第七話
アヴィに会えなかったオッドアイの少年は神殿の図書館で読書している。調べ物は赤き翼も追っている村潰しシバ。
「属性つってもな」と頭を抱えていた。
「こちらにいらっしゃいましたか。旦那様が帰るよう仰せです」と執事は言う。
内緒で帰ってきたのが知られたのだ。オッドアイの少年は「分かった。…あとあいつから連絡が来ない。アヴィ含め捜してくんない?」
了承する執事は少年を車に誘導する。
「ハロルお兄様」とヲルオテュクが待っていた。
森の域?
グーゲンを倒した一行は暗闇の中に居た。胡座をかいてのんびりしているエリゼルド。仰向けになり正面を見るアヴィ。手を広げ下を向くルフェリトロール。髪を持ち膝を立てて座り回転するベベル。様々な姿勢をとるナポリ。
赤い煙が時折現れては赤き翼の姿を隠した。
現在、赤き翼は落下中である。
大きく広がった赤いヒビは徐々に地と地を結んでいた。
「もうあんなにも小さく見える」アヴィは指で丸を作りヒビを覗き見る。
「どおすんだよ⁈」ナポリはじたばた手足を動かした。ベベルは神に祈りを捧げる。
「どうやらまだまだ続きそうですね」ルフェリトロールは底を見る。赤い煙は落ちてくるエリゼルド達を招き入れた。
「まあ、このまま下に行くよ。地面に近付いたら魔法札か魔法を使う」エリゼルドは落下の衝撃を抑えるようリハル姉弟に頼んだ。
長く落ち続けたせいかリハル姉弟も落ち着き地面が近付くことを待っていた。
一粒の光が赤き翼に照射する。眩しさを各自で遮断。「なんだったのでしょうか…」ルフェリトロールは消えた光に言う。
「はは、おかえり」
エリゼルドは二人の姿を見て笑った。
「ひやあ、運ないぜ」
「びっくりしたぁ」
「あら?暗いわね…間違えたかしら」
「つぅか、お前ら何やってんよ?」
首を傾げながら真横に身体が上がっていくメルフィーナと仁王立ちをするリジン。
「[飛行]で何を念じた?」とアヴィ。
「あ?言わねぇでも、分かんだろ」リジンとメルフィーナは指差して言う。
「「エリゼルド」」
二人の発した言葉は正体を明かしたエリゼルドにとって大きかった。目を逸らすエリトにニコとアヴィは笑った。
「再会はそこまでで。見てください。赤い煙が塞いでますよ」ルフェリトロールの声を聞いた赤き翼は赤い煙を見る。「ベル、ナポリ、構えて」「と言うより私に任せて」直ぐにアヴィは返す。「うん。程々に」とエリゼルド。
ぱふうと煙に乗った後、溶けるように身体が沈んでいく。煙を通り過ぎると赤き翼は大きなシャボン玉の中に居た。
「すんげえ‼︎」ナポリは黒と赤の色しかない空間を見てはしゃぐ。
「見て見てぇ。星空があんなにくっきり見えるよー」黒のグラデーションにかかる空の星は白く映る。地面に近付くにつれ赤みが増えていった。シャボン玉のお陰ではぐれることなく着地。メルフィーナとリジンが先頭に周囲を見る。足の甲まで浸る赤い水が不気味さを増していた。音は水音とエリゼルド達の出す音のみ。
「おかしくなりそうですな」ルフェリトロールは存在が切り離されたような感覚を感じていた。「ルー、しっかりしないともっていかれるよ」エリゼルドはルフェリトロールを刺激し覚醒させる。
「ここは」エリゼルドの後ろを歩くアヴィが言う。
「うん、間違いないと思う。ここは奈落だ」
奈落
地面は赤い水が全面に浸透している。陸地をよく見てみると骸骨になった死体が数えきれない程散らばって足場がない。
「ここで亡くなった人達だね」エリゼルドの声がキュッと摘まれて空間に消えた。
