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言無しの魔女  作者: ま行


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テオの修行 その2

 魔守りの里に戻り、テオを見送ったメグ。その背後から手が伸びてきてメグの肩を叩いた。油断はしていなかったはずなのに、いつの間にか背後を取られたと、メグは飛び退いて即座に槍を構えた。


 だがそこにいた人物を見て、メグはすぐさま構えを解いた。そして呆れと怒りが混じった表情で、唇を尖らせた。


「あのなアルベール。あたしの背後を取れるとしたらあんたか爺ちゃんだけど、取られると腹が立つし、手が出ねえとも限らねえんだからな」

「悪い悪い。万が一でもテオのやつに気取られたくなくてな」


 アルベールはペコペコとわざとらしく頭を下げてそうメグに言った。仕草は胡散臭いが、他に意図がないことは、不思議だがメグには言われずともそれが分かった。


「気取れるもんかよ、テオはまだまだひよっこだぞ。特にあんたのことなんか分かるわけない」

「…いや、それが存外そうでもない気がしてきたんだ」

「はあ?いや流石にそれは…」

「今日、俺様はお前に頼んでテオをアルドラに連れて行かせただろ?それとお前を通じてテオとの会話も聞かせてもらった。それで分かったんだ。テオの奴、案外鋭いだけじゃなく柔軟な思考も出来やがる。俺様は田舎モンが初めて見た都会でアホみたいに口を開けっ放しにする姿を期待してたのによお」


 メグはアルベールの悪趣味さにほとほと呆れていた。頭を振って話を続ける。


「で、建前はそれくらいにして、本当のところテオのことをどう思ったんだ?」


 アルベールがテオが都会に浮かれることを期待していたのは間違いなかった。シズナとの旅では見られない景色を見て、きっとそれに圧倒されるだろうと考えていた。だがしかし、ちゃんと別の思惑もあった。それはアルベールの予想からは大きく外れていた。


「俺様はな、もう何度かお前にテオを外に連れ出してもらうつもりだったんだ。あいつの世間知らずは外の世界に触れる機会が少なく、限定的なものだったからだ。それは全然悪いことじゃねえ。正しいことをしたいって漠然とした目標も、個人的には好きな部類だ。あいつは若い。無謀に思えることに挑戦して、自分の可能性を広げたいって欲求はまともだよ。そんでこの狂った世界でまともな奴ってのは貴重だ」

「んだよ、結構テオのこと評価してたのか。にしては修行に関して、意地悪が過ぎるんじゃねえか?」

「アホか。それとこれとは話が別だ。俺様が鍛えるって言ったんだからそこは絶対手を抜かねえよ。あれだって別に意味なくやってることじゃねえ。…問題はテオがもう俺様の意図に気がついてる可能性があるってとこだ。観察力と思考力が高い。見抜く力があるっていやいいのかねえ」


 メグは首を傾げ「それのどこが問題なんだよ」と問うた。実際その質問するところは的を得ており、テオの慧眼を喜びこそすれ嘆くことではない。特にこれから本格的に魔法を学ぶテオには欠かせない才能と言えた。


 しかしアルベールはそこが気になった。確かに欠かすことの出来ない能力ではある。だがテオは、シズナと旅に出るまでは辺境の寂れた村に住む木こりであった。アルベールはそのことを説明してから言った。


「別にテオが以前に何をやっていたのかは問題じゃない、人間の資質はそんなもので測れやしない。だからさっきの俺様の言葉と矛盾するようだが、テオに才能があることはいいことなんだ」

「はあ?あんた言ってることがめちゃくちゃだぞ。いいのか悪いのかはっきりしろよ」

「…お前はこの里で育って、魔法ってもんが当たり前のように身近にあった。俺様はこの里の出じゃないが、似たような環境だった。シズナだってそうだ。素質に限って言うなら、あいつ以上の逸材は他にいねえ。つまりな、俺様たちには魔法って種が芽吹く肥えた土壌があった。だがテオはどうだ?魔法に触れる機会などなかったはずだ。ドラン村にさっと行ってざっと調べてみたが、テオの両親や世話を焼いていた村人に、魔法に関係している人はいなかった」


 アルベールが疑問を抱いていたのは、学ぶということにほぼ無縁であったテオが異常なまでに飲み込みがいいことである。


 確かに誰にどんな才能が眠っているのかは、やってきたことで測れるものではなかった。持ち合わせている才能と選んだ道が大きく逸れていたり、まったく正反対の方向に進むことは珍しくもないことだった。


