第十一話
ハロルは険しく危険だが達成感のある短い路を選んだ。
彼が得たもの。それはある者からの恩恵。
ハロルのオッドアイが消え瞳は異端者と同じ赤い眼に変わり悍ましいオーラをまとっていた。
ひゅんーーー
「いやぁ、癖になるねぇ」
リジンは魔法札[飛行]を気に入っていた。
「やめて。便利がいい分、集める材料が多すぎて作るの大変なの。馬鹿にならない」とアヴィ。
「はわわー、本当に着いちゃった」
「凄いわよね。守りが堅い所でも行けれるわよ」
「はは、その後の制圧が待ってるけど」
「んなあ、心配する事ねえだろ」
赤き翼はいつものテンションで会話を楽しむ。ルフェリトロールは黙って赤き翼を見ていた。
魔法札[飛行]で辿り着いた場所は何もない野原。「ここがルーの故郷?」とエリゼルド。
「いえ、この先になりますな。急に現れたら驚くピット族も居るでしょうから離れた所に指示を出しました」とピット族に気を使うルフェリトロールが言う。
ピット村に向かうにつれ草むらが減っていく。土も黒く乾いていた。エリゼルドはアヴィを見る。普段通り歩いて行くアヴィに安堵した。
先に歩くリジンの姿を見たメルフィーナの頬は赤らめいていく。リジンはメルフィーナとは反対の景色を見て周囲の確認をしていた。
「アヴィさん」エリゼルドに挨拶した後アヴィの元に駆け寄るベベル。
「おぉ、おぉ、エリゼルドはいいのかよ」
「よくないけど、アヴィさんとも話すの‼︎」とベベルの心境に変化があった。
エリトは笑う。「嬉しそうですね」とルフェリトロール。
「うん。仲間が増えることは有り難いからね。
君もアヴィの力になるんだったら僕達と進む道は同じになる」エリゼルドの話しを黙ってルフェリトロールは聞く。
「…代償を払うよ?」とルフェリトロールの反応を見たエリトが言った。
「ピ、ピット村が復興すれば狙ったりしませんよ」と慌てて否定する。
「だったら、いいけど。先の事考えながら歩もうか。アヴィと違って僕は甘くないから」とエリト。ルフェリトロールは硬直した。
エリゼルドはアヴィの隣へ行く。エリゼルドの様子を見て「虐めた?」と笑うアヴィ。
「人聞き悪いな。忠告しただけ」
アヴィは黒い土を踏む。乾いた土は枯れていて作物も育たない。村の生活が目に浮かんだ。
ピット村の門が近付く。アヴィの歩幅が狭くなりいつの間にか赤き翼の後についていく。エリゼルドはアヴィの近くで見守りながら歩いた。
辿り着いたピット村は穢れが満ちていた。
ピット村ナーンナナン区
ピット村はエアリス国のあらゆる所にある小さな村。全ての村がピット村の為、何々区と分けられている。
村に入ると黒い土だらけ。黒より濃い土の部分は悪臭を放つ。柵を張られ[立ち入り禁止]の看板が柵に貼られていた。
この黒い土が原因でピット村の宝となるルーンが枯れ村は滅んだと言う。
「見せた方がはやいでしょう。こちらに来ていただけますかな」
ルフェリトロールは村の奥にエリゼルド達を案内した。
辺りを見回してもピット族の姿が一人も居ない。「他のピット族はぁ?」とベベルが問う。
「皆さんは夜に活動します。月の光の方が微かですがルーンが働きかけて暮らしやすくなります」
ピット村には大きな原石ルーンがある。ルーンは生活する上で大切なものでピット族全員が守っていると言っても過言ではない。
ルーンの前に着いた赤き翼。ナーンナナン区のルーンには輝きはない。
ルーンを見るアヴィは「ルーンの輝きを取り戻せばいい「出来ますか?」すかさずルフェリトロールは言う。
コンコンと原石を軽く叩くアヴィ。「属性は地?」
笑顔で何度も頷くルフェリトロール。
「そか。エネルギー源はここも」と小声で言う。ルフェリトロールの耳に入らず無邪気な表情をアヴィにずっと向けていた。
アヴィの様子に状況が芳しくないと感じるエリト。
アヴィはエリトを見た。エリトは頷く。その対応を見続けるメルフィーナに「珍しくねえか?メルがんながっつり二人を気にするとかよ」とリジンが声を掛けてきた。
「そうかしらね?