バシャンと水飛沫が舞った。「この水は血かしら?」ナポリは固まる。
「呪われるぞぉ〜〜」とベベルがナポリを襲う。「冗談やめろ」ナポリは近付くベベルを押していた。
「…まあ、怖がれるよりいいか」エリゼルドは目を細めてリハル姉弟を見る。アヴィはメルフィーナを見てそわそわしていた。アヴィの視線を感じたメルフィーナは「あ、忘れてたわ」とポケットに入っていたネックレスに触れる。「本当、愉快な仲間に歓迎よ」とアヴィ。
「アヴィ…、それだと伝わりにくいと思うけど。渡す時期ではないんだよ、きっと」エリゼルドは目で訴えるアヴィに言う。
歩いても歩いても変わらない風景。
「何処まで行きゃあいいんだか」風景に飽きたリジンはずがずか歩いた。リジンの目つきが変わる。
「おい、見ろよ」
リジンは顎で数十m先に居る黒い物体を指した。「来たね」と片目を瞑るエリトは赤き翼の前に立つ。
「君達は下がって。相手が悪い」
その隣にアヴィが並ぶ。「サポートする」
「師匠!俺も一緒に戦うぜ」ナポリもひょこひょことエリゼルドの後ろにつく。ルフェリトロールもナポリの側へ行く。
ベベルは黙って見ていた。
「へえ」とにんまりするリジン。メルフィーナはリジンの腕に触れ一緒に行く事を誘う。
ベベル以外の赤き翼の背後が知っている人達が遠くに居る感じがした。ベベルは胸元に手をあて握る。痛む心を潰していた。
黒い物体は眠っている。
「なーんだ」とナポリ。
「ナポリ。これからだよ」エリゼルドは赤い水を蹴り氣で水を飛ばす。黒い物体に届かなかったが黒い物体は目を開けた。
「赤い眼」とベベルは一層動けなくなる。
黒い物体は執行者である。槍を手に持ち身体を起こす。赤い眼が左右上下に早急に動きエリゼルド達を感知する。敵とみなした執行者は槍を高く振り上げ下に振り落とす。誰も触れていないが、槍を振るった速度でエリゼルド、アヴィ以外の赤き翼は吹っ飛ばされた。
「怪力だな」とリジン。ずうんと重みがのしかかる。押されてひざまずくリジン達。
「意識を失わないようにするだけでいい。後は任せて」とエリゼルド。
「舞い散る、青子よ。我、翳さんとす」青い光がアヴィを包む。「・・・・・・」何かを唱えるアヴィ。エリゼルドの背後に膜が張られた。
「勘違いしないでね。威力減少しただけで攻撃はあたるから身は守って」とアヴィは赤き翼に伝えた。ルフェリトロールはアヴィを見つめていた。
エリゼルドは拳に氣を溜め続けると氣は拳に宿る。執行者は薙ぎ払い無数の突きをつく。距離を縮めても間合いを取られ攻撃出来ない。速さはエリゼルドが上だがお互いの攻撃は空振り。
アヴィはエリゼルド達の攻撃の隙を狙う。魔法札は効いていなかった。
「魔法防御装具着てるな。エリト、鎧壊して」宙に舞い逆立ちになっているアヴィ。「うん」エリゼルドは何処か躊躇っていた。アヴィは顔を横に振る。
無駄な攻撃が繰り返し続いていた。「しっかりしてね」とアヴィ。「…」エリゼルドはまだ躊躇っていた。
「エリゼルド!」リジンの声に振り向くエリゼルド。飛んできたものは錆びれてはいるが、それなりに名がある刀。残骸から使えそうな刀を探し出したリジン。名刀がある事は名がある強者がここで亡くなったことを指してもいた。
刀全体を見るエリゼルドは刀の刃を見た。ぼろぼろになってはいたが、名刀だけあってまだ使えそうだ。エリゼルドは刃を下に向け刀を赤き翼に見せる。
