第十二話
エアリス国各地では凶暴化した魔物が多く棲んでいる。討伐隊も手に負えない程凶暴化している為、魔物の棲家に近い街や村はひっそりと暮らすしか出来ない。
このまま目をつぶるしか方法はなかった。
ハロルは手に入れた力で魔物の退治を行う。
右手に魔物の頭を持ち左手にも魔物の頭を持つ。お互いの頭をぶつけ潰しどろどろの血がハロルの身体につく。
ハロルから揺れ流れる赤黒い氣を見たワンドレッヂは身がすくんでいた。
ピット村ナーンナナン区
ミルフィオラ・セレナ。村潰し[シバ]の一員で羽衣を武器にする踊り子。属性は水。
彼女はシバに入団するまで軍隊の副官を務めていた。本名はファラ・スクラフ。
ファラは定期的に氷の中に眠らせたカイツ・グロウバロの状態を確認しにピット村ナーンナナン区に訪れていた。
地のルーンが消えてから土の色が変わり日に日に地面の穢れは大きくなっていく。
穢れた地面の温度が高い事から氷が溶けていないか再度氷を強化すべきかシバの任務の合間を縫って検査していた。
「ピット族…ここが故郷とは皮肉ね。ふふ、しかも相棒を死なせてしまった私に会って感謝もしないといけないなんて。
気の毒だわぁ」
最後の言葉には不気味な笑みを浮かべた。見下げるミルフィオラ。
ルフェリトロールは右手を握り締める。ギュギュッと力強く握る拳は震えた。その行為は非戦闘員になったルフェリトロールが出来る足掻きだった。
「エリゼルド、戦うにしろピット族らをどっかに移そうや」
「エリ君、私たちは離れた所でぇ応援になるよね?」
「そうだね。…あとアヴィ、君も今回は見守って」アヴィは素直に了承する。
「各自速やかにサポートよろしく。
終わり次第氷を溶こう。ミルフィオラ、赤き翼のやり方で話は進める…いい?」
「ええ、好きにすすめなさい」
赤き翼はピット族の安全と戦闘準備を整えた後、ナーンナナン区の空のルーン前に集合した。
「慣れた手つきね。シバに入らない?」
「悪りぃな。悪にはなれね」
「エリ君次第なら…」村潰しシバ入団の誘いを悪い気はしないベベル。
「はは、まあ、リアルにアヴィが入るなら考えてもいいけど」
「本気…⁉︎」隣に居たメルフィーナは距離を置く。
「馬鹿なの。冗談でしょう」目を細めるアヴィに「今の彼ならあり得るわ。アヴィさんが縄持ってないと堕ちるわよ?」アヴィの両肩を持ったメルフィーナはなりふり構わず伝えた。
リジンはメルフィーナを見て小さく首を傾けた。
赤き翼は高台からエリゼルドとミルフィオラを見守る。
「見るだけしか出来ねぇんだからよ」
「次元が違うせいだわ…」
「エリ君」
「……」アヴィとルフェリトロールは黙って様子を見ていた。
ミルフィオラは羽衣で氷に亀裂を入れる。
「何度も言うけど、彼は光音修得者。
気を引き締めないと貴方の身は血の海にされるよ」
「問題ないよ。僕も光音修得者だ」
氷の亀裂が地面まで達した。
ミルフィオラはカイツの強さを知っている。余裕をみせるエリゼルドに不安がよぎった。横目でエリゼルドを見たミルフィオラは聞き取れない声で話すが、エリゼルドは気にもせず割れる氷を見る。
「無限に広がる空よ。守となれ」アヴィは光の壁で周囲の被害拡大防止をする。
エリゼルドは右手を振り背後に居るアヴィにお礼を伝えた。
割れた氷から本来の氣と異様な氣が混じり出すカイツが起き上がる。開眼した瞳は光がなく曇っていた。立ち上がったカイツは俯いたまま両手から光の渦を出す。
「ちぃっ、早速光音を使いやがって‼︎」ミルフィオラは10cmのダガーを両指の間に挟み構える。