何か問題が生じたのよ、きっと」
エリトは守護官、アヴィは現人神の神官兼女神候補生。二人は上の位を持つ者。
政治に関わりがあると踏んだメルフィーナは踏み込んではいけない一線を越えたと、思わずごくっと唾を飲み込んだ。
固まるメルフィーナにリジンは肩を揺さぶる。「メル、メルって!おぃ、大丈夫かよ⁈」とメルフィーナがリジンに気付くまで声を掛け続けた。メルフィーナの顔が青い。
メルフィーナはリジンの手を払い「エリゼルド、話し合いをしたいわ」とエリゼルド達に会話をふる。
普段と違うメルフィーナにリジンはベベルと目が合った。ベベルも首を傾げて答えた。
「言いにくいけど、この原石が地だから何もできない」とアヴィ。
「何故ですか⁈」
「現人神さまが地を司る神だからだわ」
「うん。メルの言う通りだね。世界を繁栄する為には犠牲はつきもの。力が必要になった時にピット村の原石に手をつけたんだよ」エリゼルドはメルフィーナの答えに補足する。
答えは世界の為に滅んで当たり前だと返された。やむを得ない答えがルフェリトロールにのしかかる。
「私は今迄、無駄なことをしてきたのですか⁈
それでナポリは死んだのですか?!」
ルフェリトロールは座り両手を地面につけ嘆いた。
「ナポリと原石は無関係。ナポリはシバによるもの。原石は現人神によるものね」とアヴィ。
「ええ、ルー悪いけど…手をひいた方がいいわ」とメルフィーナはルフェリトロールの肩を揺らす。
メルフィーナの態度にリジンは不思議に思った。
「ルフェリトロール」と項垂れるルフェリトロールに声を掛けるアヴィ。
「忘れてない?」アヴィの声にルフェリトロールは顔を上げた。
アヴィの左耳飾りがキラリと光る。救いの一手が目前にある。ルフェリトロールはアヴィに縋った。エリゼルドは二人の間に入り阻止する。
アヴィはエリトの隣に立つ。「いいんだね」とエリトはアヴィに確認をとった。アヴィは頷いた。
「エリトはここでルーンを見てて。私とルフェリトロールで行く」
「うん。くれぐれも気をつけて」とアヴィに伝えた後「無理をさせないで」とルフェリトロールに言うエリゼルド。
ルフェリトロールは足についた土を落とし、ルーンに向かうアヴィの後を追った。エリトは走るルフェリトロールの腕を持つ。
「アヴィに何かあったら、救った村はなくなると思えよ?」
ルフェリトロールは恐怖に耐えながら「分かってますとも」と震えながら話した。エリトはルフェリトロールの目を見た後腕を離す。
ルーンを救うことが決まりメルフィーナは俯いた。リジンはメルフィーナの隣に座る。「のんびり待とぉや?」とメルフィーナを誘った。メルフィーナも思いつめた表情で笑う。「ええ…」
「土恋し、茶子よ。御霊より進呈を」アヴィは茶色の光に包まれる。ルーンに触ると原石はアヴィごと取り込んだ。揺れる圧がルーンの奥から見える。
「何してんの?行きなよ」とエリゼルド。
エリゼルドを見た後ルフェリトロールもジャンプして中に入っていった。
揺れる圧は消え輝きのないルーンに戻った。
ルーン内部
「アヴィさん、アヴィさああぁぁん」
ルフェリトロールの声が響く。辺りを見渡してもアヴィの姿がない。波状の一本道と灰色一色の景色。ルフェリトロールは独りぽつんと立つ。ぶると寒気がした。再度辺りを見直し一本道を歩くことにする。
左前側から長方形が通り過ぎていく。右前側にも同じ長方形がルフェリトロールの横を通り過ぎた。大きさは大中小の長方形が歩く度に右、左、右、左、左に現れては通り過ぎていく。
長方形をよく見ると何かしらの景色が見える。画像3分割が順番に動いていた。景色、道端、動物と何かのいきさつを表していた。
ルフェリトロールは歩きながら長方形の景色を見る。何処か見覚えある事に気がついた。
不思議に思うルフェリトロールは正面を向き直すと一枚の長方形が道を塞いでいた。
「ホウガカス草ですかな?」顔を前にやり薬草を見分ける。
長方形の中心から風を感じ、吸い込まれるようにルフェリトロールは長方形の景色に入っていった。
景色は色鉛筆で描かれた淡く優しい雰囲気に包まれていた。ルフェリトロールが歩くと木々も一緒に動き出す。
