第十三話
からんと万年筆を置く。
「どうかな?」
エリゼルドはアヴィに紙を渡す。
紙を受け取ったアヴィは「エリトは絵を描くの上手いよね」と笑って言う。
「君は褒め上手だから、僕の絵が上達しやすいんだよ」と笑うエリゼルド。
ファラは所属していた軍隊の隊長に連絡を入れる。
「ええ、私も暇ではない。早目に持ってきて」
ファラはピット村ナーンナナン区の村長に亡くなったカイツの棺を頼んだ事を伝える。
「ありがとうございます」村長は頭を下げた。
空のルーンになってから地面の穢れはなくなりルーンの周りには光の結晶が守るように生えていた。
ファラは笑う。「結晶が邪魔で近寄れない。見事ね、エセ女神は」
ピット村全体を歩き回り状況を見た後、村長が用意した寝室に向かう。
ドスンと力任せに腰を下ろし椅子のクッションが沈んだ。
白いサロペットは茶色く汚れている。茶色くなった跡を右手で辿った。
「土、土、土、土、土!何処を見ても土だらけ。勘弁してください」
ライフル銃を地面に置きヘタレ座るファラ。
「ははははは。ファラは面白い事を言うなあ。ここは戦場だよ。土に草に、川に、ワニだっているに決まってるだろ」
同じ軍隊服を着てライフル銃を担ぐ青年は今までファラが嘆いたものを言う。
「笑わないでくださいよぉ!隊長と違って私はか弱い女の子なんですから」
ふはと笑い出す隊員キウス。「ファラ、お前から入隊したと聞いてるぞ」
「私も役に立ちたいんです!私にはこれしかないんです!」ある隊員は入隊に志願した当時のファラの真似をした。
「や、やめてください。…みっともない」
「はいはい、そのくらいで」と隊長サトロエ。
サトロエの人柄なのか他の軍隊よりもアットホームな雰囲気に近く毎日大笑いして過ごしていた。
戦場で勝利し続けてきた軍隊は戦場から各地の地域へ異動になった。
サトロエの指揮は的確だった。
サトロエだけが群を抜いて目立っていく。
現人神に関わる業務を担当する軍隊から注目される。サトロエの目前に現れた軍人ムタ。
ムタは現人神に関わる業務を担当する軍隊の軍人。隊長に頼まれサトロエを迎えに来たと言う。正式な招待状を頂いた為断る事は出来ない。
気が進まないサトロエ。「行ってくるよ」とファラに伝えた。
「行って…らっしゃい」ファラは軽く手を振る。サトロエの大きな背中が小さくなる迄見送った。
「隊長。俺たちを連れて行く事を条件にいつもいつも頼んでるんだってよ」
「あー、聞いたことあるわ!むごい仕打ちされてる時もあるとかな」
「置いても構わないのに…」
「この仲間じゃないと意味ないてさ。今までの実績は俺らもあるからてさ」
「隊長」ファラは隊員達の話を聞き感極まる。
サトロエは重たい足をずるずると引きずって戻ってきた。「隊長!大丈夫ですか?」ファラはサトロエの所に駆け寄った。
「皆、喜べ」肩の上にのせた掌に温もりを感じるファラは隊員に向かって話す隊長を見ながら聞いた。
『現人神さまの担当をする事になった』
優秀な人材を見つけると徐々に階級を上げ、現人神の守りを外側からも固めていく。サトロエの評判も広まり優秀な人材として選ばれたのだ。
笑って話すサトロエだが、笑顔は空笑いだとファラにも分かっていた。
現人神に関わる業務を担当してからのサトロエは笑わなかった。笑うが自然な笑いではない。あの時と同じあの空笑い。
その笑いももう見ることが出来なくなった。
「弱いから、弱すぎるから何も知らなかった‼︎
何も手伝うこと出来なかったなんて」
ファラは一人わんわん泣く。軍人達は敬礼をしたまま棺を見る。
隊長は神殿の神官の手によって殺された。
ある任務で失敗をしたらしい。軍隊には知られていない任務をサトロエは一人隠れて遂行していた。
〜すまない、皆。
私はもう限界に近いようだ。
私がこの世を去った時は解散をしてほしい。
今後は自分の為に生きてくれ。
……………後は頼んだ〜
隊長の手紙はぼろぼろで急いで書いたのか便箋の罫線からはみ出ている。サトロエの血だろうか最後の文字は血で滲み破れて見えなかった。
軍隊は一枚の手紙を読み終わっても目を離さず見続ける。顔を上げ隊員同士が目線で合図を交わす。
副隊長フモウが前に出た。
ザッと足を揃える隊員。
「これより神殿に向かう」
フモウの声に涙が出たファラ。
ファラは隊長が居る部隊で指示はいつもサトロエが行っていた。その声も聞けない。隊長が居なくなった今は副隊長フモウが全てを指揮した。
現人神が憎い