「逃げてもいいけど」
ミルフィオラはエリゼルドを睨んだ。
「なに?ワザとにアヴィと同じ言葉持ちかけてるねえ⁈」
「はは、傍に居ると言葉もうつるものだよ」エリトは顔がほころんでいる。
「くっ、惚気か……いいわ」
ミルフィオラは一度に全てのダガーを投げるが、カイツに届く前にダガーは震えたまま止まる。
気付かないうちにカイツは防壁を張り、ダガーは貫通出来ず防壁に刺さった状態。
「苛つく話を持ちかけたから見なさいよ。防御できる隙を与えたじゃない!」
ミルフィオラは光の渦を溜め込むカイツを指差して話す。
「大した事ないよ」
エリゼルドの言葉に更に腹が立つミルフィオラ。
二人の会話をよそにエリゼルド達の地面から数十個と光の輪が浮かぶ。光の輪が浮かんだ数分後にはパンパパパンと音を立て弾いた。
空中に高く飛ぶエリゼルドとミルフィオラ。
逃げ回る二人の後を追う光の輪。
エリゼルドは指先を光らせ空中に輪を作る。迫り来る光音をエリゼルドの作った輪が足場となり避けやすくなっていた。
右人差し指に光を集中させ指鳴らしをするエリゼルドは防壁に穴を開けるがすぐに閉じた。防壁を壊さないとカイツに攻撃が届かない。
エリゼルドは地面に円を書くように降りた。カイツは標的をエリゼルドに定める。光音がエリゼルドに集まった。
エリゼルドの耳、腰、手首、膝と光の輪がつく。エリゼルドの空間にも光音が数十個つけられ逃げ場がなくなっていく。パパンと音が響き全ての光音が放たれた時には光音の光で周囲の状況が見えなくなっていた。
光った光はぬとと下に垂れた。光が粘る液のように下に沈む。姿を現したエリゼルドは無傷だった。
左手を振るエリゼルド。キュウウンと音が鳴った。すぅと光の輪は薄くなっていく。
「光音を消した⁈」
ミルフィオラは驚くと共にカイツも首を傾げている。カイツは光音を放つがキュウウンと光音が吸収された。もう一度光音を放つカイツはエリゼルドの振るった左手によって吸収されていく。
「何度しても同じだよ。
光音は厳密に言えば無敵。身体についた光音を外す事が出来ない。ただ死を待つだけ。
まあ、その場から動かなくても攻撃ができるのも利点か。
僕は光音修得者と同時に闇属性を持ってる。光音を逆さに捉え闇で沈ませる事で無力化を図る」
ミルフィオラは説明を続けるエリゼルドを見た。
「それに彼は完全な修得者ではない。
だから、相違属性持ちの僕の方が上みたいだ。悪いね」
「こいつ」反応したのはミルフィオラだ。
(どうりで能力が読めれないわけね…厄介な敵になる。ホイークに報告しないと、真面目に危ないわ……)左足をトントンと爪先で地面を蹴るエリゼルド。その余裕さに納得したミルフィオラ。
属性は一人に1つ持つのが一般的。
相違属性、一人に違う2つの属性を持っている事を指す。エリゼルドの場合、エリゼルドは闇属性を使用しエリトは空属性を今迄使用していた。二人は同一人物の為一人に闇と空2つの属性を持つ事になる。
同一属性、一人に同じ2つの属性を持っている事を指す。ここではカイツが当てはまる。空属性と空属性を持っている。
「空属性が2倍あるから光音が使えるて事だね」と赤き翼に言うアヴィ。
「嬢ちゃん、だったらよ。うちんとこのエリゼルドはなんで光音使えんだ?」
「1つの属性が2倍に値するて事じゃない?」
「もう凄いしか言いようがないわ」両手を両頬にあてたメルフィーナの目が大きく開く。
「エリ君のカッコ良さはそこからもきてるんだねぇ」エリゼルドを見る目は輝かしい。
