第九話
宿屋を出たハロルは出入り口で待っていた使用人スワイハントン家のワンドレッヂと会う。宿屋から赤き翼の笑い声が聞こえた。頭に浮かぶのはアヴィとエリト。
下を向くハロルに「我慢せずに一緒に行動すれば良かったのに」と幼い頃から共に育つワンドレッヂが言った。
下を向いたまま黙るハロル。
顔を上げた時には真剣な顔つきに変わり道なりを進んだ。ワンドレッヂはやや離れた場所からハロルを見守った。
エリゼルドは街の中を一歩足を踏み入れる。続けてアヴィ。エリゼルドの隣にリジン、ナポリ、ルフェリトロール。アヴィの隣にベベル、メルフィーナ。エリゼルドを中心に横一列に並ぶ。赤き翼は街のシンボル時計台がある住宅地に居た。
ミセラ街内時計台がある住宅地
時刻は8:45。「本当に来たのねぇ」エリゼルド達に近い民家の屋根平面部上で女性が座っている。屋根から飛び降りた女性は羽衣を回し華麗なスピンを魅せる。妖しい手つきをし赤き翼に手招きをする色気のある女性。
「ミルフィオラ」とアヴィが前に出た。
「貴女が来てどうするの?ここは男性諸君でしょうに。
また会ったね」とエリゼルドにウインクする。エリゼルドは目を逸らした。
「可愛らしいこと。
それで、裏切るのは本当なの?」ミルフィオラの左足を出すももの付け根は肌が見え隠れしていた。アヴィもスカートをひらりと揺れるくらいのしなやかさで腰を回し手を膝につける。「逃げてもいいけど」
二人のポーズが止まる。
「アヴィ、何してんだか」と赤らめるエリゼルド。
「嬢ちゃん、何もしなくてもじゅーぶん色気あっからよ、なーんもしなくていい」と両手を振るリジン。
「み、見えそうで見えないぜ」スカートを見るナポリ。
「アヴィさん」と何も考えられなくなったルフェリトロール。
「変な男が近寄ってきそうね」
「う、うん。私達が守ってあげようよぉ」
「あんたねーー‼︎おかしいでしょ!
この身体を見て虜になる男共は多くって!」
胸、腰、ももを強調するミルフィオラ。
ポニーテールを持ち、さらりと毛先迄触れ手からふわっと毛先をなびかす。「私が居れば全て私のもの」と冷たい視線を向けるアヴィ。
「君、そんな性格ではないでしょう」とエリゼルドはすかさず突っ込んだ。
「君達の仲は分かったから。君はそんな事する為に短いの着たんだね。来る前に理由聞けば良かった」エリゼルドは上着を脱いでアヴィの腰回りに服の袖と袖を結ぶ。
「ね。上着役に立った」とアヴィ。
「君のシバ生活頃が心配だよ」アヴィの手を握ったエリト。
「味方同士の会話は終わりましたかな?」
リジン達寄りの前から2軒目民家屋根棟上に立つホイーク。シバの情報を流したオルハはホイークの2軒後ろの民家屋根平面部上で待ち受ける。
「俺らとやり合えるのって、ガーゼレビアにアヴィだけだろ?普通来ないわな」
「分からんよ?」ホイークはオルハを指す。三人目と言っていた。
「あてにしてない」とアヴィ。
「分かってますよ。女神様」丁寧なお辞儀をするホイーク。
ホイークのお辞儀に合わせて時計台の前に居る数十人が杖の先端をエリゼルド達に向け構えた。数十人は同じ制服を着ている。ホイークの合図と共に魔法を放つ。地面に一線が街全体に通った。
空間を隔離させない為の魔法。「女神候補生だろ」リジンはアヴィを見る。
「いいねぇえ」オルハはアヴィに疑念のこもった眼を向けるリジンに言う。「神通力がある者共だ。大勢であれば空間を繋ぎ合わせる事に成功したのだ!」ホイークはキラキラした笑顔で両手を空に向ける。
アヴィは左耳を触る。
「まだはやい」とエリト。
「大丈夫。二つ目だよ」と笑うアヴィは左耳飾りの雫を一つ引きちぎる。内なる光と耳飾りの光が共鳴した。光は太陽より眩しい。その光の強さにホイーク達の皮膚が焼けるようにピリピリする。
アヴィの背後に鎧を来た大男が現れた。仮面を被っていて顔が見えない。パイクを持ち赤き翼に横薙ぎする。赤き翼は防御する間がなく体内にパイクが通り過ぎた。
大男もパイクも半透明なもの。攻撃を喰らった赤き翼は何かが上に上がり下へと下がる。力がみなぎる赤き翼。
「騎士団長スギュールか…」ホイークは光を遮った両腕の隙間から半透明な者を見た。
騎士団長スギュール、今亡き英雄の一人。神通力特殊能力、偉人を召喚できる魔法。
アヴィは言うまでもなく最高ランクを召喚できる神通力者。