神殿に向かう道中、ファラも哀しみを通り越え憎しみに変わっていた。
神殿の門には天使が門番をしている。
人ではない。そして祀る神も人ではない。
「人間に勝利を」隊列の最後尾に並ぶファラは隊員の背中に右手を置く。隊員はファラの熱意を受け止めた。
ファラは隊員の後ろ頭を見た。涙が出る。
嗚咽まじりの声が出る。前列では天使と話す副隊長フモウの声が響いた。
隊員の後ろ頭が動きファラを見た。「来る」とすぐに前を向く。
バアアアァァンンンン‼︎‼︎⁉︎
音が響いた頃には軍隊は散り散り。地面に倒れていたファラも何が起きたか分からなかった。半身起こした時には仲間達は倒れ意識を失っている。炎が燃え上がる。その奥には無表情の天使は変わらず門番をしていた。
「ファラ!ファラ!ファ、ッラ…逃げろ。
逃げろぉおーーー!」起き上がれない隊員タスキが叫ぶ。ファラはタスキを見るが首を振るだけで動こうとしない。
「お前さえ、お前さえ居れば我ら軍隊は生き続ける。行けーー」
天使は掌から氣を集めた。
「行けよ、行けえ」
天使は魔法を撃つ。頷くファラは魔法に追いつかれないように走る。爆風で勢いよく飛んだ。
手が地面につく。涙が溢れてくる。腕で涙を拭っても涙がぼろぼろと流れ落ちる。流れ落ちる涙は爆風に吸い入れられた。
ファラは後ろを振り返らず走り続けた。
誰も居ない軍隊の基地に項垂れて座るファラ。
仇を討つにしてもどうすれば良いか分からなかった。時の流れがファラを動かす。
まずは現人神に近付く為にも現人神に関わる業務を担当する軍隊が必要だ。
ファラは現人神に関わる業務を担当する軍隊をフォロー、指揮し形勢逆転を収める。業績として助けた軍隊の副官に任命された。
ずっと近くで見てきたサトロエ隊長の方法で勝ち取ったのだ。
現人神に関わる業務を担当すればする程、現人神の憎しみが増すだけ。現人神に会える気配もない。ただ業務を遂行する毎日。憎い現人神の為に。
ファラは任務終了後に道端で遭遇した山賊団体を憂さ晴らしに容赦なく全滅させた。現場を見ている人が居れば、山賊に生き残りが居れば訴えられると軍隊の法律によりファラは処罰が下る。
だがファラの顔は清々しい。
「もうどうにでも、なれ」軽やかな声で言った。
「ふん、そう感じるのであれば私の所に来ないか?」
ファラの言葉を拾ったのは見知らぬ男だった。
後に村潰しシバを作り上げる男が目前に居る。男もファラ同様現人神を憎む一人でもあった。男の事情を知り共感を持ったファラはついていく事に決めた。
自分を捨て自分と正反対なものを身に付けた。
ファラはミルフィオラ・セレナを名乗り強力な魔法を習得し能力を上げ強者になっていく。
願うものは一つ。
現人神の生命を奪うこと。
ミルフィオラはピット村ナーンナナン区に到着した軍隊に指示を出す。隊長がファラに話し掛ける。「戻らないのか」
「ええ、私の願いはここでは叶わない。
カタル…ありがとう。私がミルフィオラと分かっていても動いてくれて」
「ファラ、貴女の指揮は特別だ。
あんなに仲間思いである貴女が、何故」
ファラはミルフィオラの笑みで笑う。
隊長が何度も引き留めてもファラは揺らがない。何も言わずファラらしい笑みを浮かべたファラを見て笑う隊長。
ファラはピット村ナーンナナン区を軍隊に任せてある場所に向かった。
崖縁に墓が立っている。
隊長サトロエ、副隊長フモウ、そして支え合った隊員達が眠っている。
「見てくださいよ、隊長。白い服が茶色になったんですよ?これだから土は……」
墓に刻まれた名前を見て頷くファラ。
「へへ、いいんです。隊長の前はいつまでもこのままのファラで」
笑うファラは白いサロペットのポケットから1通の手紙を墓の供物台に置いた。
供物台にある箱から1通の手紙を取り出し目を通した。
手紙はサトロエ隊長に宛てたもの。
サトロエ達との思い出や今迄の日常生活等の内容がびっしりと書かれていた。
お墓参りにまいった時に手紙を渡すファラ。前回の手紙を読んだら墓の供物台に置いた手紙を箱になおし次回のお墓参り時に読む。
自分が書いたものだが、ファラはサトロエからの手紙が届いたと感じていた。思い出し笑いするファラ。
墓から見える景色はシバが狙う一線上に帯びた範囲内が見渡せる。成功すれば現人神に会心の一撃を与えられる。
軍隊がいつでも成果を見られるようにファラが選んだ場所。ファラは景色を眺めた。
近くに隊長達の面影を感じながら。
それしん①③ファラからサトロエ隊長率いる軍隊宛て




