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言無しの魔女  作者: ま行


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賢人会議

 アルベール主導の元、八賢者は一所に集められた。賢人会議とは八賢者に定められた義務であり、拒むことは出来ない。


 八賢者の半数の賛同が得られると開催出来るもので、主な目的は魔法界の頂点の監視者として、世界の均衡の乱れや魔法の悪用などを防ぐことなど、魔法に関する総意を賢者たちが話し合いで決める場である。


 強大な権力を持つジュリウスであっても、この場で好き勝手なことをすることは許されない。目的のシズナは目の前だが、黙って席につかざるをえなかった。


「これが話だけは聞いたことのある賢人会議の場所なんだな。こんな機会も初めてでワクワクするぜ!オレはルグル、廻水かいすいの魔法使い、ルグルだ。よろしく!」


 青色の髪に小麦色に焼けた肌、いかにも快活な気風の快男児は、廻水の二つ名を持つルグルという魔法使いだった。気さくに上げた左腕は肩から先が失われていて、義手が装着されている。


「いいねルグル。まず必要なのは自己紹介だ。僕たちはお互いのことを殆ど知らないからね。僕は嵐楽らんがくの魔女フゥリアだ」


 常磐色のベリーショートの髪の女性はフゥリア、嵐楽の魔女である。愛らしさと美しさが同居する外見も特徴的だが、最も目を引くのは、敢えて見せつけている特殊な形状の義耳である。


「僕が面識があるのは、今回八賢者を招集するために動いたアルベールと彼だ」


 フゥリアが手で指し示した先にいた男性は、出番が回ってきたとわざわざ起立した。


「私は穿光せんこうの魔法使いの名をいただいたローレンス。今回の賢人会議が有意義なものになることを願っている」


 紳士然とした態度と振る舞いを崩すことなく、短くもきっちりと挨拶をした初老の男性。ローレンスは金色の髪をかっちりとオールバックにしていて、年齢より若々しく見えた。左右で目の色が違うのは、片方が義眼なためである。


「え、えっと、じゃ、じゃあ次はリリスが、リリスが自己紹介するね。リ、リリスは、あ、あ、悪食あくじきの魔女だよ。よ、よろしく、ね?ね?」


 うねるようにウェーブがかかった漆黒の長髪が特徴的な女性は、自らをリリスと名乗った。目は殆ど前髪で覆われているが、時折妖しく輝く銀色の瞳が見え隠れする。笑みを浮かべると、異常に鋭く尖った牙が覗いた。


「貴様リリスと言ったな?もっとハキハキと喋らんか。声量も小さく聞き取りにくい。自分が手本を見せてやる」

「ひぇっ…」

「自分の名はメテル!甲纏こうまといの魔女!よろしく頼む!以上っ!!」


 堂々たる態度で潔く挨拶をしたのは甲纏いの魔女メテル。橙色のボブヘアをした美女だが、キリッとつり上がった眉と大きな目、そしてむすっと結ばれた唇のせいで常に怒っている表情に見える。それは彼女を見る人に、覇気よりも怒気を感じさせた。


 こうして自己紹介の流れが自然に出来上がったが、ジュリウスは腕を組んだまま動こうとしなかった。突然のアルベールの介入に大いに気分を害され、協調性の欠片も見せようとしない。しかし当のアルベールは、そんなジュリウスのことを無視して話を先に進めた。


「はい、皆ありがとさん。ご存知俺様は無辺むへんの魔法使いアルベール。で、そっちの態度の悪いおっさんが炎神えんじんの魔法使いジュリウスで、こっちの生まれつき話すことが出来ない子が言無しの魔女のシズナだ。シズナの手話は俺様が通訳するから会議に支障は出ない。これで互いの名前は一応分かったな。じゃ本題に入るが、異議のある奴はいるか?」


 誰からも反対する声が上がらなかったことを確認してから、アルベールはよしと頷いた。




「俺様が賢人会議を開催した理由は、昨今の魔法使いの質と実力の低下と、素行悪化を憂慮しているからだ。国に身を置く賢者なら、心当たりがあるんじゃないか?」


 アルベールが述べた意見に、フゥリアが挙手をして賛成した。


「僕もまったく同じことを考えていた。正直、今の内環諸国の内情は見るに堪えないよ。マナという絶対的な力に権力者はあぐらをかくばかりで、責任ある行動を取ろうとしない。由々しき事態だと思う」


 次にアルベールとフゥリアの意見に対立するものが現れた。ルグルである。


「そうか?オレの知ってる魔法使いは皆いい奴だし、何か悪いことしてるってのもみたことねえぞ」

「そりゃ一部だけを見ればな?俺様は全体的な質の低下の話をしてるんだ。幸いこの足のお陰で、俺様は世界中を自由に見て回ることが出来るからな。俺様はずっと、賢人会議にこの議題を上げるための調査を行ってたんだ。最近はちょっと別のこともしてたがな。とにかくずっと問題だと思ってた訳よ」

「うーんそうか。確かにオレは地元から全然離れられないからなあ。そう言われると弱いなあ。無辺の魔法って《《どんなに距離が離れた場所でも一瞬で移動出来る》》んだろ?便利だよなあ」


 話が脱線しかけたところで、次に手を上げたものがいた。ローレンスはスッと姿勢良く立ち上がる。


「私はアウレリア王国に仕える身、だからアルベール殿の言に耳の痛いことも確かにある。しかし素行の悪い魔法使いというのは、あくまでも末端に集中しているはずだ。四大魔法学校に所属している魔法使いたちに、君の言うような行動を取るものは見受けられないと思うが、どうか?」