何m先にうずくまっているピット族の子供が居た。「どうかしましたか」とルフェリトロールは子供の隣で腰を落とす。
ルフェリトロールを見た子供のピット族の顔は鉛筆で斜線をひかれ顔が見えづらいが口は笑っていた。
急に立ち上がる子供のピット族は手招きをし歩き出す。行く当てがないルフェリトロールは後についていった。
子供のピット族はケラケラと笑い出す。
ルフェリトロールの回りを走りはじめた。ルフェリトロールは子供のピット族を目で追いかける。
走り回るピット族の影が大きくなっていく。一人の影が一人また一人と増える。口角があがり笑う影は手を繋ぎスキップをしながらルフェリトロールを嘲笑っていた。
叫び声が聞こえた。囲まれたルフェリトロールの前方には何者かから煽られているピット族が居る。
何者かに土下座をするピット族はゆらと立ち上がり苛立ちをルフェリトロールにぶつけた。
パッと電灯が上から照らされたルフェリトロールは上を見た。チカチカと電気が鳴った。
走り回る影も叫び声も居なくなり、遠くには地のルーンが見える。
何mとあった距離がいつの間にかルーンの目前に立っていた。ルフェリトロールは座り込み、茶色の光で輝いていた地のルーンを見上げた。
あいつだ
地のルーンに映るピット族がルフェリトロールの背後に立っていた。
振り返るルフェリトロールの姿は子供になっている。指を指され怖気づくルフェリトロールを守るように前に立つ一人の青年が現れた。
「ふぅ、はあっ‼︎」
ルフェリトロールは波状の一本道に居た。
灰色の風景だけの中ぽつんと独り座っている。
「ちかちか茶色の光が出てくるねぇ?」
「そうだね。上手く繋がっているのかもね」
妙な光を放つ地のルーン付近で待つ赤き翼にピット村ナーンナナン区の村長が訪れる。エリゼルド達は村長に事情を話した。
「…そうでしたか」村長は喜んでいない。
「生活が豊かになるんだろ?困った顔はねぇよ」とリジン。
「現人神さまに喧嘩売っているのと同じなのよ?喜ぶ事なんてできないわよ」
「そうだね。まあ、ピット村ではなく喧嘩を売ったのはアヴィになるね」
「どうしてぇ?」とベベル。
「地属性を別属性に変えるからだよ。機能しなくてもルーンは地。属性を変えることはその土地を失うのと一緒になる」
「嬢ちゃんの属性は?」
「[空]だね」エリゼルドは何処か嬉しさがあふれている。
「左様でしたか……う〜〜ん」首をひねる村長。
「何かあるのかしら?」
「……実は」
キィーンと金属音がルーンから聞こえる。赤き翼はルーンを見た。振り向く途中にエリゼルドの脇腹に飛びかかってきたのはルフェリトロールだった。二人は一緒に転ける。
エリゼルドの腰部にしっかりとしがみつくルフェリトロールに「怪我してない?」と聞くエリゼルド。「隊長⁈」ルフェリトロールは満面の笑み。
「アヴィは?」
「え、ああ、はい。ルーン内部では会ってないですな。独りでしたから…」
「そう。皆は村長の話を聞いて。僕はアヴィを見に行ってくる」エリゼルドは赤き翼に伝えた後チカチカと光るルーン内に入っていった。ルーンを見るルフェリトロールの頭をリジンは手を乗せた。
エリゼルドはルフェリトロールと同じ道を歩く。長方形の景色を気にせず、正面にも一枚の長方形が立ちはだかれても飛び越え走る足を止めなかった。
茶色く輝く地のルーンの前にアヴィが倒れていた。アヴィをルーン内に取り込もうと茶色が強く光るにつれズルと身体をルーンに寄せられていた。
エリゼルドはアヴィを抱き頬を軽く叩くが応答しない。アヴィを抱き抱えたエリゼルドも一緒に茶色が強く光るにつれズルッと寄せられる。
ルーン内に居る為破壊する事もできない。エリゼルドはアヴィの左耳飾りの最後の一つを引きちぎった。
アヴィの内なる光と耳飾りの光が共鳴する。
エリゼルドは耳飾りをルーンに埋め込んだ。
光が溢れエリゼルド達は光に包まれる。
ピット村ナーンナナン区のルーンは銀色に変わっていた。目の前にはエリゼルドとアヴィが横たわっている。赤き翼はエリゼルドの身体を揺さぶり起こす。目を覚ましたエリゼルドもアヴィを起こした。
村長はすぐさま目を覚ましたアヴィの元に行き跪く。
