3 二人の記念日
日曜日になったが弟は出かけなかった。
母親から聞いたけど、今日は試合後の安息日なんだとか。
でもそれだけじゃない気もする。きっと私が悪いんだと思った。
結局、日曜日は家族みんなが家で過ごしていた。お昼も夕食も家族そろって摂った。
なにかが壊れたはずなのに、なにも変わらないような日が始まった。
なにも変わらないような日が続く。
言いたいことはあるはずなのに、考えがまとまらず言葉にできない日が続く。
何かをしていてもふとサトルのことが思い浮かぶ。
サトルの泣いている姿はもう見たくはなかった。
家族で談笑していた笑顔が愛しかった。
今では本当に弟のことが好きなんだと思っている。
でも自分の言葉はサトルには届かないんだとも思っている。
何をしても正解にはたどり着けない日が続く。
そんな日が続いていたら梅雨が過ぎて期末試験が終わった。
そして試験休みになった。
平日なのに学校が休み。両親は仕事でいない。だから今日しかないと思った。
それでも試験休みになのに弟は朝から出かけた。朝から出かけたのだから図書館だと思う。友達と出かけていた時はもっと遅い時間だったから。
それならお昼には戻ってくる。その時がチャンスだと考えた。
サトルはお昼には帰ってきたけどひとりで食べて、また出かけようとしていた。
だから無理に引き留めた。
「サトル、話があるの」
察したのだろう、少し間を置いてから「もういいよ」と言われたので、少し大きな声で「よくないから聞いて」と伝えた。
サトルは小さなため息を付いてから、リビングのソファーに座った。
だから私はサトルに向かい合うように座って話し始めた。
「私ね、サトルのことが好きだよ。最初は考えられないって思った。でもそれから考えるようになったら、サトルのいいとこがわかってサトルと付き合いたいって思った。それってダメなこと?」
サトルは少し考えてから口を開いた。
「やっぱりダメなんじゃないの?」
また私が想像した明るい未来は訪れなかった。
でも諦めない。
「じゃぁ、なんでサトルは私を好きなったの?本当はどうしたかったの?」
「もう、その話はいいんじゃない?」
「ちゃんと答えて」
サトルはしばらく膝の間で握っていた手を見ていて、そして、
「……俺は……姉ちゃんだけがいればよかった。たとえ付き合えなくっても姉ちゃんがいてくれるだけでよかった。お父さんたちがいても、姉ちゃんがいるだけでよかった」
「それって独占欲なんじゃない?」
「そう見えるかもしれないけど、でも違うんだ」
「何が違うの?」
「その。家族って言うか、夫婦みたいな関係になりたいんだ。もちろん結婚ができないことはわかってるけど」
「だったらこの前私が付き合うって言ったとき、なんで断ったの?」
「それは……姉ちゃんがセックスを持ちだしたからだよ」
「サトルは私としたくないの?」
「えっ、それは……したいよ……」
「だったら断らなきゃよかったじゃない」
「だから違うんだって!」
「何が違うの?」
「だから姉ちゃんはいるだけでいいんだよ」
「どうして?」
「だって子供は作ったらダメだって知ってるから」
「だったら避妊すればいいじゃない」
「だからって姉ちゃんをセックスの道具になんかできないよ」
「……」
「子供が作れないのにセックスだけはするなんて、そんな遊びみたいなことは嫌なんだよ」
なんとなくサトルの言いたいことがわかった気がした。
本当は私と結婚して子供を作って、ちゃんとした夫婦になりたいんだ。
だからセックスをするだけの関係に忌避感があるんだ。
それだけ私のことが好きなんだ。愛してるんだ。
「そっか、なんとなくわかったよ」
「何が?」
「サトルが私を愛してるってことが」
「なんでだよ」
「愛してないの?」
「そんなの……最初から愛してるよ」
真っ赤な顔をした弟から愛の告白を受けた。
もう心臓がバクバクしてた。
「私ね、こんな告白されたの初めて。そしてこんなに好きになったのも初めて」
「今まではどうだったんだよ?」
「聞きたい?」
「えっ、聞きたくないけど、気になるって言うか……」
「たぶん気分のいい話じゃなよ。でも知りたいのなら全部話すよ。もうサトルには嘘は付かないから」
「じゃぁ……今まで何人と付き合ったの?」
「二人」
「……」
「もっと聞きたい?」
渋々頷くサトルに過去を打ち明けた。
高一の春に、友達の二こ上の先輩に恋をして付き合いだしたけど、二学期になって受験に集中するとかとで振られた。そしてその人に初めてをささげたと。
次はちょっと前だけど、高二のバレンタインにチョコをあげた仲良しグループ男子。ホワイトデーに誘われて付き合いだしたけど、セックスするばかりだったからすぐに別れたと。
結局二人ともセックスをするだけのような関係だったと伝えた。
だいぶショックを受けてるようで難しそうな顔をしていた。
「いい話じゃなかったでしょ」
「……うん」
「私を安っぽいって思った?軽蔑した?」
どうせ私が初めてじゃないことがいつかバレるのなら全部本当のことを話そうと思った。
嘘がバレて別れるくらいなら、初めから本当のことを打ち明けて誠意を伝える方がいいと思った。
それでもダメだって言うのなら、今度は私から追いかけようと思った。
「正直言ってショックだけど、たぶん大丈夫だと思う」
なにか理由がありそうな口ぶりだったから「なんで?」と聞いてみた。
「だって、これからずっと姉ちゃんといられるから」
涙があふれてきた。
嫌われるんじゃないかと思ってた。
でも受け入れてくれた。これからもずっと一緒だって言ってくれた。
身体ばっかり求めてくる男なんかじゃなくて、私と一緒にいたいって思ってくれる男の子。
なんでもっと前から気が付かなかったんだろう。こんなに近いところに素敵な男の子がいたなんて。
「姉ちゃん?」
「うれしいの」
「何が?」
「私がサトルの彼女になれたことが」
「……」
「嫌なの?」
「嫌なわけないよ。俺だってうれしいよ。ただ急だったからびっくりしただけ」
「じゃぁ、今日からよろしくね」
今日が二人の記念日。新しい出発の日。
そう思っていたけど、何も変わらなかった。
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