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【三章開始】「好きにしていい」と言った旦那様、ただのコミュ力ゼロだった~念願のハンドメイドコスメをしちゃいますね~  作者: 松平 ちこ
三章

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第2話 全員、自由すぎる……

「驚くもなにも、殿下から先日、召喚状をいただいていますので……。記憶にある新年の宴とは、大分違うように感じますが」


 本来、新年の宴とは、前世で言うところのお正月にある親族への挨拶詣りのようなものだ。


 ――規模が親族ではなく国単位、国内全貴族が対象という違いはあるけど。


 その新年を祝う宴という名の夜会で、化粧品に関する褒賞を行うとは異例も良いところではないだろうか。


 ――しかも、揃いも揃って変装して初対面って、似た者同士過ぎるでしょう!


 この国の王太子夫妻は、どうにもフットワークがおかしい。驚くなという方が無理があると思うのは、フルールがおかしいのか。


「あら。ラフィネったら、そんなに分かりやすいことをしていたの?」


「いいや? ちょっと遊んできたことは認めるけど、ルゼルヴェ以外には道中で誰にもバレなかったよ?」


「……王太子妃様は口調が。王太子殿下は仕草と言いますか、体格や身体の癖が出ておりましたので」


 頭を下げながら、フルールは進言する。レジのアルバイト時代に培った感性は、未だ健在だ。

 手足の状態、背格好、挙動、それらを観察し、年齢別ボタンを押す。混雑時など、顔をいちいち見ている暇もないからだ。


 ――しかもあれ、流れ作業で、酒やたばこに十代以下のボタンをうっかり押したら、後で大惨事なのよね。


 社会人として働きだしてからは、セルフレジが増えて羨ましく思ったものだ。その分、未払いや万引きも多いとは元バイト先で愚痴として聞いた。


「癖かぁ……あれ? 君とは夜会で何度かあっているけれど、サントュール領では気づいていなかったよね?」


「恐れ多くも、王族の方を間近で見る機会はあまりありませんもので……」


 昔を懐かしんでいれば、ラフィネにそう言われる。フルールとしては家族参加で夜会にも出席していたので、言いたいことは分かる。


 ――けどね。前世を思い出してから会うのは、まだ二度目なのよ。


 口許に微笑を浮かべてやり過ごしていれば、ラフィネの背後にルゼルヴェが居ないことにフルールは気がつく。

 どこへと視線を走らせれば、王太子妃が来てから存在を限りなく薄く、壁際へと控えていた女医の元だった。


 ――彼女には口止めしたし、多少は誤魔化せるでしょう。


 唇が動いているところを見るに、何を話しているのかは分からないが、会話の内容がフルールの診察結果だろうとは、容易に想像できた。女医の手元にはカルテがあったからだ。


「フルールは目が良いのね、観察力とでも言うのかしら? じゃあ、貴女にも分からないほどに磨き上げれば、変装は完璧ってことになるのかしら?」


「……スルス様、それは私には分不相応な評価ですわ」


 フルールはそう答えながら、チラチラとルゼルヴェを見る。話が気になるのではない。王太子夫妻の相手を変わってほしいからだ。


「癖……。騎士になりきるには、騎士をもっと模倣しろってことかぁ」


「そういうことでも、ないのですが……」


 ついついツッコミを入れてしまうのは、本当に不敬にならないだろうかと身構えてしまう。とはいえ、聞き流してしまっては、もっと事態がこじれてしまうと感じるフルールだ。


 ――遊び人とも聞かないし、やることをキチンとしてこれなのだとすると、凄い方たちなのでしょうけれど……。


 金髪の美男美女が、変装してお忍びすることについて本気で談議しているのだから、早くここから抜け出したいの一択である。可愛げのある悪巧みに、進んで参加したくはない。


「……足が痛むなら、ラフィネたちの前だろうと座ればいい」


「さすがに不敬ですわよ。それに旦那様、立っているだけで足は痛みません」


 愛想笑いに気づいたのか、ルゼルヴェがやっと来たと思えば、フルールへの第一声はそれだった。


 ――足は気にしていたものね。聞かれて困るものでもなかったけれど。


『骨がずれてくっついていますね。それと、ここを……触ってもらえれば分かると思うのですが、おそらく欠けた骨の破片かと思われます。左右のバランスの悪さも長時間の歩行で痛むのも、おそらくこのせいですね。それに……』


 片方は足の健を、片方は足の骨がと、女医は痛ましそうな顔をして言った。フルールの他の傷跡も診て、当時の重傷度合いを察したのだろう。口をつぐんでしまう。


 ――治癒魔法とか、あれば良かったのに無いものねぇ。


 実はかなり身構えていたのだが、既往歴を根掘り葉掘り聞かれるわけでもなく、ありがたいことに会社の健康診断のように現状を淡々と確認していくようなものだった。


『サントュール侯爵より、魔力量の測定も頼まれております。こちらの測定器に手を乗せて、魔力を流してもらっても良いでしょうか?』


 女医が差し出してきた石盤のようなものに手を乗せれば、ひんやりと冷たく感じた。

 さらにバキンと音を立てて、石盤が真っ二つに割れる。


『え――!?』


『……これ、魔力の流し方に決まりはあって?』


 驚き言葉を失う女医に、フルールは一応確認をする。生活魔法を使う要領で魔力を流したのだ。


 ――多くて壊れるは、異世界あるある……だったかしら?


 転生者特典とも言えるこの結果は、フルールにはちょっと解せない。


『いえ、ありません。この板は、魔力の質を測るものです。質と量は比例するというのが魔法の見解でありまして……。板は質に反応して色や温度など変化が表れるものなのですが、割れると言うのは……』


 ただ、魔力を全力で出して壊れるならいざ知らず少し触れただけで割れた。女医の反応から見ても、これは正常ではないのだろう。


『――説明できないのであれば、旦那様への報告は控えてもらえるかしら? 調べて分かった上で説明するのが道理だと思うの。割れた以外の報告ができない以上、憶測で語るものではないでしょう?』


『ですが……』


『ほら、王城の女医さんを捕まえて私情で診て欲しいと言う旦那様なの。余計な心配はかけたくないわ。それに旦那様って侯爵でもあらせられるでしょう? 推察や不適切な発言は、誰の益にもなり得ないと思うのよ。分かってくださらない?』


 嘘八百も良いところだが、真実を混ぜれば多少は見れるものになる。さらに困ったようにフルールが頬に手を当てて微笑を浮かべてみせた。


 ――政略結婚の、ビジネスライクな関係だけど、使えるものは使っておいて良いわよね。


『割れた事実を秘匿して欲しいのではないわ。貴女の上司や責任者には説明は必要でしょう? 今、旦那様の耳に入らなければ、それで良いの。原因が判明したら、旦那様へも報告をしてもらって構わないのだから、ね?』


 現実を受け止めきれず、青い顔をした女医はしばらく考え込んでから、フルールに押しきられる形で頷いてくれたのだった。

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