第十話
つまらないが安心安全な長い路。
険しく危険だが達成感のある短い路。
あなたはどちらを選ぶ。
ハロルは最後の選択肢を選ぶ時がきていた。
ミセラ街内時計台がある住宅地
裁判官は右腕で住宅地を破壊し続けた。オルハとミルフィオラは赤いヒビから現れた闇の住人と戦っている。
ホイークは両手を広げて「裁判官殿、時は満ちた。参っていいですよ」現れた黒い雲に乗り時計台へと下がる。
裁判官はホイークの声を聞き入れ破壊を止めた。ずうーーーんと鼻筋まで地面に潜りエリゼルド達に前進。裁判官が通った地面のヒビから闇の住人がうようよと湧く。
「円層乱舞」羽衣が何層の輪になり闇の住人を擦り削るミルフィオラ。「ホイーク、私達まで働かせる気⁈」敵味方関係なく闇の住人は攻撃をしかけてくる。
「彼らに指図は難しいんでね。死にたくなければ倒したまえ」ホイークは不気味に笑う。
裁判官がエリゼルド達に行き着くまで数m。
アヴィは裁判官を見る。ふわりと一歩前に飛ぶアヴィの金髪が銀髪へと変わった。
右手を地面に翳すと地面から杖が現れ杖を持ったアヴィも一緒に上空へと上がる。その長さは5m。
「メテオ」
杖の先端についている蒼い水晶から半径50cmの異様な光が現れ、光の中心部から大小混じりの隕石が降ってきた。
隕石の氣は空。弱点属性の攻撃を直撃した裁判官は石化になり一時停止した。
杖を離したアヴィは下に落ちる。
落ちていくアヴィの左右には聖女が二人居た。ラピネスとラビネスは二人で一対。
聖女ラビネスは攻撃を特化した魔法を持つ。
着地寸前で止まるアヴィと聖女は浮いたまま空を見上げた。
裁判官の上空には闇の住人が飛んでいる。数は数え切れない。「きりがなさそうだね」
エリゼルドの声に耳を傾けるアヴィ。
闇の住人の身体に光の輪が見えた。奈落の者が現れてから空は暗く光の輪はくっきりと映す。ルフェリトロールはその輪をシャボン玉内から分析した。
光の輪は右から左へと増えていく。赤き翼から見える闇の住人全員に輪がついた時、空に揺れる風が見えた。光の輪が流れた風方向に光が帯びる。
パンパパンと音を立て闇の住人は後ろに吹き飛ばされた。闇の住人は下に落ち奈落に還る。
ピュウと口笛で歓声を上げるオルハ。
裁判官の右後ろにある民家屋根平面部上に立つエリゼルドに送った。
エリゼルドは目を細め黙ってオルハを見る。右足先が光り右斜めに滑らす。パンと弾きオルハの後ろに居た闇の住人数体を倒した。拍手して「イカすねぇえ、良い隊長だよ」と大笑いするオルハ。
未だ石化中の裁判官。アヴィは消えた闇の住人を確認した後地面に足を着けた。足元に光の結晶が浮かぶ。
「わぁ、花畑みたい」ベベルは癒やしを感じた。
メルフィーナも光の結晶を見て和んでいる。
シバはアヴィの様子を伺い、エリゼルドはアヴィの元に向かった。
「光音を使えるなんてね。あの人以外はじめてだわ」とミルフィオラは遠くにいくエリゼルドを見る。
上空から飛び降りるエリゼルド。
「アヴィ、力使いすぎ」とアヴィに近付いた。「これくらい」アヴィは自分の話しを保留する。「エリト、これからどうする?」光音を使ったエリゼルドに安堵するアヴィは指示を聞いた。
「今更だな。君は…もう少し僕の気持ちを考え「はいはい、どうすんの」アヴィはエリトの小言を遮る。「…スギュールを解放して赤き翼と一緒に戦ってほしい。僕は群がる住人とホイークを止める」
「了解」片目を閉じるアヴィ。
「うん。健闘を祈る」エリトは姿を消した。
アヴィは騎士団長スギュールを喚ぶ。
「よぉしゃ〜〜」気合いが入っていたのはナポリだ。氣の使い方を学んだナポリは経験を積む為シバとの対立を心待ちしていた。
「足引っ張らないでね」とアヴィ。