「ーーーー」ルフェリトロールは言葉を出さず口が開いたままエリゼルドを見た。
エリゼルドは左手を振るうと防壁が溶けていく。後退りをするカイツ。正気を失っても危険だと分かっていた。
「さあ、終わろうか?」エリトの眼は笑っていない。ミルフィオラはカイツよりエリゼルドの方が狂っていると感じた。
「[剣山]‼︎‼︎」
カイツの両腕両足に数百の針が刺さる。血が流れゆく腕を見たカイツは痛みを感じず首を傾げた。ミルフィオラの前に魔法札を放ったルフェリトロールが居た。
「楽に死なせません!今までの報いを一緒に償いましょう、カイツ殿」
魔法札[鎖池]を発動するルフェリトロール。カイツの足元から太めの鎖がカイツを縛った。
光音を使うと鎖が反応し力は水滴となり鎖を伝う。カイツの足元は池のように水が溜まった。拷問時に使用する魔法札で能力を一時的に弱体化させる。効力時間は能力が強い程短い。
エリゼルドは振り向きアヴィを見た。
ルフェリトロールが志願した為アヴィは魔法札を渡し光の壁内に入れたのだ。
アヴィはエリトを見て笑った。その笑みにエリゼルドは頭を抱えた。
「お人好しなんだから」と片目を瞑るエリト。
エリゼルドは光音を使うカイツを止めた。
「ルー、光音は抑える」とルフェリトロールの願いを叶え赤き翼の元へ行くエリゼルド。
ミルフィオラも慌ててエリゼルドについていく。
「待ちなさい。いいの?ピット族死ぬよ」とアヴィ付近の壁に寄りかかるエリゼルドに言う。
「僕の役目は終わったから。光音なしだから問題ないよ」エリゼルドの両腕両足は紫黒色になっていた。ミルフィオラはその姿を見る。
「まるで底なしだわ」エリゼルドは光音を吸い続けていた。
鎖は胴体、そして首から腕へと繋がれ数百の針は両腕両足に刺さった状態でも息切れせずにじっとルフェリトロールを見るカイツ。
「あの時贈り物を取り消して苗に変えなかった私はずっと後悔してまいりました。
ですが、一番憎いのは何も知らない村長達に要らない知恵を渡した貴方です。
そうは言ってもお陰様で知恵を増やすきっかけでもありました。勿論感謝はしてますとも。ですから、そのまま逝かせません。
貴方ならカイツ殿なら分かってくれると信じてます」
ルフェリトロールは魔法札[靴]を発動。靴の踵にはバネが付いていた。飛び跳ねる姿は成獣だった頃を思い出させる。
カイツは両腕の鎖を引きちぎり刺さっている剣山の針をへし折った。[鎖池]の効力が切れる前にカイツは破壊する。ルフェリトロールに向かって数個の針を投げ刺す。
ルフェリトロールは魔法札[盾]で針を防ぎ[柱]を発動。カイツの周りを飛び跳ねる。円柱を砕き道を塞ぐカイツ。円柱が砕けても足を止める事なく走り続けるルフェリトロール。
光音が使用できないカイツはぐるぐる回るルフェリトロールに身体に巻き付いていた鎖を振り回した。魔法札[斧]で長い鎖を切断し攻撃を防ぐ。
「泡」ルフェリトロールは両手を前に突き出す手の中に泡が泳ぐ。泡の中に砕けた円柱が入り茶色く濁った。
ルフェリトロールは次なる魔法札[極]を放つと右手は青、左手は赤になった。手の甲はピリピリと電流が流れている。ルフェリトロールの掌に泡が吸い付くようにピタと引っ付く。ルフェリトロールは自身の胸部にあたるまで泡を引きつける。カイツは思い出したかのように空魔法を唱え始めた。
ルフェリトロールは掌を裏返すと泡は勢いよく飛んだ。泡が小さな点に見えるほど急加速しカイツの大腿部を貫く。