赤き翼はゆっくり刀を掲げるエリゼルドの行為の意味が分からない。「リジン、教えるよ」とエリゼルドは呟いた。閉眼し、ゆっくりと眼を開く。エリゼルドの手から切先まで流れる氣。震え出す刀は持ち手だけを残し刃は欠片になって赤い水に落ちていく。
そのエリゼルドの姿に警戒する赤き翼。執行者はエリゼルドの背後を狙う。
氷で出来た障壁がエリゼルドを守った。槍に当たる氷が雪のように散る。
「僕の氣だと錆びれた刀がもたない。だから、シェロから譲り受けた刀を差してる。こんな刀を僕に預けて…笑わせないでくれる?」とエリトは言う。刀の持ち手をそのままに手を離す。ぽちゃんと刀の持ち手が沈んだ。
赤き翼はエリゼルドの力をただ見ることしか出来なかった。
背後で守るアヴィの腕を急に引っ張るエリト。驚くアヴィ。槍がアヴィの居た場所をかすめる。アヴィを片手で抱き寄せ「滅」と魔法札を放つ。横一列に数十発が連続に爆発した。執行者の鎧は溶ける。「君が使ってくれたらはやかったんだけどね」とアヴィに怒っていた。
「強力な魔法をこんな所で消費したくない」とアヴィ。笑うエリゼルドは右膝に手を置いた時には執行者の胸部に居た。蹴りを喰らった執行者は残骸の山に埋もれる。
「行こうか」
エリトが赤き翼に言う。エリゼルドの前を槍が勢いよく通り過ぎた。
赤き翼の前で槍は地面に突き立てる。
「無限に広がる空よ」アヴィが唱えると弓矢が現れた。執行者の心臓に光の矢が射る。
「鎧はずれたら赤きに任せる?
エリト、守りたいのか傷つけたいのか分からなくなってきた」
アヴィの疑問にエリゼルドは返答しない。
ぽたんと水滴が戦闘に終止符を打つ。
「へえ、マジで強えな。ガーゼレビア」とニヤついた笑みをこぼすリジン。「どうも」とエリゼルドも笑った。
二人のやりとりをみて息をこぼすアヴィ。
執行者を倒した後、周辺のどよめいた空間が消えた。
「ほー、身体が軽くなりましたな。
奈落でしたら番人を捜さないと外側に抜けれないと聞きます」とルフェリトロール。
ベベルとナポリは辺りを見回すが、それらしき者は見当たらない。
「死者…」メルフィーナは赤い水を見る。リジンも赤い水を見た。「なんだ?番人んてぇのは、下に居んのか」
水を足で確かめながら番人を捜す。「俺もするぜ!」ナポリもリジンを真似てバシャンバシャと水を蹴った。「ふっは、ははは、濡れるつうの」
「悪ふざけはそこまで。遠くに行くと新たな執行者が現れるよ。同じような空間があれば何処かに居る」
エリゼルドはリジン達に注意を促す。リジンはナポリの肩をナポリはリジンの腰に手をまわし、赤き翼の所に戻った。
エリゼルドを先頭に進む。
アヴィが「エリト」と服の裾を掴んだ。赤き翼も止まる。空気はどよめいていない。
「番人ですかな?」ルフェリトロールは左右をナポリは前後を見た。
ベベルはアヴィの行動を見ている。メルフィーナは「私達は二人に迷惑かけないように、一人一人が注意しながら動くわよ。あの子より今は自分自身を守るの」と言う。頷くベベル。
「嬢ちゃん、何もねえよ」と周辺を見終わったリジンは言う。
右回りに天井に向かって舞う人が音もなく突如現れた。大鎌を上に上げ360度回すとオーラを纏った数体の骸骨が現れる。天井には魔法陣らしき模様が現れ、魔法陣から黒いローブを着た骸骨が上半身まで出てきた。オーラを纏った骸骨を両手に抱えて魔法陣に引き込んでいく。骸骨達が魔法陣内に入ると魔法陣は消え、大鎌をおろし正面を見た。奈落の番人だ。
赤き翼を見る。
「舞い散る、青子よ。我、翳さんとす」アヴィは執行者同様膜を張り赤き翼を守る。
アヴィの魔法に反応した番人は姿を消しアