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言無しの魔女  作者: ま行


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一時の帰郷

 自分だけの杖を手に入れる。大師匠アルベールからそう指示されたテオは、杖に用いるための木材を探すことになった。しかし彼にはもう、これと決めていたものがあった。それを取りに行くため、テオは懐かしい場所を訪れた。


「おお!テオ!テオじゃないか!」

「久しぶり!村長、皆も!」


 テオはメグの力を借りて、転移魔法で故郷のドラン村を訪れていた。半年ぶりの再会に、テオも村人たちも大いに喜びあった。


「何だ何だ?帰って来るのが早すぎやしないか?ええ?」

「そう言わないでよ。別に里心が付いただけで戻った訳じゃあないんだからさ」

「あら、それじゃあ寂しくなかったって言うの?」

「いやそれは…。正直言うとすごく寂しかったし、今皆に会えてすごく嬉しいよ!」

「わっはっは!!それが当たり前だテオ!!…うぅ、無事で良かったなあ」

「ちょっと泣かないでよ。俺も泣きそうになるでしょ」


 テオと村人たちはひとしきり再会を喜び合い、互いのことを話した。しかしそれを続けていると、どちらも話題が尽きることがない。ドラン村の村長、サンチョが機を見て別の話題を切り出した。


「ところでテオ、一緒にいらしたあちらの女性は?シズナさんはどうしたのかね?」

「あっ、そ、そうだった。ごめんなさいメグさん。ご紹介するのが遅れてしまって」

「構わねえって、あんたにとってここの人たちは家族も同然なんだろ?ならあたしは当然後回しだ」


 メグはそう言ってニカッと歯を見せた。その心意気と久しぶりの帰郷も相まって、テオは目頭がじんと熱くなった。しかしぐっとこらえて、村人たちにメグを紹介する。


「こちらは今お世話になっているメグさん。お師さんのご友人で、色々と面倒を見てくれてるんだ」

「どもーはじめまして。面倒見てやってるメグです。あ、本名はマーガレットだけど、メグの方が気に入ってるからそっちで呼んでください。それとシズナのことはご心配なく。ちょっとどうしても外せない所用で、頼まれてあたしが代理みたいなもんをしてるんです」


 気安すぎる態度だったが、それが逆に村人の親しみを呼んだ。村人同士、家族同然の繋がりある分、形式張っていたり威張った態度を取られるよりも、気さくな方がドラン村の風土に合っていたからだ。


 ドラン村も辺鄙な場所にあるが、魔守りの里はもっと辺鄙な場所にあり、隔絶されていると言える。境遇が似通っていたことも、気に入られたことの理由の一つだ。


 結果として、メグはあっという間にドラン村の村人たちと馴染んだ。大多数の村人の興味が新しい客人に向いたことで、テオはやっと自分の話を進めることが出来た。


「魔蓄樹が欲しい?」

「ええ、ハワード様…ああえっと、今お世話になっている方です。その方から、ドラン村の魔蓄樹の話を聞いて。それで俺、実は自分専用の杖を作ることになったんです。だからその材料に、この村の木材をぜひ使いたくて」


 テオとしては、それしか考えられないという選択だった。しかしサンチョは、ばつが悪そうにした。


「それは勿論、好きなだけ持っていけ。と、言いたいところなのだが。儂らは魔蓄樹の管理を行っているだけで、その後の差配についてはオルラン様が直々に取り計らっておる。勝手にする訳にはいかんのだ」

「じゃあオルラン様から買い付ければ…」

「いや、それも難しいだろう。オルラン様はあくまでも仲介人。魔蓄樹の取引を円滑にするための調整をしておるに過ぎん。オルラン様が個人に売ることが出来る権限がない」

「そう…ですか…」


 あからさまにしょんぼりとするテオを見て、サンチョはそれを悟られないようにしながら笑みを浮かべた。旅に出て少し見ない内に、テオの雰囲気は一気に大人びたものになっていた。


 そのことに成長を感じて嬉しくも思ったが、同時にもう自分たちの知る少年はいないのだと寂しさも感じていた。しかし、こうして年相応の反応を見せるところに、勝手ながらも安心感を覚えたのだ。


「まあそうがっかりするな。確かに村の管理物を好きにする権利はないが、お前個人の所有物ならば口出しする権限はない。お前次第だが、儂に考えがある」


 テオは歓喜して首を上げると同時に、個人の所有物という言葉に首を傾げた。個人の所有物に、心当たりがまったくなかったからである。




 サンチョに連れられて訪れた場所、そしてそこにあるものを見て、テオにも言いたいことがやっと理解出来た。テオの父が作ってくれたブランコが吊るされた木。それが手つかずのまま残されている。


