第十四話
各地の魔物退治は多くの人から感謝の言葉が広がった。ハロイシュディヲ・ハンバーは『真紅眼の英雄』と呼ばれエアリス国では話題になっている。
討伐依頼の申し出も増え続けハロルは各地を回っていた。
首都クロウ・クロン
神殿門前
「ん」アヴィは神殿の門番をしている天使に挨拶を返した。天使はアヴィの後ろに居る赤き翼を確認した後ピピ、ピピピピピと天使から音が鳴る。
「何か鳴ってんじゃねえ?」とリジン。
「天使同士だと電波を送り合う事ができる。
私が帰った事をルルセラマに報告してるんじゃない?」と不満げな表情をしながらアヴィは言う。
待つこと数分。門が開いた。
「戻るの辞めようか…」とアヴィ。
アヴィより先に神殿内に入ろうとした赤き翼の足が止まる。
「どうされます、か」片足を上げたまま動かないルフェリトロール。
「関係者が居なけりゃ、俺ら罪になるんだったよな?」赤き翼を見ながら歩いていたリジンは前屈み姿勢で腰は捻れ歩幅も大きい。
「ええ、門の中に少しでも入れば免れないわ」たらりと汗が出るメルフィーナ。
「はわわぁ…」足が地面につく前でとまるベベル。震える足は少しずつ地面に近付いた。
「問題ないよ。アヴィが止めても僕が居るから」とエリゼルド。
エリゼルドの言葉に赤き翼は楽な姿勢をとる。
「アヴィ、門前は目立つ。取り敢えず入ろう」
アヴィは渋々了承した。
門をくぐると青い絨毯を挟むように天使の銀像が来客を迎える。青い絨毯の先には階段があり踊り場から左右に分かれ、玄関からでも見える大きな扉に続いていた。
踊り場にはパイプオルガンが置かれ天使が弾いている。
「こらあ豪華だな。んで演奏もあらあ」天井にぶら下がるシャンデリアを見るリジン。
「穢れを浄化し、心を清めるぅ」ベベルは胸に両手をあてる。
「清めるどころか重苦しいわ」
「正解。気を鎮める為の曲。聴くだけでここから離れたい」
アヴィの行動はいつにもまして早い。赤き翼は階段に登るアヴィの後をついていく。
大きな扉は自動で開いた。
廊下は左右に二つの扉があり扉前には鎧を着た天使が警備をしていた。
赤き翼は一番奥まで廊下を歩く。
左右の扉よりやや大きめな扉にも鎧を着た天使が居るが、アヴィの姿を見ては何も言わず道を譲り扉を開けた。
「顔パスだな」とリジン。
「まあ、アヴィの家だからね」エリゼルドは一番最後に扉をくぐる。
早歩きをするアヴィは同じような廊下を右に曲がる。次の角を左に曲がり、次の曲がり角を右に更に右に廊下を進んでいく。
「エリ君が居なかったら迷子になるねぇ」エリゼルドの隣まで下がったベベルが話し掛けた。
「そうだね。勝手に入らないようにこうして天使が見張りをしてる。
あと僕はガーゼレビアでもある。神殿内では僕との会話は控えた方がいい」
アヴィの足がようやく止まった。
「あら、着いたのね」メルフィーナは廊下に飾られていた花瓶や絵画を観て楽しんでいた。
「設備室ですか」ルフェリトロールは扉の右上の壁に掛けてある看板に目を通す。
「…アヴィ、入らない?」
エリゼルドは扉を開けずその場に立ったままでいるアヴィに言う。アヴィは振り向きエリトを見た。
「入ろう」エリゼルドはアヴィに選択肢を渡さない。一度溜め息をついた後アヴィは扉を開けた。
アヴィの態度に赤き翼も気を引き締める。エリゼルドは後ろから赤き翼にも設備室に入るよう誘導した。
神殿内設備室
全体にわたり多数のガラス張りの八角柱が立っている。
八角柱の中にある液は底から空気を送り泡が上昇していた。半分や8割、満杯と液の量も様々である。
大きさ、太さも異なり配置も束や一つずつ等と乱雑。高さ1cmの細い線が床から盛り上がり八角柱を取り囲っていた。
中央には八角柱を動かす装置が設置され天井まで伸びている。天井に近い所から太い管が八角柱の上にある蓋から出る管と繋がっていた。
アヴィは中央装置に向かう。装置左端のレバーを後ろに引くと天井、左右にパッと青緑色のライトが点いた。床からも青緑色のライトが辺りを照らし八角柱の液の色も青緑色に光る。
「幻想的ですな。
この装置はどういう仕組みになってるのですか」ルフェリトロールも中央装置に近付きアヴィの操作を見る。
「何処に行くなんか?と思えばよ。なんでぇここは?」
「見て見てぇ?この中には液が入ってないよ」八角柱のガラス張りに触れるベベル。
「メルフは見ないんだね。
