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言無しの魔女  作者: ま行


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アウレリア王国へ

 マールリアで、シズナは定期的に手紙を魔法で鳥に変えて飛ばしていた。その手紙の鳥の宛先は、シズナの師匠アルベールであった。それは活動報告と生存確認を兼ねた事前の取り決めでもあった。


「古い伝承の真実に、流れ着いた伝説の船、あげくに再び出現した大災厄のドラゴン、リヴァイアサンの討伐か。一筋縄じゃいかないとは思っていたが、初っ端から大冒険してんなあ、あいつら」


 アルベールは呆れてため息をついたが、その口元は笑っていた。シズナとテオ、二人の活躍を知ってそのことを自慢に思っていたからだ。


「さてと。次の目的地を指示してやらないとな」


 予め用意していた二通の手紙を取り出すと、アルベールは順に杖を差し向けた。すると一つは鷲の姿に変わり、もう一つは蝶の姿に変わった。それぞれ目的地に向けて飛び立つのを見送ると、アルベールは「頑張れよ」と呟いた。




 シズナたちの元に、一羽の鷲が飛んできた。あまりの大きさと迫力に驚くテオだったが、シズナの方は冷静に鷲を迎え入れた。すると先程の大きく雄々しい鷲の姿が、信じられないほど小さな手紙に変化した。


「もしかしてこれ、大師匠様ですか?」

『師匠、派手好きだから』


 呆れ顔でシズナがかさかさと手紙を広げると、テオは一緒にそれを覗き込んだ。その手紙には、次の目的地と担当する賢者について書かれていた。


「二人とも元気そうでなによりだ。無茶苦茶やっているみたいで大変結構。その調子で頼むぞ。次にお前たちに向かってもらうのは、アウレリア王国だ。四代魔法学校の一つ、セレスティア魔法学園がある由緒正しいお硬い国だ。そこでお前たちを待ってるのは八賢者の一人、穿光の魔法使いローレンスだ。ローレンスはアウレリア王国抱えの宮廷魔法使いでな。堅苦しくてクソ真面目で融通は利かないが、根はいい奴だと思う。多分な。てことで今回は王城に行く機会があるかもしれん。シズナは心配ないが、テオはその手の作法に疎いだろ。シズナは師匠として、ちゃんと教えてやるように。以上」


 内容を読み終えた二人は顔を上げると、次に見合わせた。先に話を始めたのはテオの方だった。


「アウレリア王国のことも気になるんですが、この宮廷魔法使いって何ですか?」


 それはテオでなくとも、普通の魔法使いにもあまり縁のない役職である。シズナにその知識があるのも、彼女の生まれに起因するものだった。


『宮廷魔法使いは、国王に仕える魔法使いのことだね。国王や政治に携わる人たちに魔法使いとしての知識と経験で助言をしたり、時には国王の命令で魔法に関する政策の中心に据えられることもあるよ』

「ええとつまり…その国の、魔法の専門家みたいなものですか?」

『その認識で間違いはないよ。国によって与えられる権限は様々だけど、魔法の力と知識で国王を補佐する人ってことに変わりはないからね』

「魔法使いには本当に色々あるんですね」


 シズナと出会うまでは、テオの関わったことがある魔法使いの殆どが下役のものであり、敵として魔導監察庁執行部の鴉などの重要な役職に就く魔法使いを見たことはあったが、国の重要人物と言われてもまったく馴染みがないものだった。


 思い返してみても、シズナは父親から捨てられた後に旅人となり、アルベールは足を失ってからは生粋の自由人を謳歌、ルグルは国の重要人物ではあったが、政治との関わり合いは非常に薄かった。


 つまりローレンスは、テオにとって初めて会う、国の中枢で重要な役職に就いている魔法使いということである。宮廷魔法使いという仰々しい肩書も緊張感を煽った。


「それでお師さん。アウレリア王国へはどうやって向かいますか?」

『転移魔法を使ってもいいんだけど、アウレリア王国と周辺の支配地域は厳格な規定があって近づくのも難しいんだよね。だから別の移動方法を使おう』

「別の移動方法?」


 自慢げに笑顔を浮かべるシズナを見て、テオはさっきまでの不安な気持ちが期待に変わった。




 別の移動方法を提案したシズナがテオを連れてきたのは、多くの列車が忙しく出入りをしている大きな駅であった。生まれて初めて見る光景に、テオはしきりに辺りを見回した。


「すげーっ!!何ですかこれ!?」

『マナトレインって言ってね、内環の主要国を繋いだ線路を走る乗り物なんだよ。内環諸国では海路が使えないのは、マールリアを実際に見てきて分かったよね?一度に大人数を運べる海路が使えないとなると、別の方法が必要になる。ただし転移魔法は規制が必須、だけど移動手段がないと不便。そこで内環の主要国で共同開発されたのが、このマナトレインなんだ』


