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転校生 ― 十代の衝動 ―  作者: 村松康弘
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諏訪から岡谷にかけては、緩やかな下りになる。塩化カルシウムの散布で真っ白に染まったアスファルトが続く。

道路の両脇の唐松林はすっかり葉を落として、厳寒期をじっと耐えているように見えた。

車の流れは順調だが、今までの鬱憤を晴らすようにぶっ飛ばしていく車が多かった。そして総体的に車の数は多い。

岡谷JCTで中央道は、名古屋方面と長野道に分岐する。カローラは長野方面への左レーンを減速して入っていく。

岡谷から塩尻までは、さらに下り坂が続く。松本平まで来ると積雪は少なくなり、午後の穏やかな陽射しが平らな盆地を照らしていた。

豊科から『安曇野』と名前が変更になったICでカローラは降り、国道19号に合流する。

(安曇野は雪が少ないし平地だから、住むにはいいだろうな)そんな事を思いながら、年末の町を走る。途中、ガソリンスタンドで給油した。

・・・安曇野を過ぎると国道は曲がりくねり狭くなる。地元の町まで40kmほど北上の道程は、5年前とほとんど変わらないが少しは道路改良されているのかも知れない。

しかし、片側一車線が続きトンネルや洞門の多い道路は、大型トラックや大型観光バスには走りづらい道だ。

実際、中央道が豊科から長野まで延伸した22年前から、19号沿線のドライブインは次々に廃業して、今や残っている店はわずかだろう。


四方に見える山々の白さが増し、路肩に除雪された雪が薄黒く固まっているのが見える。

地元の町は、飯山や白馬などの豪雪地域にくらべると積雪は少ないが、それでも結構積もっていて驚いた。

「スタッドレスに履き替えてきて良かったね」久美子が路肩の雪を眺めながら言う。

「ああ、山道に入れば路面にも雪ありそうだしな」スタッドレスは3シーズン目になるが、ほとんど使用しなかったのでタイヤの山はまるで減ってはいない。

地元の町に入り国道から逸れて山道に入ると、予想通り路面は圧雪状態になっていて轍が出来ていた。陽の当たらないカーブは、昼間でも凍結したままだ。


午後3時、5年ぶりの『川島家』に到着する。陽射しはもうすでに西山の稜線に架かろうとしていた。

玄関先に両親が立って待っていた。庭に車を停めて2人分の荷物を下ろす。

「晃児、久美子さんお帰り」両親は嬉しそうに荷物を受け取った。ともに顔には5年分の齢を重ねている。

家に上がるとコタツがあった、東京では使ってないのでコタツにあたるのも5年ぶりだ。

テレビが大きなハイビジョンテレビに替わっていて、時代を感じたが下のテレビ台は前のままなので、少し滑稽に見える。

「晃児、お前が住んでた離れだが、だいぶ傷んできたんで取り壊そうと思ってな。・・・あとで中の物見とけや」

親父は早くも焼酎のお湯割りを美味そうに飲んでいる。

窓の外で変な音がしたのでガラス越しに外を見ると、ヒヨドリが奇声を発しながら、取らないままの柿をついばんでいる。懐かしい光景だった。



・・・何年ぶりに入る部屋だろう。入り口のガラス窓にはカラースプレーで描いた『ドクロ』がそのままだった。

(ドクロ・・・今はスカルって言うらしいな)中に入ると少しカビ臭かったが、カビ臭さは住んでた当時もそうだったので、むしろ懐かしい匂いだ。

壁に貼られたRolling StonesやThe Who、Creamのポスター、埃まみれの安物のサングラス、ベッドの小さい棚にはオイルが切れたままのzippo。

机の上の本棚に学生時代の写真アルバムが立てかけられていた。

中学時代のアルバムを取り出す。表紙の真ん中に校章が描かれている。布団の敷かれていないベッドに腰かけてパラパラとめくると懐かしい顔ばかりで、記憶がよみがえってきた。

3年生になった時の集合写真に目が留まった。

全員で並んでいる左上の隅に、当日並ぶことが出来なかった生徒の顔写真が載っている。

(・・・田中和夫)俺の記憶は当時に飛んだ。


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