第4話 旦那様、思いきりよすぎて……ドン引きです
「へぇ、面白いね。君はどんなモノにも価値を見出だすと?」
「それが、扱う者としての腕の見せ所ではありませんか。私、無駄は勿体なくて好きではありませんわ」
整えられた庭園を歩きながら、草花を見つめてフルールは答える。事業で扱う植物資源は最後、肥料として土に混ぜ混む。
道具に至っても壊れれば直し、可能な限り使い倒す。
――人も、建物も、そう。上が切り捨てるのは簡単だからこそ、それだけじゃいけないじゃない。リストラとか嫌いよ。
ルゼルヴェが許可を出した使用人たち、女性たちの何人かは、監督役の本邸の使用人と共に店舗で働いている。
別邸では料理人を中心に、簡単な製造と瓶詰め作業だ。オイルの抽出、配合は変わらずフルールが家で行っている。
男性の使用人は、領地へ散ってもらった。フルールの代わりに、領内の資源の調査である。それに合わせ、各地の素材の運搬、連絡係としても動いてもらっていた。
「なるほど。サントュールで事業を起こすに値するところはあるわけだね、ルゼルヴェ?」
「悪趣味だ。彼女をからかうな」
「失礼だなぁ。彼女に仕事を任せたら使えそうだと思ったのに……」
ラフィネは愉快そうに言う。その眼差しが、獲物を見つけた肉食獣のようで、フルールは視線を反らすために頭を下げた。
「せっかくのご厚意ありがとうございます、殿下。ですが、慎んでお断りいたしますわ。身体が幾つあっても足りませんの」
「いや、この続きはスルスも交えてしよう。夫人が彼女に誘われていた、本来のお茶会の誘いはそれも含まれていたからね。君が多忙なのであれば、時間を取らせたお詫びに用件をまとめて済ませてしまおう」
「ご心配には及びません。王太子妃様のお茶会は日程調整の後、きちんと登城させていただきますわ。納品の予定もありますので」
王族との貸し借りほど怖いものはない。好意の貰いすぎは恐ろしい。これにはフルールの方も断り文句があって、臆することなく返事を返せた。
――王太子妃様への納品、フィアビリテに任せっぱなしだもの。別に、嘘じゃないわ。
現状、フルールが家に籠る日に合わせて、フィアビリテが王都へ赴き、ルゼルヴェへ定期報告ついでに納品をしていた。
ルゼルヴェの手が空いていれば、登城の際に持ち込んでもらい。そうでなければ、フィアビリテが商人らしく出入りをしているらしい。
それを聞いた時はいくら数が少ないとはいってもと、フルールも驚いたものだ。
「君が直接、と言うことは新商品か何かかな?」
「女性同士の秘密ですわ」
そわりとした様子のラフィネを見て、フルールは営業スマイルで返した。リップスクラブとして以前渡したような品は、サプライズしてこそだろう。
――色恋や惚気、まして閨事の感想など聞く気は、全くないけどね。
くすりと笑って、フルールは庭園の一角に目を止めた。今居るのは、低木のエリアを抜けて草花のエリアだ。秋の花が愛らしく風に揺れている。
「――夫人?」
ルゼルヴェとラフィネの視線を感じながらも、フルールは気にせずそこへ足を向けた。ドレスなのも構わず、その場にしゃがみこむと手を伸ばす。
「ああ、やっぱり。薬用……では、ないわね。これもハーブと同じ扱い、として考えて良いのかしら? そうだとすると、ここにあって良いもの、なの……?」
そこに真っ直ぐ伸びて咲く葉のない紫の花、そのうちの一つを触り、根本を見、フルールは確かめるように全体を観察する。
――やっぱりこれ、毎年、注意喚起のニュースが流れてたやつよね?
知識外とまではいかないものの、専門外ではある。気になったものの、どう判断して良いか迷うところである。
「その花が、何か?」
「……旦那様」
「思ったことを言えばいい」
「あの……違う品種かも知れませんが、私の知る毒草とよく似ていたもので、気になったのです」
隣に膝を折ったルゼルヴェに、フルールは耳打ちをする。ラフィネの前で内緒話も不敬だが、直接訊ねるのもまた不敬だろう。
――最悪、これを植えた人が罰せられても困るわ。
「君は触っていたようだが?」
「口に入れなければ、良いのですわ。ただ口に入れると……」
ほいほい迂闊な真似をするなと、ルゼルヴェの目が非難の色を宿してフルールに訴えてくる。
それにフルールはツンとして、小声で返した。触って被れる品種なら、そもそも触ったりしていない。その辺り、信用してほしいものだった。
――前世、外国にはあえて毒草ばかりを集めた庭園だってあったわ。でも、今世では白粉のこともあるし……。
無知で植わっていて、本当に毒性があった場合、と言うのが気がかりだ。
ニュースでは、野草で間違えたり、家庭菜園で食用と間違えたりと言ったもので、どれも観賞用の庭園で起きたものではない。
――イヌサフランの球根を、ジャガイモやミョウガに間違えたり、サフランと間違えて香辛料にしたりって言うものだったわね。
他にもニンニク、玉ねぎとも間違いやすいらしい球根、その致死量はなかなか高いそうだ。
葉や花にも毒性があり、春に見られる葉は、ギョウジャニンニクやウルイに間違えられたり、花をサフランと間違えるケースも、本当に無いわけではないらしい。
――無知とはいえ白粉の方は採掘者はともかく、使用者には自業自得な部分もあった。けど、これは……。
考え込むフルールの横で、ルゼルヴェが表情を変えずに花の一本へ手を伸ばし、ズボリと根ごと引き抜いた。
「旦那様!?」
「気になるなら調べればいいだけだ。ラフィネ」
「それごと渡される僕も、どうしたら良いのかな」
ぎょっとするフルールを他所に、ルゼルヴェは後ろに居たラフィネに声をかける。
ラフィネは近くの護衛の騎士を呼びつけ、ルゼルヴェからイヌサフランに似た紫の花の株を受け取らせる。
「毒草らしいが、知っていたか?」
「知るわけないね。さて、故意なら問題だな。とりあえず、本当に毒性があるか調べてからだけど。夫人、含まれる物はどんな毒かな? 知ってる?」
「……経口摂取で、嘔吐、下痢、皮膚の知覚減退、呼吸困難ですわ。最悪死にいたります。ですが、薬として使える可能性もありますわ。
それと、似た花に無害な香辛料の物があります。なので庭師たちが間違えた可能性だってありますから……。いえ、そもそも私の記憶違いの可能性も……」
フルールの言葉を疑うことはせず、裏取り調査として進めるつもりのルゼルヴェとラフィネ。
聞かれたことにフルールは素直に答え、穏便にいくようにと切に願った。
ハーブの類いは前世と今世、名前から効能まで同じ物だった。有り難いと思ったが、イヌサフランについては違えば良いのにと正直に思ってしまう。
「それはそれは、薬草園での栽培が好ましい品種のようだね。早急に調べさせようか。夫人の言い分も、それで分かるから安心してくれるかな?」