成獣の力を失ったルフェリトロールの腕力はおちていた。心臓付近を狙ったものの力が衰え腕が下がったのだ。少し動いただけだがルフェリトロールの体力は限界に近かった。
カイツは汗ばむルフェリトロールの頭上に居る。ルフェリトロールは荒い息を上げ顔を見上げた。
(はぁ、はぁ)
(はあ、はぁ…)止まらない息切れ。
「ルー」と赤き翼が叫ぶが光の壁で入れない。
声だけがルフェリトロールの耳に入り小さく笑った。
赤き翼はアヴィに頼んだが動かない。エリゼルドも同じである。ミルフィオラが舌打ちをしルフェリトロールの所まで走った。
空魔法は光の剣を出現させルフェリトロールの頭上に構え振り下ろすカイツ。
血が飛ぶ。ルフェリトロールの毛は赤い血で身体の前方が染まっていた。ミルフィオラはルフェリトロールの前で両手を広げている。
口角があがるカイツ。
息を吐くミルフィオラ。
ルフェリトロールの右手は地面の土と一緒に握り締めた。
「ルー……はや、…殺、して…」
カイツは自分の横腹に光の剣を刺していた。ふらつきながらも立ち続け両手は光の剣の持ち手を離さなかった。光音を封じられた事で徐々に正気を取り戻し、カイツは自分を止めるべく自ら刺したのだ。
「ルゥ…ッ」とカイツ。
ミルフィオラはダガーをルフェリトロールに渡す。「チャンスは今しかない」
ルフェリトロールはミルフィオラからダガーを受け取った。
ルフェリトロールは泣いていた。
泣きながらダガーをカイツに向ける。静かに目を閉じるカイツ。カイツの脳裏にはピット族の皆とふれあっていた。
少しずつ自分に懐いていく子供のルフェリトロールの笑顔。
その笑顔は赤い血で飛び散った。「あ…ああ」大きく開ける口はひくひくと口角をあげようとするカイツ。
ルフェリトロールがダガーで刺したのは心臓部付近。血を吹き出したまま笑うカイツ。
「あり、が、…ぉ」
ルフェリトロールはダガーを地面に捨てた。
「地のルーンは村の心臓部になります。
枯れ果てる村をただ見る事しか出来なかった辛さが分かりますか。
だから、私も貴方が逝くのを見続けます。
それで許します」
カイツは口を開け話すが内容は分からない。ルフェリトロールは地面に這いつくばるカイツを見下ろした。
赤き翼に呼ばれて戻ってきたピット村ナーンナナン区の村人もカイツの周りには誰も寄りつかなかった。それまで孤独で生き続けてきたルフェリトロールの周りにはピット族が集まってくる。
村人達と和解したルフェリトロールの姿を見た赤き翼は何も言わずその場を立ち去る。
立ち去る赤き翼に気付いた村長は深々とお辞儀をした。ルフェリトロールも続けて感謝を伝える。
復興したピット村ナーンナナン区をピット族全員と一緒に村を発展させる為に残る事を決めた。赤き翼の背中を見るルフェリトロールはどこか誇らしげだった。
それしん①②立ち止まるな
ルフェリトロールは胸の中にある声が聞こえた。
村を発展する事は必要なこと。だがルフェリトロールにとって小さくなっていく赤き翼が自分の居場所に見えた。
立ち尽くすルフェリトロールの背中を押す村長。「今逃すと後悔しますぞ」
ルフェリトロールは村長を見る。村長は優しい眼差しで涙を流すルフェリトロールの頭を撫でた。ルフェリトロールは撫でられた事で心が晴れた気がした。
ピット族に別れを告げ赤き翼を呼ぶルフェリトロール。
振り向く赤き翼は手を上げた。
笑顔がこぼれる。「立ち止まらず前に進みましょう」ルフェリトロールは自分の胸に返すように言った。