「本日からここは貴女様のものです。何かありましたら何なりとお申しつけください」
「かしこまらなくていい。それに私は支配する為に復興させてないから」とアヴィ。
「…ここは、[空]が強い土地になります。どうかお納めください」
村長は村を手放したがっていた。村長の態度を見たエリゼルドは「何かあったら許さないって言ったよね」とルフェリトロールに強い口調で言う。
ルフェリトロールは「み、見せる方がはやいですな」とルーンの後ろにある茂みに入り草を左右に分けると2mの氷が現れた。氷の中は一人の男が居た。
「こやつが居る限り、私達の村は終わりです。どうかお納めください」と村長が声を大にする。
ルフェリトロールは村長の姿が哀れに見えた。村長の代わりにルフェリトロールは赤き翼にピット村ナーンナナン区に起きたことを話した。
氷の中に居る男は生きたまま眠っている。
男の名前はカイツ・グロウバロ。
ある日ピット村ナーンナナン区に旅の途中で立ち寄った冒険者。
冒険者の割には身体つきが細めで筋肉がない。ピット族は見た目を見て冒険者ではないと疑っていた。ピット村に居続けるカイツはすすんで村の為に懸命に動いた。その姿に心を打たれたピット族は彼を認め村人のように接するようになる。
だがルフェリトロールはカイツを嫌った。優しく接するには何かの理由があると子供だったルフェリトロールは思う。村人達はルフェリトロールの声に耳を傾けなかった。
カイツが来て2週間、3ヶ月、2年と長い年月が過ぎていく。ルフェリトロールも日々の流れの中疑いも忘れカイツを村人として受け入れていた。
カイツはある出来事を耳にする。現人神様の生誕祭に贈り物を渡すとその土地は平和になると言う話だった。カイツは村長に提案を持ちかけたが村長は断った。
贈り物をしないと聞いたルフェリトロールは村長達の意見を聞かず生誕祭の贈り物を渡す為に一人で首都に向かった。小遣いで貯めたお金をくずしピット族が開発した小型船で首都に辿り着く。
生誕祭の贈り物を受け取る受付は宿屋の隣にあるが長列で入り口が見えない。圧倒したルフェリトロールの後ろから次々に訪れる同じ目的の人達に抜かされていく。
長列に並んだルフェリトロールは漸く順番が回ってきた。受付者にあるものを渡す。
それはナーンナナン区しか育たない野菜の苗だった。笑う受付者は贈り物リストと書かれたノートのページをめくり野菜の苗をピット族ナーンナナン区の贈り物として登録する。
受付者がルフェリトロールに苗を返したことに驚くルフェリトロール。
贈り物は一つだけ。ルフェリトロールより先に登録されていた贈り物はナーンナナン区の地のルーンだった。
ルフェリトロールは急いで故郷に帰る。
贈り物の価値が大きい程、福が舞い込むと聞いていたピット族とカイツは未来に期待していた。
ルフェリトロールはカイツに怒りをぶつける。カイツの味方をするピット村全員から指摘されルフェリトロールは孤立した。
生誕祭日、ナーンナナン区の地のルーンは現人神のものになる。何年過ぎても変わらずピット村に被害は起きなかった。その為ルフェリトロールは更に疎外感を味わう。
ルフェリトロールが大人になった時、悲劇が起きた。地のルーンの輝きが消え村の灯火は沈み、村中に穢れが漂う。
空属性を持つカイツには穢れが耐えれなかった。正気を失いピット族を襲うカイツ。
地のルーンの力を取りに来ていた軍隊は幸いにもピット村に残っていた。軍隊は正気を失ったカイツを確保した。
「彼は光音修得者。
倒すことが出来なかった軍隊は氷の中に眠らせるしか出来なかった。貴方ならあるいは彼女なら彼を退治できるかもね」
聞き覚えのある声がする。赤き翼は白いサロペットを着ている女性を見た。
「その雰囲気だったら、まだアヴィを任せられそうだね」とエリゼルド。
女性は笑う。
女性は地のルーンの力を取りに来た軍隊の副官ファラ。カイツを氷の中に眠らせた人物。
ファラにはもう一つの名前がある。
赤き翼も面識がある彼女の名前はミルフィオラ・セレナ。
「エセ女神の連中は好きになれそうにない」
それしん①①ナーンナナン区の過去