スギュールは非戦闘員だが、仲間の能力を高め強者と同等な戦闘を広げる能力を持つ。
「やってくれるねぇぇえ」ホイークは合図を送り神通力者が次の魔法を唱える。「魅せてあげる」と羽衣を纏うミルフィオラ。オルハも武器レーシェを起こす。
「行こうか」エリゼルドは対戦相手を決めていた。赤き翼はエリゼルドの合図で分散する。
「君は僕が護る。皆のサポートよろしく」
エリトの後ろには力を使うアヴィが控えていた。「任せて」アヴィは騎士団長スギュールを動かした。
「女性同士仲良くしようか」妖しい目つきをするミルフィオラ。
「今の私たちを見くびっては困るわ」メルフィーナはミルフィオラの背後に短剣を構え左斜めに払う。(ーーーー速い‼︎‼︎)ミルフィオラはかろうじて回避。メルフィーナが声を掛けていなければ致命傷を与えられたかもしれない。
ミルフィオラはアヴィを見る。
「エセ女神が!」ミルフィオラは羽衣をアヴィに撃つ。両手を伸ばし「風薫る、緑子よ。地を暖め上昇せよ。ウォールウィンド」魔法を唱えたベベルは風の壁を張り羽衣を防いだ。
「先に謝らないといけないかしらね?2対1で」
メルフィーナはベベルの前で短剣を構えていた。
「小賢しい」
ミルフィオラは氣を上げる。「スギュールの能力見せて貰おうじゃない‼︎」
羽衣の先端がねじり尖る。尖った先端は回転しメルフィーナ達との間合いを詰めた。
「無数打牙」
羽衣の先端は無数の打撃をメルフィーナ達に打ち刺す。一枚の羽衣とは思えない程次の攻撃が速い。メルフィーナは全ての攻撃をかわしていた。
メルフィーナは短剣を横払いし羽衣が飛ぶ。攻撃を受けた羽衣は生きているかのようにひらひらと端まで広げていく。透けた羽衣は視界を曇らした。
メルフィーナは羽衣に攻撃するも攻撃に合わせて羽衣が動き掠めることが出来ない。ベベルの魔法も避けられていた。透けた羽衣の奥では華麗な舞を踊るミルフィオラが居る。
眉をひそめ嘆く表情、手を勢いよく伸ばし掌を大きく広げ小指から握るミルフィオラの踊りは情熱的だった。
羽衣はミルフィオラの舞で二人を包む。球型になった羽衣の中にメルフィーナ達は閉じ込められた。
「動きを封じればどうってことない」高笑いするミルフィオラはスピンをした後床に足を伸ばし絡め座る。
球型がうねりをみせる。ぐねんぐねんに羽衣が動き出す。メルフィーナとベベルが内から攻撃を繰り出していた。
「無駄な足掻きを!」
ミルフィオラは左手を上に上げる。右手で左腕に触れながら左手と重ね、指は花弁に似せて花を咲かす。咲かした指の花は反対向きに動かし握る。指の動きは花が枯れて花弁が散るところを表現されていた。
球型の羽衣も花がしぼむように徐々に小さくなる。
「汗かいたわね〜。シャワー浴びて今日はどうしてくれようかぁ」とアヴィを見て言っていた。アヴィは騎士団長スギュールと交信中である。笑みを浮かべるミルフィオラ。
球型の羽衣は二人分が入らなくなる程小さくなっていた。
ミルフィオラは笑う。人の形が見える羽衣はいつしか切り裂かれ穴が数カ所あいていた。破れた羽衣を見てもミルフィオラは動じない。
破れた箇所を何度も攻撃し続けるメルフィーナ達。中腰になれる空き場所が出来ていた。ミルフィオラは腹部を抱えて笑う。
羽衣は繊維が見える球型に変わっていく。
ミルフィオラは笑いをやめ立ち上がり薄笑いを浮かべた。
姿を現したメルフィーナとベベルは動き出す。
ベベルは「吹き繁り実り枯らし、橙子よ。眼を惹き惑わせよ。キャプティベイト」
羽衣はベベルの命令を聞く。一本の糸になった羽衣は何百本の1束になりミルフィオラに向かって発射。メルフィーナはミルフィオラを後ろから抱き締め身柄を確保した。
「ちぃっ」と舌打ちをする。糸は縄になりミルフィオラの両腕ごと巻き付け縛られていた。
「あなたを殺さないのは話があるからよ」縄の先端を持つメルフィーナが言う。
「大人しくしていてくださいよぉ」といつでも魔法が撃てるように構えるベベル。
「お前の相手は俺らだ」
ミルフィオラの戦闘を見るオルハに言うリジン。
「俺は争う気はないね。協力する気もないが。ミルフィオラの羽衣を解き明かしたのは褒めるけど、あの程度じゃ、ないからよっとお」後ろに飛びはねたオルハはレーシェに武器を直させた。
「あいつ、だったら戦ってたけどね」エリゼルドを指すオルハ。リジンもエリゼルドを見る。
