら、ペクチンが単体で売られてるから、まだ楽なのよね。


 果物に含まれる天然の凝固剤であるペクチンが要のため、前世で作るならば、ペクチンとグラニュー糖を混ぜ合わせておき、鍋にピューレ、水あめ、グラニュー糖の約半量を入れて沸騰をさせる。

 泡立て器で混ぜながら、混ぜ合わせたペクチンを少しずつ振り入れていく。


 ――この時に、一気に入れちゃってダマになるとダメなのよね。慎重に少しずつ加えるのがコツになるの。


 煮立ててペクチンをしっかり溶かしてから、残りのグラニュー糖を加えて混ぜ合わせ、再び沸騰させて煮詰めていく。


 ――煮詰め具合が、仕上がりの硬さを決定するのよね。


 煮詰めすぎると硬くなるし、不足すると固まらない。適切な濃度まで煮詰まったら火を止め、あらかじめ用意していたクエン酸を加える。

 最後は冷えて固まる前に、素早く型に流し込む。固まったら型から外し、好みの大きさや形に切り分けて、表面にグラニュー糖をまぶせば、パート・ド・フリュイの完成なのだ。


 ――今世にペクチンだけは無いし、そうなると料理人の技術と経験次第。王城のパート・ド・フリュイなら絶対、美味しいわ!


 フルールはそわりと逸る心を抑えて、ラフィネとスルスが手をつけるのを見届ける。

 アプリコットだろう濃い黄色を一つ摘み、口に入れた。

 鼻を突き抜けるような香りが口の中に広がるみたいで、果実の甘味が濃縮された味にうっとりと咀嚼する。


「――でね、夫人」


「……はい?」


 幸せを噛みしめていたフルールは、口許に手を当ててラフィネの言葉に答える。

 久しぶりの貴族向けの甘味に夢中で、話など全く頭に入ってきていなかった。


「化粧品についてのガイドラインを作る予定なんだけど、女性と男性では視点が違うだろう? 難航していてね。是非とも君の意見を取り入れたくて……」


「ラフィネがね。王妃様と私にも割り振ってくれたのだけど、議会を通すのだから貴族への説得、各関係者の納得の行くものにしなければでしょう。施行後の見直しを想定していても、最初が肝心じゃなくて? 貴女は知見が深そうだもの」


「……薬機法」


 フルールはパッと頭に浮かんだそれを、ボソリと口にする。前世に存在した化粧品や医薬部外品、医薬品、医療機器、再生医療等製品の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律だ。


 ――あれに当てはめたら、シャンプーやリンスのヘアケアも、ボディーソープもクリームも、歯磨き粉なんかも、全部、化粧品になるのよねぇ。


 薬機法上の「化粧品」とは、人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌ぼうを変え、又は皮膚若しくは毛髪を健やかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物で、人体に対する作用が緩和なものをいう。

 メイクで使う物以外にも、幅広く適応するのだ。


 ――この世界にはそんなもの無いから、効果についてはいつも、言葉を濁すようにして気をつけたものね。


 薬機法では、一般化粧品の広告で標ぼうできる効能、効果を五十六項目に限定している。

 この範囲を超えない程度であれば、言い換え表現も可能とされていて、販売員は最初にそこを指導されて覚える事も多い。


「――化粧品と限定するから、決めかねるのではありませんか? ならば医療関係との区別を明確にする為にも、全体的に見直せば良いのだと思いますわ」


 この国での新たな法整備のアドバイスとして、フルールはそう提案した。

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