「赤き翼のシンクロを嬢ちゃんに見っさせる時が来たな」
「そう言って先走ってる事多いわよ。文句言わずについていくベベルにお礼言うべきね」
「力がみなぎってくるぅ」
「今回の戦闘で挽回しましょう」
「ああ、嬢ちゃんにエリゼルドなしでもやれるとこ見せてやらぁ‼︎」リジンはエリゼルドに対抗心を燃やす。
「エリトと比べても意味ないから」アヴィは冷ややかな目で返した。
裁判官の石化が割れ眉がぴくっと動き出す。
赤き翼は戦闘の構えをした。
動き出した裁判官はアヴィを見た。額に赤い点が縦に5ヶ所上から順に光る。
動きが止まった。
赤き翼はお互いの顔を見た後、構えをとこうとした時「来るよ」とアヴィが言う。
身体は黒から灰色に変化する裁判官。
「はずれ?」とアヴィ。
「嬢ちゃん、どう言ってんだ?」
「要は判決を下したという事でしょう」
ルフェリトロールの言葉で赤き翼は裁判官に先手を打つ。
リジンは裁判官の額に拳を下から上に力を込めて殴り込む。額がアルミ缶のようにパコと音を鳴らし凹む。リジンは裁判官から離れた。リジンに続きメルフィーナ、ナポリ、ルフェリトロール、三人の攻撃もパコペコと凹んだ。リジン同様の反応をする三人。魔法を唱えたベベルも同じ感覚。
「なんかぁ変、だよな?」と伝える語句を探すリジン。
ナポリが杖で裁判官の顔を叩く。力を入れなくても小さな凹みがパコと鳴く。首を傾げながらも凹む感覚を楽しむナポリは杖を何度も振り続けた。あちこちに凹みが増えていく。
「赤き、何してんの?」と目を細めるアヴィ。
「おかしいのよ。何ていうのか空っぽ?」
「あああ、それよ」とメルフィーナに指差して共有するリジン。
「ええ、確かにメルさんの言っているのと同じですね。殻です。
生きているのでしょうか」ルフェリトロールも奇妙な裁判官を見ながら話す。
何故か闘志が湧かない赤き翼は裁判官を見た。赤き翼はどのように対応していいのか分からなくなっていた。
「…エリト、何で上手くいかないの」とアヴィは立ち止まる赤き翼を見てエリトに助けを求めた。
光音で闇の住人を一掃するエリゼルド。オルハ、ミルフィオラもエリゼルドとは別に攻撃してくる闇の住人を倒す。
「隊長さんよ〜。新手が来まくる。こっちが疲れる前にどうにかしないとさ」オルハはエリゼルドに頼んだ。シバにも攻撃してくる闇の住人を見たエリゼルドは溜め息をついた。
「君達の世話を僕に振らないで」
時計台の前でホイークと生き残った神通力者は魔法を唱えていた。地面に描かれた紋章は普通より4倍も大きい。大きな魔法は段階ごとの紋章術が必要になる。
一つの紋章術が完了するにつれ青い線が上空を突き刺した。3つの青い線が青く光っている。
青い線を見たエリゼルドは赤いヒビから数十体と増え続ける闇の住人を見る。
オルハ、ミルフィオラが闇の住人と戦っている所を通り抜け赤いヒビの先端部に向かった。エリゼルドは踵を高く上げ赤いヒビへと勢いよく落とす。
一直線に荒波が反対側の先端部まで届く。荒波は光を帯びそのまま凍った。高さは民家の屋根より高く赤き翼もシバもその光の氷が見えた。
赤いヒビは光の氷によって閉ざされた。オルハとミルフィオラが闇の住人の数を減らす。
「師匠いいな」とエリゼルド達を羨ましそうにナポリは言った。
エリゼルドは民家屋根棟上に移動するとこちらを見ている赤き翼に違和感を感じた。
ホイーク達が唱える紋章術の青い線は半分を占めている。エリゼルドは魔法を止めるべくそのままホイーク達が居る時計台に向かった。
時計台前には数十人が魔法陣を囲んでいる。
魔法陣は召喚魔法用だった。
(召喚……)エリゼルドはシバの思惑が分からないでいた。
ホイークと神通力者を止める事を最優先するが敵の数は多い。
