第1話 二度目ましての方々で、旦那様の影が薄くなる
三章突入です。一章から出てる新年の宴、ようやく実現なるか!?
ストックがないので、更新日時は引き続き不定期でお付き合いいただければと思います(´・ω・`)
「王太子妃殿下におかれまし――」
「ああもう、堅苦しいのは無しで! 押し掛けたのはこちらだし、非公式なのだから、ね?」
挨拶を遮られて、王太子妃にそう返されてしまっては、フルールはなんとも言えない。微妙な愛想笑いを返した。
「それに、スルスと呼んでくれないかしら。気軽に話せる友人が少なくて、ね?」
――王太子妃様、会うのは二度目なのですけれど? 距離が近すぎませんか?
フルールが今居る場所は、王城の医務室だ。さらに言うと、王城勤めの者が出入りする一般解放された場所ではなく、個室である。
『君に委ねていては、一生掛かっても機会が訪れない気がしてな』
王都に来てすぐ、ルゼルヴェによってそのまま連れてこられた。フルールが以前断ったと思っていた、医者に診せるを有言実行された形だった。
さらにルゼルヴェが居ては邪魔だろうと、彼は自主的にさっさと退室し、どこかへ消えてしまった。
――初見の王城敷地内で、しかも部外者なのに放置されて、目の前には王太子妃様……。
どうしてこうなったと、誰かに問いただしたいところである。いつもなら傍に居る護衛役のフィアビリテも、ルゼルヴェが居るのだから不要だと彼に休暇を言い渡されて、今は居ない。
心細いわけではないが、理不尽だと思っていた。
「ね、良いでしょう? サントュール侯爵夫人?」
「……でしたら、私のこともどうぞ、フルールとお呼びください。家名は、その馴染みがありませんので……」
診察終わり見計らったように現れたスルス。その上目遣いでおねだりする仕草は、少女のように可愛らしく、フルールにはとても真似出来ない芸当である。
代わりにスルスへ臣下の礼をとって、フルールはそつなく返答した。
「あら、今から慣れておいた方がいいのではないの?」
「公私は、別ですので……」
公の場で求められるなら、いくらでも侯爵夫人として対応しよう。出来ないことはない。それは、婚前の生家でも同じことだった。
――私であって、私ではないのよね。
フルールという個の名ではなく、家名で、さらに令嬢や夫人と呼ばれることは、前世以上に肩書きとしてでしか意味を持てなかった。これでは、慣れるはずもない。
「それもそうね。公式でもスルスと呼べるのは、ラフィネだけだもの」
困ったように顔を曇らせて、スルスは一応は納得したらしい。今のフルールよりも、よほどしがらみの多い生を歩んでいる女性なだけはあった。
――仲睦まじいのよね、確か。
前世の歴史よろしく、貴族の娘は今世でも道具扱いにされがちだ。けれど、目の前のスルスは王太子妃としてだけでなく、王太子であるラフィネと真に仲が良いらしいとはルゼルヴェからだ。
「王太子殿下と化粧品について、合同施策をされておられるのですよね」
「ええ、そうよ。私は、王妃様から頼まれたから。陛下に全権を委任されたラフィネと一緒にね。ほら、化粧品は女性の分野でしょう?」
「いえ、スルス様。メンズコスメや美容はありますよ。認知があまりないだけで」
「ええ!? ちょっとそこ詳しく教えてくださるかしら? 貴女のお店に取り扱いがあって?」
二人の恋路とは別のことを口にして、フルールがルゼルヴェから聞いたことを確認すると、齟齬がないことが分かった。
さらに美容の考えについてフルールが持論として話せば、驚いたスルスがぐいぐいと身を乗り出してきた。
「……高貴な方々は元々、清潔感を大切にしておられるので、今も別に、おかしなことではありませんよ?」
「そうかしら。それでも女性よりは手間暇をかけてはいないでしょう?」
王太子を知らないフルールは、世間一般的な男性を思い浮かべて答える。
平民は身なりなどにはこだわらないが、貴族は違う。綺麗は、一種のステータスだった。が、スルスはいまいちピンとこないらしい。
「男性は清涼感、爽快感多めの物が好まれますので、ミントや塩を多めに使った石鹸やシャンプー、簡易リンスの需要は、当店でもありますし。
髭を剃ることを始めとした肌荒れ対策などにも軟膏だけでなく、洗顔、化粧水、保湿などの使用は望ましいのですわ」
髭を剃ることによる肌へのダメージ、水分、油分不足による乾燥のダメージ、気になるならば、肌への気遣いをすればグッと抑えれるとフルールは思っていた。
――蜂蜜に、抗菌作用があるのも有名だし。
メンズ用品は、今ある商品でも十分に確立することは可能だ。メンズの分野の方も、スルスが意外に感じるのであれば、今世でもやってみるのはありかもしれないとフルールは思った。
「あ! 男性と言えば、そうね。粉を巡って争いが起きていたわね」
「え? 争いが……?」
「ほら、足に振って使うって貴女が数ヵ月前に売りに出したやつよ。最初は数が少なくて、取り合いになっていたらしいわよ。面白いでしょ?」
「ああ、フットパウダーですね……」
フィアビリテが興奮していたのを、フルールは思い出して遠い目になる。
あの頃は夏で、今はもう秋の終わりだ。もうずいぶんと前なのに、つい最近のように錯覚してしまうのは、フルールが慌ただしく動いていたせいだろうか。
「あれぇ? スルス、また君は……」
「あら、ラフィネ。夫人が来るのに内緒にされてたんじゃ、私だって拗ねてしまうわよ?」
またしても突然と現れた来訪者に、フルールは半ば呆然とする。
その後ろ、ルゼルヴェが居るのに気づいて、なるほど彼が姿を消したのはそちらに行っていたからかと納得する。
「……この間の、騎士様? え、王太子殿下?」
「やぁ、夫人。久しぶりだね。改めまして、ラフィネ・エグジュベラン。この国の王太子を務めているよ。ああ、非公式だからね。楽にしてて」
ルゼルヴェを一瞥して、先頭に立つ青年を見ると、フルールには見覚えがあった。
身なりはかなり違うが、体格と振る舞い、仕草などで、先日、サントュール前侯爵夫人の件で協力してもらった騎士と同一人物だと気づいたのだ。
「ルゼルヴェが女医にこだわるからさぁ、ここの顔聞きしたんだよね。執務の休憩ついでに、僕も顔見せもしとこうかと思ってね。ほら、新年の宴で夫人を驚かせるのも酷だろう?」
爽やかに笑うラフィネは、フルールが何から突っ込んで良いのか分からなくなることをさらりと言ってのけた。




