表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
言無しの魔女  作者: ま行


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/115

教え子

 目的はあっても宛てはない旅を続けるシズナとテオの二人。その道中は必然的に野営が多くなる。そしてその時、問題になるのは食事であった。


 今までのシズナは一人旅で、最低限死なないだけの食物を摂取できれば十分だと考えていた。味や質は二の次三の次で、こだわりがない。


 しかしテオは違った。食は力の源と主張して、例え量が少なくとも、味がよくて食べやすく調理がしたいと考えていた。


 ある日テオは、丁度よく使えそうな木を見つけてきた。それを切って削り出し、縄を綯って弦にして単弓を作り上げた。矢の先端は焼いて固めて尖らせて、矢羽は鳥から抜け落ち、野に落ちていたものを拾ってきた。


 そうして至極簡易的な狩猟道具を揃えると山に入り、茂みに潜んで息を殺し、手際よく鹿を射止めて狩ってみせた。肉の処理から下ごしらえまで丁寧な仕事を見せ、晩の食事は豪華な肉料理が並んだ。


『改めて思うけど、テオくんはほんとにすごいね』


 単純な串焼き一つとっても、香りの強い木の枝で作った串に刺し、肉の臭みを和らげていた。肉がパサつかないよう脂身を利用し、ジューシーな肉汁を味わうことができる。野から採集してきた刻みハーブを混ぜた塩は、肉の味も香りも更に上の段階へと引き上げていた。


 限られた環境と調味料、そして食材からここまでのものを作り出す。シズナからしてみると、それは魔法よりよほどすごいことに思えた。しかしテオは、なんてことないと言って笑った。


「村では家畜も育ててましたけど、農作物の被害を防ぐためには、定期的に野生動物の狩りもしなくちゃいけませんでした。外環諸国だと、狩猟に使える便利な道具もあるそうですが、俺たちは基本的にそこにあるもので代用してましたからね。お師さんが俺をすごいと思うなら、それは俺じゃなくて、俺に色々なことを教えてくれたドラン村の人たちがすごいんですよ」


 テオの語り口はとても嬉しそうだった。間接的だが、シズナに村人のことを褒められたように感じたからだった。シズナは続けてテオに問うた。


『こういう料理の仕方も教わったの?』

「あー…えっと、料理は純粋に俺の趣味ですね。多分、こういう工夫が好きなんだと思います。どうせ食べるなら美味しくしたいとか、もうちょっと何か手を加えれば味が引き立ちそうだとか、そういうこと考えるのが好きなんです」

『いいね。その考え方、すごくいいよ』


 褒められたことは嬉しかったが、シズナが何について褒めているのかが分からなかった。首を傾げるテオに、シズナが続けた。


『実は魔法も同じなんだ。テオくんの料理と一緒で、創意工夫がとても大切。丁度いいし、少し授業をしようか』


 魔法の授業だと聞き、テオは飛び跳ねて喜んだ。でもまずは食事が先とたしなめられると、ガツガツと急いで自分が作った料理を食べ始めた。そんな様子をシズナは微笑ましげに見つめた。




 食事と片付けを終えた二人は、星空の下、焚き火の前に斜め向かいに座る。シズナが手を動かすのが授業始まりの合図だ。


『魔法にとって重要なもの。今はテオくんも少しずつ感じ取れるようになったマナについては話したね?』

「はい。魔法の源、世界樹から発せられる未知のエネルギーですよね」

『そう。この世界すべてのものに、良くも悪くもあらゆる影響を与えている謎のエネルギー。魔法をつかうためには、それを感じ取ることのできる力、魔観が必要だったね。次に教えるのは、魔法の属性や分類についてだよ』

「確か俺は、火属性に適性があるんですよね」


 テオの言葉にシズナは頷いた。そして続ける。


『そう、火属性は八属性のうちの一つ。他には水、地、風、光、闇、無、空間、と分類されてる。魔法使いによって扱える属性の適性が違うんだよ』

「適性の違い…お師さんは何属性の適性があるんですか?」


 質問を受けてシズナは、少々困ったように眉尻を下げた。


『私の場合、これと言った適性がないんだ。説明するのにもちょっと事情が複雑だから、今は取り敢えず、私は無属性に適性があると考えてね』


 そうでないと話が前に進まないのだろう。そう察したテオは、頷いてシズナに続きを促した。


『属性が分かれている理由は結構単純で、その方が分かりやすいからなんだ』

「分かりやすい?」

『あらゆる魔法の源になるマナは、やろうと思えば本当にどんな形に変えることもできるし、どんなことでも実現できる可能性を秘めてる。だけど、何でも出来るって実はすごく難しい状態なんだよ。テオくんの得意な料理で例えるなら、目の前に世界中のあらゆる具材も調味料も香辛料も、何もかもすべて揃ってるって感じかな』