 マナトレインは、マナをエネルギーに線路を走る列車である。素早い長距離の移動が可能で、人だけでなく物資の輸送などにも幅広く利用されている。


「あれ?でもお師さん。俺は以前、アルドラでマナライナーって空を飛ぶ乗り物にメグさんと乗ったんですけど、移動手段としてはあっちの方が便利なんじゃないですか?」

『確かに空の方が遮るものもないし便利は便利だけど、マナライナーは長距離の移動に向いてないんだ。エネルギーの方は問題ないんだけど、乗り物を繋ぐラインを結ぶのと維持するのが難しいの。それとやっぱり、国家の防空の観点でも、空にラインを繋ぐのはリスクがあるからね』

「防空…」


 テオにとっては防空という言葉や意味に馴染みがなく、その重要性に理解は及ばなかった。内環諸国の大国に今のところ大きな軋轢はないが、それは現状国力が拮抗しているから保たれているバランスで、どこか一つでも綻びが生じれば均衡は容易く崩れてしまう。


 そもそも陸路を線路で繋いでいるだけでも奇跡的なことかもしれないと、シズナはそう考えていた。少なくとも実父の国王ジュリウスは野心家で、そのことを隠そうともしていない。彼女の目に映った父は、常に目の前のものなど見てもいなかった。


「あっ!来ました来ました!お師さん、あれに乗るんですよね!?」

『うん、そうだよ。危ないから下がってようね』


 はしゃぐテオの姿を見て、シズナはハッと我に返った。父親のことを考えるだけでシズナの心の内にはどす黒い感情が浮かぶ。そんな陰鬱な気分を吹き飛ばしてくれるのはいつもテオだった。


 師匠として、弟子に恥ずべき姿を見せてはいけない。シズナにとってテオは、ただの弟子という関係だけでなく、癒しでもあり戒めでもあった。




 車窓の勢いよく変わりゆく景色を眺めながら、テオは「ほー」や「はー」や「へー」とずっと声を上げていた。その楽しそうな様子を見て、シズナも思わず微笑んでいた。


「すごい…本当に速いですね、このマナトレインって」

『利便性をとことん追及して作られたからね。移動速度は空間魔法のことを考えると、どれだけ速くても追いつけないから』

「使い手によって距離の制約はありますけど、一瞬で移動出来ますからね。そう考えると、大師匠様の魔法ってとんでもないですね」

『事情が特殊過ぎて単純な比較は出来ないけどね』


 それから暫く、会話や車窓の景色を楽しんでいたテオだったが、ハッと思い出したようにシズナに話を切り出した。


「そういえばお師さん。自分が使っている杖が話しかけてくるってことって、普通にあることなんですか?」

『話しかけてくる?』

「はい。俺にもよく分かってなくて、夢の中?の話なんですけど…」


 テオはマールリアでリヴァイアサン討伐後に見た夢の話をシズナに詳しく説明した。話を聞き進めるほどに、シズナは困惑した表情で首を傾げた。


『杖には命が宿るって話だけど、実際に語りかけてくるなんて話は聞いたことがないな。私が杖に馴染みがないからかもしれないけど、本で読んだことも他の人からそういう話を聞いたこともない、と思う。ちょっと自信がないな』

「お師さんでも聞いたことがないとなると、やっぱり異常事態なんでしょうか?この杖を使うのは、控えた方がいいのかな…」

『そう判断するのも早計過ぎるよ。一番はクウガイ様に連絡が取れるといいんだけど、どう?』

「一度ハワード様を経由しないと直接は無理だと思います」

『じゃあアウレリア王国に着いたらそれもやろう。だけど、もしかしたらローレンスさんの知恵を借りれるかもしれないよ』


 アウレリア王国にある魔法学校、セレスティア魔法学園には、他の学校にはない特殊な教育課程があった。それは杖職人の見習いを教育するものだ。そこでの知識を得られれば、テオの杖に起こった奇妙な出来事の理由が分かるかもしれない。シズナはそう説明をした。


 二人を乗せたマナトレインはアウレリア王国へ向かって走る。旅の目的に、テオの杖のことが加わった。次の国ではどんな出来事が待っているのか、二人の胸には期待と不安が入り混じっていた。

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