「この木だけは村のものではなく、お前の両親のもの、そして彼らが亡くなったことで、お前が相続したものだ。この木ならば自由にしても文句はない。流石にお伺いを立てる必要はあるが、オルラン様は道理を弁えている御方だ。きっと心配には及ばないだろう」


 テオの両親が、彼に遺してくれた財産は決して多くなかった。むしろ一人になってからの方が苦労は多かった。それでも自分が一番必要としている時に、この木を遺してくれたことは、間違いなく両親からの愛の形であると思った。


 そっと木に触れて、テオは額を固い樹皮に押し当てた。言葉にしても両親にそれは伝わらない。だから態度で敬愛を示した。思い入れのある大切な木だが、無くなったとしても思い出はいつまでも心に残る。テオは愛おしげに小さなブランコに目配せをしてから、サンチョに向き直った。


「この木が必要です。村長、お願いしてもいいですか?」

「分かった。すぐにオルラン様に確認を取る。返事はそう待たずに済むだろう。それまで久しぶりに村でゆっくりとしていきなさい、テオ」

「はい!ありがとうございます!」


 テオの心も表情も、とても晴れやかなものであった。この木から杖を作ることが出来れば、両親のこともずっと側に感じることが出来る。そして自らの成長を、一番近くで見ていてもらうことも出来ると、そう思えた。




 ドラン村は、一時的なものだがテオの帰郷を喜び、総出でお祭り騒ぎの宴が催された。楽しく語らい、お腹いっぱいにご馳走を食べ、皆で飲めや歌えやの大騒ぎであった。村人たちの笑顔に囲まれたテオは、とても幸福で満ち足りていた。


 これらはすべて、テオのために催されたものである。メグは祭りに参加しながら、テオがどれだけ村人から好かれているのかを実感していた。そうさせるだけの人徳が彼にはあるのだと、まだ付き合いの浅い彼女でもそれが肌で感じ取れた。


 しかしこの賑わいを取り戻した一番の功労者は、この場にいないシズナであった。魔法使いの横暴に耐える選択をしたドラン村では、このような宴の席が催される時は、本来やりたくもない接待を強要されてのものだった。


 不正を働いていた魔法使いがいなくなったからこそ、村人たちは心の底から宴を楽しめるようになった。小さな村の些細な解放であったかもしれないが、これは間違いなく、シズナの善行を示す足跡の一つだった。


 宴が終わると、テオとメグは村長宅に宿泊させてもらうことになった。テオの家は山林の管理に適しているため、一時的にオルランに借り上げられていた。木こりの仕事をするための場所であったため、それは妥当な判断であった。家がなくなる訳ではないので、後からの報告ではあったがテオは快く承諾した。


 歓迎の熱が冷めきらないテオは、中々寝付くことが出来なかった。外に出て、夜風に当たりながら祭りの後の静けさの中に身を置くと、徐々にその熱も冷めていくような気がした。


「テオ」


 声をかけられて振り返ると、そこにはメグがいた。テオの隣に腰を下ろした彼女は、宴を思い返して目を細めた。


「いい村だな。それにいい人たちばかりだ。気に入ったぜ、お前の故郷」

「ありがとうございます。そう言ってもらえると、すごく嬉しいです」

「なあテオ。こんなこと聞くのは野暮ってのは分かってるんだが、それでもあたしは気になると聞きたくて仕方ない質でな。聞いてもいいか?」

「ええ。何ですか?」

「ここは僻地だし、不自由も一杯あったと思う。魔法使いの件もそうだが、生活の不便だって切り離せないだろう。でもここには、確かな幸せがある。あたしはそう感じた。それでもやっぱり、テオにとって《《魔法使いは無視することが出来ない夢》》なのか?」


 メグの問いかけの後、暫し沈黙が続いた。それは宴の喧騒との差もあって、どこか刺々しくも感じられた。何故すぐに答えられないのか、テオにも分からなかった。


「…正直に言って、それだけの価値があるのかは分かりません。でも俺の夢はまだ道半ばだし、目指すべき場所も定かじゃない。ふらふらと浮ついた目標だなと、自分でもそう思います。でも」

「でも?」

「お師さんに付いて行ったことを、一度たりとも後悔したことはありません。それだけは、胸を張って間違いないと言えるんです。今はまだ俺はお師さんの後ろを付いて歩くだけだけど、いつか隣に立って歩きたい。そのためにも、魔法使いになることは俺の夢なんです」


 テオの言葉に、メグは一言「そうか」と呟くだけだった。衝動に突き動かされるままにひた走る彼のことを、メグは「応援してるよ」ともう一言呟くのだった。

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