「なるほど。そこから目的の料理を作ろうと思っても、使える物が多すぎて選びきれないということですね」


 料理に例えるだけでこの理解力の高さと、シズナは密かに驚いていた。優秀な生徒で先生としては嬉しくも思ったが、自分が魔法を学び始めた頃は、こんなにスムーズな理解力はなかったと少し落ち込んだ。


「お師さん?」


 難しい表情で固まったシズナのことを心配したテオが声をかけた。その声でハッと我に返ったシズナが続けた。


『ごめんごめん。まさしくテオくんの言う通りで、やりたいことの目的を絞るために、マナの特性を調べて特徴づけて分類した。それが魔法の八属性。食材に例えるならメイン、さっき食べた串焼きのお肉かな』

「肉なら鹿に、猪、兎に牛や豚。確かに肉質によって切り方も味付け方も変えたほうが美味しくなりますね」

『そういうこと。分類されたマナを、使いたい魔法に合わせて切り分けたり、叩いて柔らかくするとか下ごしらえをしてから、調味料や香辛料を使って自分の理想の味、つまりは使いたい魔法にしていく。魔法を発動させる手順は大体こんな感じなんだよ』


 無限の可能性を秘めたマナは、そのままでは選択肢の幅が広すぎて、逆にやれることが限られてしまう。だからマナを活用する方法を模索した古の魔法使いたちは、マナの特性を発見し、それを八属性に分類分けをした。


 これによって目指すべき魔法の方向性が明確になり、未知のエネルギーであるマナがどんな形になるかをイメージがしやすくなった。この分類がなされるまで魔法使いは大したマナ操作はできず。精々知覚できたマナを収束させ、一塊の弾丸にして発射させることが精一杯であった。


『それが魔法使いの基本にして最古の魔法。魔弾と呼ばれるものだよ。発動も難しくないし、詠唱も短いから、大抵の魔法使いが最初に習う魔法になるね』


 シズナが魔物に襲われていたテオを救った魔法も、この魔弾だった。発動が簡単で、マナ操作の基礎練習に最適であるがゆえに、最古の魔法ながら消えずに残り続けていた。


『魔観によって知覚したマナを、収束して一塊にする。それが出来たら、今度は的に狙いをつけて、発射する。単純に思えるけど、多くのマナ操作をしているよね』

「集めて、形にして、狙って放つ。どんな形にするのか、狙ったものにどうやって当てるか、飛ばし方はどうするか、それを味付けによって変えていくんですね」

『その通り!工夫の仕方によっては、単純にマナの塊をぶつけるだけの魔法でも、様々な効果を付与することができるんだ。ただし工夫を凝らして要素を付け足すほど、どんどん複雑化していって、発動が簡単って特徴が薄れていく。そこは注意が必要だね』

「そうか、工程が増えるほど作業も手間も増える。その分時間もかかるし、使うものも吟味しなきゃいけない。そのバランスが重要ってことですね」


 テオの答えにシズナは満足げな表情で頷いた。教えることに興味を持ち、それをどんどん吸収していく様は、シズナが今まで感じたことのない、不思議な達成感があった。


 どう教えればテオはもっとよく魔法を理解できるだろうか。例え話は良さそうだ。でもあまり脱線しすぎてもいけない。最近のシズナは、そんなことをよく考えるようになっていた。一人でいいと、ずっとそう思っていた旅路が、テオのお陰でとても楽しいものに変わっていた。


『今日はここまで。そろそろ大きめの街につきそうだから、そこで補給と、また情報収集をしよっか』

「気になってたんですけど、地図もないのにお師さんの足取りは迷いがないですよね。街があることも、どうして分かるんですか?魔法?」

『うーん、答えてあげるのは簡単だけど、ここは敢えて、どうしてでしょう?ってことにしようかな。テオくんなら考えてみると分かると思うよ。ちょっとしたテストだね。ちなみに魔法じゃないよ。分かったら私に答えを教えてね』


 シズナから出された問題に、早速テオは首をひねって考え始めた。その様子が微笑ましくて、シズナはふっと口元を緩めて目を細めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