 だから今までまったく別なことをしていた人間が、急に畑違いの分野で才覚を発揮することもそう珍しいものではない。少なくともアルベールはそう考えていた。しかしそれには、ある程度は才能という種を育む土壌が必要であるとも考えていた。


 置かれた環境や本人の意志と行動によって形成される畑に、才能の種を植えて研鑽と鍛錬の水を与える。植えた種から花が咲くかどうかはその後の運にも左右されるが、予め栄養を蓄えている土に種を蒔く方が運も味方をしやすい。


 その点で評価するとテオの土壌は決していいものとは言えなかった。魔法に無縁でありながら、魔法に関する洞察力が非常に優れている。それはとてもアンバランスに思えてならなかった。


「アルベールの言いたいことの意味は半分も分からねえけどよ、テオに何か秘密でもあるって思うんなら、それこそ直接聞いてみろよな。あたしはその方が手っ取り早いと思うぜ」

「…まあそれはそうだな。と言っても、あいつの記憶にないことが関係してりゃ、俺様の期待してることは何も聞けないと思うがな」

「うだうだと考えるより、さっさと鍛えてやれよ。裏があろうとなかろうと、あたしはテオの純真さを気に入ってるぜ?シズナのためにも、テオが魔法使いになりたいってんならならせりゃいい。テオはシズナのいい味方になる」


 メグの意見は考えるまでもなく事実であった。しかしアルベールは自らの性格上、些細な違和感を大きく広げて考える傾向があった。そのことが自身の成長に繋がってきたのだから、今更変えようがないものである。


「ああそうだ。あんたの参考になるか分からねえけど、テオから聞いた話でちょっと気になったことがあったな」

「気になったこと?」

「いや、大したことじゃねえけどな。心の底から信じられる魔法使いが二人いるから、あいつは悪事を働く魔法使いを見てきても自分の信念は変わらねえって話を聞いたんだ。あたしはそのうちの一人がシズナだってことは分かったんだけど、もう一人は誰なんだろうな?その時は気にもとめてなかったけど、あんたとの会話で思い出したよ。じゃあな、あたしはもう行くぜ。あんまりテオのこといじめるなよ」


 アルベールの頼みを果たしたメグは、軽く別れの挨拶を済ますとその場を離れた。残されたアルベールはメグから教えられたことに思考を巡らせつつ、ふっとろうそくの火が消えるかのようにその場から姿を消した。




 次の日の修行を始める前に、テオはアルベールから課せられたバケツ一杯に小石を集めるという課題への回答を持ってきていた。


 テオはまず、小石よりも少し大きい石を拾い集めた。大きい方が目につきやすく、拾い集めるのも容易であった。そうして集めてきた石を、次々に叩いて砕き始めた。そして砕いた石を拾い集めてバケツにためた。ただ闇雲に小石を探して拾い集めるよりも、自ら石を小さくしてしまう方が遥かに効率的であった。


 アルベールは時間制限までにバケツを小石で一杯にしろと言ったが、方法を詳細に限定しなかった。つまり工夫の余地が敢えて作られていた。そのことに気がついたテオは、小石を探すのではなく、作る方に考え方を変えた。


 テオがメグに言った「里に帰ってやらなければならないことがある」というのは、どんな石が割りやすいかを調べることだった。そういった下準備も功を奏した。


 時間制限ギリギリまで石を叩いて砕いて拾い集める作業を繰り返したお陰で、アルベールの目の前に差し出されたバケツには、溢れんばかりの小石が詰まっていた。


「…発想の転換ってのは、魔法に限らずあらゆる事柄で有効だ。特に柔軟なものの考え方ってのは、魔法を学ぶうえで重要なものだ。しかも出来るかどうかまで検証するとはな。だがテオ、この方法を俺様が認めないと言ったら、お前はどうするつもりだったんだ?」

「その時はまた別の方法を考えるまでです。大師匠様がやれと命じたということは、どんなに無理難題に思えても実現可能ってことですよね?なら俺は、力の限りを尽くすまでのことです」


 テオの眼差しは一点の曇もなく真っ直ぐであった。それを見てアルベールは肩をすくめた。


「お前は言われたことをちゃんとやった。なら次は俺様の番だな」


 こうしてテオは、アルベールから課せられた最初の課題に合格した。

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