エリゼルドは一撃に賭ける事にした。
裁判官が止まり、悩む赤き翼の元にアヴィは浮きながら向かう。
神通力者の背後に回し蹴りをするエリゼルド。
リジンはアヴィに手を振り凹んだ場所を見させる。
回し蹴りを喰らい横に倒れる神通力者はもの凄い速さで次々に倒れていく。
アヴィは凹んだ場所を見た。
倒れた神通力者が居た魔法陣の所は中心に向かって光を失っていく。
凹んだ場所からキラリと光が見えた。
赤き翼も光を見つける。そこは凹んだ場所。
倒れた神通力者は最後のホイークで流れが止まる。ホイークの肩に寄りかかる神通力者を手で払う。魔法陣内に入った神通力者は消滅した。
凹んだ場所の光は青、黄緑、桃、赤と赤き翼一人ひとりに色をつける。
エリゼルドは一人になったホイークを見る。
アヴィは裁判官の頭に足を乗せた。
ホイークは不気味な笑みを浮かべ呟いた。「無事達成したよ」
青い光は一瞬にして一周し魔法陣が完成した。青い光は強力な光となる。だが召喚された者は居ない。
ホイークは魔法陣から離れることもなくただじっとしていた。エリゼルドは不審に思う。
遠くから青い光が上昇した。エリゼルドは再度魔法陣を確認したが何も現れていない。
青い光の場所はアヴィ達がいる場所。
笑うホイークを後にし住宅地に向かうエリゼルド。
アヴィの銀髪が空に舞う。光を遮るようにアヴィは上半身を前かがみになり両腕で顔を隠した。光が強く幅も大きくなりアヴィは光の柱に閉じ込められていた。光の圧で両腕は弾かれ手は上に伸ばす。
赤き翼は光に拒まれたように弾き飛ばされ、裁判官は光に押し潰されていた。
アヴィは両手を広げる。アヴィの顔は俯いていた。アヴィを見て赤き翼は光の柱に向かうが光の強さで前に進めない。
「嬢ちゃん」とアヴィの近く迄なんとか行けたリジンだが光の壁が遮る。
かろうじて開眼したアヴィは圧で身体の自由を奪われていた。
に、げてと口を開けるが声が出ない。
口の動きを見て「皆、下がって」とメルフィーナが赤き翼を誘導する。アヴィは笑い胸を撫で下ろす。
エリゼルドは裁判官の上に立つアヴィを見る。裁判官から強力な光に埋もれたアヴィの姿を見て何かが引っ掛かっていた。
「お疲れさん」とオルハは笑う。
空まで突き刺した青い光を思い返したエリゼルドは何かが浮かび上がる。
『来ては…だめ』
あの時の声玉が脳裏に甦る。光の中に居るアヴィが呟いた。
『キミは誰を選ぶ?』
その問いに片目を瞑るエリト。
(あの雰囲気やっぱりアヴィではない。他の何か……アヴィの力を利用する気か⁈)エリゼルドはアヴィの元へ全速力。
エリゼルドの後ろから一本の青い光が空へと伸びた。召喚魔法陣から何かが現れる。エリゼルドは視線を魔法陣に向けた。
「マーズ」と驚くエリト。
光の柱が消える。ふうと力が抜けたアヴィはそのまま下へと落ちる。
裁判官が目を開けた。動きが鈍い。灰色の肌がビキビキと鳴りながら岩になっていく。岩石が積み上げたような身体。岩と岩の繋ぎ目は溶岩のように赤く燃える。落ちていくアヴィを救うかのように手を差し伸べる裁判官。
アヴィが意識を取り戻した時には岩石の身体になった裁判官の掌の中に居た。裁判官の細長い目は笑っている。アヴィは笑う目に優しさを感じた事に怪訝した。
アヴィは端座位になり辺りを見る。アヴィの背後数十m先には赤き翼がそれぞれの反応をし無事を知らせた。
前方にはアヴィに向かって走るエリトが何かを叫んでいた。
「アヴィ!神通力を解け」と必死に叫ぶエリト。
神通力を解くことは赤き翼の能力がなくなる。神通力を外すことは不利な状況にさせてしまう。躊躇うアヴィに頭痛がした。