設備室に居るからかしこまらなくていいよ。監視されてないから」エリゼルドはただ立っているメルフィーナに言う。
「ええ…」とゆっくり歩き出しリジンの近くへ向かった。
「帰って来たのならまずやることはひとつ。
仕事しなくちゃね」
設備の画面に八角柱のデータが載った。液が半分以下の八角柱は[注意]と赤文字で知らせている。
「わぁ、数多いね」
「この液の管理をするのが仕事。足りない分は補給する」
「案外楽な仕事じゃね。なんか手伝おうか?嬢ちゃん」
「神通力持ってるんなら、ね」にこと笑うアヴィ。
アヴィは中央装置のボタンを次々に押していく。赤い文字で知らせた八角柱の管は引っ張られ天井迄上がった。ガシャンと天井に取りつけてある機器と重なり固定する。
天井の金属板と数cmずれて窓が中央に向かって開く。天井はガラス張りになり八角柱と同じ液が泳いでいた。
天井にある液は八角柱の中に注がれ満杯になった八角柱から元の場所に下りていく。
一斉に開始した為、短時間で全ての液を使い果たした。ライトは青緑色から青白色に変わり終了の合図をする。漏れがないかを確認した後アヴィは中央装置の操作を続けた。
八角柱は回転しながら床の中に入っていく。
八角柱の管は床の機器に固定された。八角柱の蓋には地名が書かれている。
「これはエアリス国の地図ですか」八角柱は土地を管は境界線を表していた。
「……」黙ってルフェリトロールの話を聞くアヴィ。
「そうだね。…後から分かるよ」とエリゼルドも口数が少ない。
二人の態度に赤き翼も黙る。
中央装置のボタンを押し続ける音が設備室内に響く。画面には打ち込んだ数字や文字が並んだ。
ガタンと機器が反応した。天井のガラス張りも中央に向かって開いていく。ガラスについていた液の雫が天井の機器にあたり、至る所に液が落ちていった。
天井を見るベベルが座り込む。驚いて声が出ない。メルフィーナはベベルの肩に触れ天井を見た。「ひと⁈」
カタンと音が鳴り赤き翼はそれぞれの反応を示す。
アヴィが振り向く。
にこと笑った。
天井から数十人の人が立て続けに落ちてくる。
「死んでる…じゃねえ?」リジンは天井から落ちてきた人を見る。皮膚は青緑色に変色していた。
「この人達、神通力者だわ!」死体は女神候補生の制服を着ている。
「どうなってやがる?」
ベベルはエリゼルドの腰部付近の服を握った。
「この液と関連があるのではないでしょうか」
「うん。神通力がこもってる液だよ。
液は各地に必要なエネルギーとなり大地から与えられる。現人神が[地]だから。
いくら神でも力は無限にあるわけではない。
女神候補生は、現人神の代わりに各地を守る為に身を捧げてるのさ」
エリゼルドの説明に目を細めるアヴィ。
「現人神になるべく望んで人は来るけど、ただ神殿側はエネルギー源を集めている事に過ぎない。
世界の維持を保つ為に、その事を知らない人達は知らないまま生命をとられる」
アヴィはリボンを取る。
左耳飾りの留め具も外す。
銀髪になったアヴィは白く光り、光は皮膚に溶けていく。透き通った水面に落ちる一滴の水が広がる波紋が赤き翼にも伝わる。
「私が次期女神と呼ばれているのは、私が神に近い存在だから」
アヴィに纏う氣が変わっていた。
アヴィを見ると何処か懐かしい、温かみのある感覚がする。
「お帰り、アヴィ」エリトは微笑む。
「ただいま」アヴィは俯いた後エリトを見て笑った。
アヴィは祈る。床から数個の光球が上昇しアヴィ付近で浮いた。光球内から水が吹き出し上空へと上がる。水は天井に集まり満杯になると天井の中央に閉ざされたガラス張り、窓、金属板が閉まる。
金髪に戻るアヴィ。身体が右前斜めによろけるアヴィをエリトは支えた。
「戻した身体が馴染んでないな」と笑うアヴィ。
「うん。後は僕に任せて」エリトは頷くアヴィを座らせる。
「アヴィの神通力は神と同等。
人の神通力より遥か倍の力に値する。液を使用しても僅かな量でかたがつく。…犠牲者は必要ない。
現人神が次期女神としてアヴィを傍に居させたいよね」
アヴィを見るエリゼルドにメルフィーナは思い出す。守護官であるエリゼルド。メルフィーナは現人神から彼女を守る為に守護官になったと感じた。
リジンはエリゼルドを見るメルフィーナを呼ぶ。「何かしら」と返答するが、リジンは肩に手を置き「なんだ。積もる話はよ、ここを出てから話そうや」と冷たく重い空気がまとわりつく設備室に風通しをした。
それしん①④世界を支えるエネルギー




