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血まみれで倒れているカズオの姿に、園部も気づき息を呑む。「ああ・・・」と落胆しながら寄ってくる。俺は呆然としたまま、見下ろしていることしか出来なかった。
・・・階段を降り、廊下を駆けこんでくる足音がした。振り向いた園部が、「親父さん・・・」と呼びかけた。
玉井が切迫した表情で、室内に入る。「コウジ、カズオは!」大声で聞く。俺はカズオを見下ろしたまま、「多分、死んでます・・・」と呟いた。
「なに!・・・ちょっとどけ!」玉井は立ち尽くしてるだけの俺を押しのけ、カズオのそばにしゃがみこんだ。心拍や脈、呼吸を確認している。
ばっと俺たちを見上げ、「まだ生きてる!急いでカズオを運ぶぞ!」・・・俺はその言葉で、腰砕けになった。園部が俺を支えてくれた。
「ちきしょう!よかった!」園部は大声で叫んだ。玉井は、「トシ、喜ぶのはまだ早い、カズオはほぼ瀕死状態だ。さあ急ぐぞ」と、俺たちをせかした。
3人で抱え上げ、タバコの煙と硝煙の立ちこめた地下室を出る。ホクロと坊主は大怪我のまま気絶して倒れたままだ。元は白かっただろう傷だらけのPタイルの床は、ヤツらの血しぶきで汚れきっている。
暗い階段を担ぎ上げて玄関を出ると、玉井のグロリアが停まっている。後部座席のドアを開けてカズオを横たえた。
・・・玉井は何かを思い出したように踵を返し、「ちょっと待ってろ」と言いながら地下室への階段を駆け下りていく。1分足らずで戻ってくると、「ヤツらの目を潰しておいた、これでお前らの追跡はできねえだろう」と言う。・・・俺ははじめて玉井と遭遇した夜を思い出す、(・・・どこかカズオに似ている)と感じたのは、この眼の光だと気づいた。
俺が助手席に乗りこむと同時にグロリアは飛びだす、園部の運転するミラはすぐに追いついてきた。途中、玉井は電話ボックスの脇に停め、どこかに電話をかける。手短かに用件を済まして戻ると、2台の車は大通りを北上する。
分岐した裏道のような狭い道を、かなりのスピードで駆け抜けていく。多分、北東方向に向かって走っている感じだ。
・・・俺は後部のカズオを頻繁に振り返る。(・・・死ぬな!死ぬな!生き返れ!生き返れ!)知らぬ間に俺は呪文のように、その言葉を繰り返していた。だがカズオは微動だにしなかった。
やがてグロリアとミラは、郊外の2階建ての事務所のような建物の前に停まる。鎮守の木々が鬱蒼と茂った神社がすぐ近くにある。
「ここだ、お前らカズオを担いできな」玉井はそう言うと、建物に入っていく。俺と園部は動かないカズオを抱えるように、グロリアから運び出す。
建物の入り口に入ると下から「こっちだ」と、玉井の声が聞こえた。慎重に担いで地下への階段を降りていくと、入り口の木の扉が開け放してあった。
カズオを運びこんだ部屋は地下酒場のようで、向かって右奥にバーカウンターと止まり木が見える。スツールに2人の姿があった。
部屋の左側にはいろんなものが乱雑に置かれたテーブル類があって、一角がソファーを並べたベッドのようになっている。玉井は、「ここに寝かせてやれ」と誘導する。ぐったりと動かないカズオを横たえる。
左目は倍ぐらいに腫れあがり開きそうにない、鼻や口元を汚している血は、変色して乾きこびりついている。髪の毛も血糊で固まっていた。むごたらしい顔を見るとまた、(生きろ!生きろ!)と念じた。
見下ろしている俺たちの後ろに人が立った、さっきカウンターに座っていた男だ。アル中のジャンキーみたいな風貌に、葉を丸めたような細いタバコを薄い唇にくわえている。
ボサボサの髪によれよれの柄シャツ姿の男の横に、茶髪のケバいやせた女が並んで立っていた。イカれたカップルのように見えた。
「ほう、こいつね・・・」ジャンキーはくわえタバコのまま、カズオを点検しはじめた。しばらくして、「ヨウコ、手術と輸血の用意しろや」ジャンキーは振り向き、ヨウコと呼んだ女に指示した。
ヨウコは無言のまま奥のドアを開けて中に消えた。
「ドクター、よろしくお願いします」玉井はジャンキーに頭をさげる。「ちょっと飲み過ぎてるんでね、手元が狂うかもね」ジャンキーはそう言って、ガラガラ声で笑った。前歯が1本抜けていた。
ヨウコが手術の用意をはじめる。「じゃあ、あんたらは外に出ててもらおうか」ジャンキーが言うので3人は地下室をあとにする。部屋を出る間際に振り返ると、カズオの血まみれの服を大きなハサミで裁断していた。
3人はグロリアに乗りこむ、俺は後部座席に座る。さっきまでカズオが横たわっていたシートには、何の温もりもなかった。
前の席で園部が一部始終を話している、玉井は黙って聞いていた。園部はひと通り話し終えると、「ところで親父さん、あのトカレフはいったい・・・」と聞く。玉井は黙ったままだ。
しばらく沈黙が続き、やがて「本当は渡すべきじゃねえと思ったが、トシとコウジの性格を考えりゃ、きっと乗りこんじまうなと思ってな。まあ護身用さ」玉井は呟く。
「いや、そうじゃなくて、なんで親父さんが拳銃なんか持っ・・・」玉井は園部の話をさえぎるように、「まあ忘れろ。お前らの目的は達成したんだ。あとはカズオの生死を心配しろ」
玉井は話をはぐらかすように言った。
・・・俺はあのジャンキーがカズオを甦らせてくれるとは、到底思えなかった。しかし頼みの綱は、あのジャンキードクターだけなのだ。