赤い水に浸る下肢、エリゼルドの背後に微かに見える頭がない胴体。岩石の身体になった裁判官の顔と腕が脳裏に焼き付く。
「ーーーーーーー」
言葉は分からないが誰かが語りかけてくる。
頭痛と共にアヴィの身体が青く光出す。アヴィは青く光る自分の身体を見る。
「この感じ」
赤い水に浸る下肢、エリゼルドの背後に微かに見える頭がない胴体。岩石の身体になった裁判官の顔と腕。
赤い水に浸る岩石の下肢、頭がない岩石の胴体。岩石の顔と腕ーーー
下肢、胴体、顔、腕の見える姿は身体の部位が一体に繋がっていく。
ある戦闘で奈落に落ちた下肢。足を失い身動き出来なくなった自らの生命と引き換えに敵に攻撃をした。相手の心臓を貫いたが己の頭と胴体は切り離されていた。首から溢れる溶岩。溶岩によって街はマグマと化す。
女神は神通力で全体を封印させ眠りにつかせた者。
「マーズ?」とアヴィ。
アヴィの声に応えた溶岩の胴体は一本の青い線をアヴィに伸ばす。
エリゼルドは数m先に居るアヴィに手を差し伸べた。
アヴィに触れる数mm。エリゼルドの鼻先を青い線が通り過ぎた。
エリゼルドはアヴィを抱き締める。風力で回転しエリトの片手は頭を護り抱き寄せた。
エリトの肩から見える風景。
青い線はそのまま空へと消えた。
青い線が捕らえたもの。
マーズは言う。生贄を思う存分食べれば願いを叶えると。
奈落に落ちた闇の住人と神通力者達はマーズに捧げる生贄。シバの願いはーーー
「ナポリーーー‼︎‼︎」
ベベルが叫んだ。
涙を流しながらぐしゃぐしゃになった表情で。
青い線はナポリの胸部を貫いていた。岩石のように割れていく身体。岩と岩の繋ぎ目が青く光り弾き飛ぶ。
ナポリの顔は4等分に割れた。身体が分離しても生きている。右目はベベルを見た。
何かを訴えている。
ベベルはナポリが何を言っているのか分かった。頷いて答える。何度も頷いて答えた。ナポリの笑った顔は大人びていた。
涙を流しながらニカと微笑んだベベル。
ナポリの身体は燃える炎に変わり地面に着かぬまま消えた。
アヴィの声でエリトも気付く。エリゼルドが振り向いた時にはナポリは散っていくチリだった。
ナポリの死と共鳴しマーズは燃え姿を消す。
奈落に沈んだ下肢はシバが狙っている一線上に帯びた範囲内にあった。地上は単なる道路だが、地下にはマーズの下肢が眠る奈落があったのだ。
シバの願いは火属性を持つ巨人マーズを使い[火]を解放する事。
望み通り山の麓は赤く光りまたひとつ扉が開いた。
何事もなかったように辺りは暗く静寂だけが漂っていた。シバも居ない。残ったものは荒れ果てた街だった。
被災地の援助に駆けつける軍人はミセラ街付近にキャンプ地を設置する。ルフェリトロールはナポリの葬儀の喪主として準備を進めた。ベベルは一人遠い景色を見ていた。
リジンとメルフィーナは二人を見守る。
エリゼルドは時計台の住宅地に訪れていた。
建物は壊され土地だけが広がっている。
奈落に繋がる赤いヒビは小さな緑色の多量の粒が害がないか調べていた。
エリトは時計台があった場所を見る。アヴィの後ろ姿をつらそうな表情で見るエリゼルド。
アヴィを中心に半径2mの円から青い光が上に上がっていく。アヴィは手振りをつけながら謳っていた。
大地は泣いた 枯れる草木が崩れ落ちた
海は割れた 水面から現れた道は燃え立つ炎が風を誘い道を遮った
空は堕ちた 闇が世界を呑み込んだ
人は昇天に駆けた
「悲しい謳ね」とメルフィーナ。
エリゼルドの様子を見に来たメルフィーナはナポリの葬儀が終わった事とベベルの状態を伝える。
エリゼルドは「隊長失格だね。皆を気にしないといけないのに、僕は今も彼女を気にしてる」メルフィーナを見た後アヴィに目を向けて話す。
「そんなことないわ。