「リ、リ、リリスもそう思う。こ、こ、黒曜の尖塔の人たち、み、み、皆いい人」


 リリスは黒曜の尖塔に所属しており、ノクディシアを代表する魔女でもある。賢者の中でもジュリウスに次いで魔法学校の内情に精通していた。


「だが言い訳が出来ないこともあるぞ。無辺が言った通り、最近の魔法使いたちの体たらくぶりは目に余る。自分も全体的な質の低下は問題だと感じるぞ」


 メテルは素行悪化に言及しなかったものの、質の低下の問題は賛成に回った。これは増えすぎた末端の魔法使いたちの面倒を見きれないという、メテルの意思表示でもあった。


「金儲けなどと下らない目的のために、粗製魔法使いを量産するような学校を作るからいかんのだ。四大魔法学校の門戸をもっと広く開かんか。さすれば質の低下も自ずと解消されよう」

「馬鹿馬鹿しい」

「何だと貴様」


 ジュリウスは賢人会議が始まって以来、メテルの発言でようやく口を開いた。


「民に金を使わせ、経済を回すことは国の重要な役割だ。確かに四大魔法学校以外の学校の教育は底質だが、それでも魔法を学ぶ環境は十分に整えられている。結局は本人のやる気と覚悟次第だ。そも本物の魔法使いになりたければ、四大魔法学校以外を選ばなければいいだけのこと。安易な妥協をして底質な道を選んだ者の責任など、どうでもいいことだ」

「しかしだな…」

「四大魔法学校が潤沢に研究費と資源を使えるのは、養分となり金を払う粗製魔法使いの授業料が資金の一部を担っている。そして格差なく学びの門戸を大きく開けば、それこそ質の低下を招くだろう。選ばれた存在であるという自負と誇りが、優秀な魔法使いの育成に繋がるのだ」

「むぅ…」


 メテルはジュリウスの言に丸め込まれて黙った。そこで代わりに前に出てのはアルベールだった。


「ご高説をどうも。あんたの言うことにも一理ある。だけどやっぱり詭弁だな」

「ほう?」

「下に目を向けないあんたには分からねえことだが、現在人材の外環流出の機運が高まっている。内環に愛想尽かした魔法使いたちが、外環に流れてるんだよ。こいつは人のことを金づるだとか、使い捨ての駒としか見てこなかったお偉方の罪だ。魔法の使い方をちゃんと教えてこなかった。そのツケが回ってきてんだよ」

「それこそ詭弁だな。外環に流れた魔法使いが一体何の役に立つ。外環に渡るマナの量は内環で調整されていて、向こうで使用可能なマナなど微々たるものだ。そしてマナのない魔法使いなど、言わずもがな役立たずだ。それに今まで一度たりとも外環の騒乱が内環をおびやかしたことはない。それこそ先に上がった粗製魔法使いだけで相手して事足りるのだ。貴様はこれがどう脅威になりうると言う気だ?」


 内環と外環の国力差はジュリウスの語る通りであり、流石にアルベールの意見に追随して同意をする者はいなかった。八賢者でさえ、非魔法使い以下の外環の国と人々のことを見下してしまっている。それは事実と歴史上の確執がそうさせてしまっていた。


 ここでようやく挙手をしたのがシズナだった。アルベールが手話を見てから、シズナの言葉を口にする。


『外環諸国の限られた環境だからこそ、新しく生まれる技術があるのではないか』


 その言葉は、八賢者全員に密かに刺さるものであった。そして指摘した可能性を否定出来るものはいなかった。ジュリウスでさえもだ。彼はシズナという例外の中の例外をその目で見て欲していた。否定出来るはずもない。


 外環に渡るマナはごく少量に調整されているが、皆無ではない。言葉を持たぬシズナが魔法を使えるようになるのは、本来ありえないことだった。しかしシズナはそれを可能にした。


 ここで更に重要なことは、シズナが四大魔法学校とは一切関わりを持たず、その偉業を成したことにある。高等な教育を受けずとも、技術革新は起こりうる。体現者の言は説得力に富んでいた。


「なるほどね。ならば僕もシズナの意見に賛成だ。それとやっぱり、魔法使いの質の低下には手を打つべきだと思う」


 フゥリアが口火を切ると、次々に賛同する意見が上がった。


「オレもそう言われると何かするべきだとは思うけどよ。実際何が出来るんだ?」

「私は国王陛下に具申し、セレスティア魔法学園に問題解消に向けた議論を行うように掛け合うとしよう」

「リ、リ、リ、リリスも、み、み、皆に話してみようかな…」

「自分は大国同士のいざこざが気に食わん。だからそちらに介入するつもりはないが、魔法使いの外環流出を防ぐ策はある」


 ジュリウスは何も言わずため息だけをついた。この会議に連れてこられた時点で、彼の目的は達せられず、アルベールに負けたも同然であった。もはや決定されることを聞くだけの、退屈な時間が過ぎるのを待つだけだった。


 満を持して身を乗り出したのはアルベールだった。一連の流れのお陰で、賢人会議を開催した真の目的と要求を通す目処が立った。


「賢者がそれぞれに行動を起こしてもらうのは当然だが、俺様から一つ提案があるんだ。それはな―」


 その提案にシズナは驚き、ジュリウスはその場で態度に出さなかったが激怒した。しかしもはやジュリウス一人の意思ではどうすることも出来ず、アルベールの提案は八賢者の総意として受理されることとなった。

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