「戦っている最中はあいつに負担くるんだろ?気が進まないなー、実のところ」オルハはアヴィを気にしていた。
戦闘する気がないオルハを見て取るリジンはホイークと戦うエリゼルドを再度見た。
ルフェリトロールも構えを解く。ナポリはまだ警戒して戦闘態勢のままだった。
回転して後ろに下がるエリゼルド。炎の玉がエリゼルドに直進。玉を蹴飛ばし近くの家が燃えた。
「俺らん中で一番ホイークが強え」
繰り返す炎の玉を全て弾き飛ばすエリゼルド。
「全部受け止めてやがるのは、アヴィが居るからか。泣けるねえ」と解説まじりで戦闘を楽しむオルハ。
リジンはエリゼルドを目を離さずに見た。リジンの瞳に映るエリゼルドがだんだん変わっていく。
魔法を撃つのが速い。跳ね返すことしかしないエリゼルド。
「女神様はご自身で守れるよぉ?ではないと、死ぬのはあんただ」ホイークは1ランク上げた炎の玉を撃つ。玉を殴りホイークに返した。
不気味に笑うホイーク。
エリゼルドも余裕の表情をしている。
表情がリジンの脳内に引っ掛かった。
エリゼルドの頭に蹴りを入れていたリジン。左腕で防御するエリゼルドは驚くこともなく目だけが動いた。
「いいね、え」とオルハは喜ぶ。
「何だね。もうサボっているのか」とオルハに言うホイーク。
「わ、悪りぃ」とハッと気付いたリジンが言う。エリゼルドは防御のまま視線をホイークに戻した。
「何とか言えよ」とエリゼルドの肩を引くが微動だにしない。エリゼルドは防御を解く。
「構わないけど」とエリト。
リジンは黙ってエリゼルドを見た。炎の玉が飛んでくる。二人は同時に玉を蹴飛ばした。
「お前ってさ、なんで怒らねえの」
「…さあ」向かってくる炎の玉を前方へ突く。
「だってよ、俺、エリゼルドに」向かってくる炎の玉を蹴るリジン。
エリゼルドはリジンを見た。「だったら何さ。アヴィの力で強くなったその強さで、僕と勝負する?」続けてエリゼルドは言う。
「違うだろ。軽い魔法しか撃ってこない。オルハは戦わない。ベル達も終わってる。だけど、君達が居るからアヴィの力は解けれない。この先のことを考えてる。罠とは分かっていたけど…何かある」
ホイークはニヤついたまま左右の掌から次々に炎の玉を撃ち続ける。会話をしながら返すエリゼルド。
その内容にアヴィが反応した。
「エリト、一旦切る」
アヴィの声に赤き翼、シバが反応する。
オルハはレーシェから刀を抜き、ナポリに一振。ナポリの手の甲から腕の肘まで切れ杖を落とした。そのまま後ろに倒れるナポリ。速すぎて見えない。ルフェリトロールは動けず叫ぶナポリを見る。
ミルフィオラは羽衣を制作し縄を持っていたメルフィーナに羽衣の牙を向け横腹を刺した。「アヴィ!」とエリゼルド。
「て、めぇ、謀ったな」と怒るリジンはアヴィに向かって走り出す。にこと笑うアヴィ。
「ラピネス」と呟いた。走るリジンの足が空中を駆けていく。
赤き翼は自分達の頭上にあるシャボン玉の中に入れられ浮かんでいく。
聖女ラピネス、守りを特化した魔法を持つ。
「最初からこうすれば良かった」攻撃を受けたナポリ達の傷はラピネスにより治療されていた。
ふよふよと浮かぶシャボン玉。アヴィはリボンを取り空に手渡す。アヴィの頭上に来ていたシャボン玉の中に入っていった。「勝手に決めるな」とエリゼルド。
「持ってて」とリボンをエリトに渡す。アヴィの表情を見たエリトは「君て子は」とリボンを受け取った。
「打てい」ホイークが発すると制服を着た神通力者は魔法を放つ。
地面から赤いヒビが割れ黒い物体が現れた。
身体が巨大すぎて肩までしか地上に出れていない。
「執行者ぁ?」
「違います、裁判官でしょう。執行者が決めれない罪人を裁く者です」
裁判官は赤いヒビの下から握り拳で叩く。地面の揺れが神通力者達の体勢を崩した。避難する者。奈落に落ちる者。次々に神通力者の数が減っていく。
右腕が地上に現れ左右に振る裁判官。広がった赤いヒビから黒い影が現れた。額に長い角を持つ影は奈落の住人。神通力者めがけて体当たり。闇に包まれた神通力者は生命を吸われた。
オルハは「吹け、風刃波」刀から三日月型をした衝撃波を出し逃げる神通力者を守る。
地面のヒビにより街のシンボル時計台が傾いた。時計針は19:10をさし止まっていた。
「そうだ。そうこなくては。赤き翼の皆様、漸く開演だねえ」
ホイークは深く腰を折った。
それしん⑨訪れる時を気長に待つ