貴方にもやらないといけない事があるわ」
メルフィーナは赤き翼の隊長である前にガーゼレビアでもある彼を尊重する。
「皆の所に戻る時はあったのに、僕は行かなかった」
あの時感じた違和感。選ばなかった選択肢に悔いが残るエリゼルド。
「私達を抱えての戦いよ。向こうは計画的に動いてたわ。どちらにしても掌で踊らされていたと思う」
「情報不足で招いた結果でしょう」
エリゼルド達の背後からヒールの音が近づいてくる。
エリゼルドの前に止まった。
「マーズは赤い思いに反応する。情熱、愛、嫉妬、羨望、怒り…貴方達の中で一番若く純粋で大きなものを持ったナポリさんが狙われた。
笑えるね。マーズでも貴方の生命をとらないなんて…。小さな贄で動くマーズも昔と違って落ちこぼれたものね。
アヴィ様が軸に選ばれたから贄にもならずに済んだ。アヴィ様に守られてますね?エリトさま」
三つ編みで絡めた二つの団子頭は銀髪、鋭く冷血な白い瞳。背中には骨が下に逆さになっている翼を持つ女性が居た。
エリトは話す女性の正面に向き直す。
女性の目を細める瞳は怒りを宿らせていた。
ぱああーーーーああぁんん‼︎‼︎と叩く音が響く。叩かれたエリトの口先がきれた。エリトは表情を変えず翼を持つ女性を見続けた。
メルフィーナは女性に刃向かうがエリゼルドが止める。
「アヴィ様を傷付けないで下さい。エリトさま」
「ああ、僕の失態だ」とエリト。
「次はありませんから」とそのままアヴィの元へと行く女性。
メルフィーナは女性の事を聞いた。
「神殿の天使長だよ。名前はルルセラマ。アヴィの直の守護官だね」
「次期女神様になる方だとカグナ様みたいに護衛がつくのね」
「はは、実は僕もだけどね」とエリゼルド。その返答にメルフィーナも驚く。
「という事は⁉︎」メルフィーナは指で数を数えはじめた。
守護官になる為にはそれ相応な能力がないとなれない。エリゼルドの強さは桁違いになることを指す。
メルフィーナはあまりにもかけ離れすぎて笑うことしか出来なかった。だが最近の出来事を振り返れば納得もするメルフィーナ。
「でもエリゼルド。エリト・ガーゼレビアよね?使用人が守護官になれるのかしら」
「よく気付いたね。
近くでアヴィを護る為には守護官が必要になる。だから自ら申し出て試験に受かった。まあ、シェロが認めてくれたから問題なくなれたけど」とエリゼルドは言う。
「アヴィさんの為に」
「まあね」
メルフィーナは改めてエリゼルドの覚悟を思い知らされる。
メルフィーナはリジンを想っている。その思いは本物かどうか自分の心に再確認した。
アヴィを何度も呼ぶルルセラマ。アヴィは呼びかけに答えず謳い続けた。対応に困るルルセラマ。
「アヴィ。天使長が来てる。後は天使長に任せて僕達は赤き翼の所に戻ろうか…来てくれる?」
話すエリトには圧がある。強制的にアヴィを誘導させている事にメルフィーナは驚いていた。
アヴィは返答しない。「アヴィ」と強い口調で止めるエリト。拗ねた表情を出し振り返るアヴィ。手を差し伸べるエリトの元へ行く。
手を取らなかったアヴィに怒りを見せるエリトはアヴィの右手を握った。
「逃げない」とアヴィ。
「大丈夫。そこは気にしてない」
理解に悩むアヴィは「エリトてたまに分からない事するよね」と言う。
「君だって……僕の気持ち分からないだろ?」
アヴィは返答に悩んだ。メルフィーナは守護官の話しを聞いた後のせいかこの受け答えは大きなものと感じた。
「助かりました。エリトさま」
「そう感じるのなら借りは無しにしようか」と笑うエリト。その言葉が神経にさわるルルセラマだが、アヴィが居る為神殿の挨拶で事を済ます。
「アヴィ様。あとの片付けはわたくしめにお任せ下さい」頭を下げたルルセラマは青い光の円がある場所に向かい歌を謳い始めた。
アヴィはルルセラマを見続けその場から離れようとしない。エリトはアヴィを抱き寄せた。
「今は諦めて…悪いね」とアヴィを眠らせた。
ミセラ街付近キャンプ地
赤き翼はテント内で今後を話し合う。
その中にはベベルとルフェリトロールの姿はない。
「まずはエリゼルド。二人と話して来いよ。俺らも辛ぇけど特にあいつらは…」とリジンは言葉を濁らした。
メルフィーナは沈んでいるアヴィに声を掛ける。「ありがとう。私は大丈夫」とアヴィ。
「各自好きに動いて」とエリゼルドは席を外しテント前でどうするかを考えた。
エリゼルドが向かった先は。
エリゼルドが出た数分後アヴィも外に出る。エリゼルドの後ろ姿が見えた。アヴィはエリトとは別の道を歩く。
「何だろうな。あの二人問題ねえよな?」
リジンは離れた二人の姿をテントの出入り口で見る。
「ええ、何もないわ。エリゼルドは」とメルフィーナ。その答えが返って変な感じがしたリジンはメルフィーナを見た。
ジャリと砂が鳴る。「ルー」とエリゼルドが声を掛けた。「隊長、どうかしましたか」といつものルフェリトロールが言う。
エリゼルドは今の気持ちをルフェリトロールに伝えた。
「僕が皆を巻き込んでしまった」
ピット族は一人の人間としか契約が出来ない。ルフェリトロールはナポリを失った事により聖獣の能力は消えた。
荒れ果てた故郷の復興は叶わなくなった。
「そうですね。
ナポリの性格を考えれば、隊長達が居なければまだ短い命だったかもしれません。私もね、焦っていました。誰も私の話しを聞いてはくれません。私の話しを真摯に聞いてくれたのは幼すぎるナポリでした。当時は諦めもありナポリと聖獣契約する事に決めました。酷い話しですよ。
聖獣の能力を得れば私の故郷は栄えると思っていました。純粋なナポリの夢を利用したのです。正直誰でも良かったのですよ。
その報いがナポリの死をはやめたのです。
ですから隊長達を責めていません。寧ろ赤き翼に私の居場所はありますか」
「…ルーが居たいのであれば居て。戦闘出来なくてもルーの頭脳は役に立つ。問題ないよ」
「ありがとうございます」ルフェリトロールは他人行儀にお辞儀した。
「アヴィさん」とベベルの隣に立つアヴィ。
「泣いてるのかと思った。案外強いんだね」とアヴィ。
「ナポリが泣いたらぁ駄目って。エリ君達にしがみついてでも一緒に居ろって。だから泣かない」と涙目のベベルが笑って言う。
「そか」アヴィはベベルの肩を持ち寄り添う。アヴィはベベルの耳しか聞こえない声で話した。その内容に思わずアヴィを見るベベル。アヴィは笑って頷いた。
赤き翼の帰りを待つリジンとメルフィーナ。エリゼルドとルフェリトロール、数分後アヴィとベベルが帰って来た。
ルフェリトロールは落ち込んでいた。
アヴィは「ルフェリトロール、ナポリを失ったのは私の責任もある」「それは違う」とアヴィの手を引くエリト。エリトの唇を触るアヴィ。
エリゼルドは黙って話しを聞いた。
「だから、復興の協力をするよ」
ルフェリトロールはアヴィを見る。左耳飾りが光って見えた。
ルフェリトロールは深々と頭を下げお願いする。
「アヴィさん。一生のご恩を授かりました。このルフェリトロール、微力ながらもアヴィさんのお手伝いをさせていただきます」
アヴィは笑う。「私が何をするか分かって話してる?」
「いいえ。夢を叶えば我が身だけが残り「いいでしょう。復興した土地を見てから今後を決めたらいい」アヴィはルフェリトロールの話を遮った。ルフェリトロールはアヴィを見た後再度深々と頭を下げた。アヴィはルフェリトロールを起こし笑った。
それしん①⓪短すぎる生命




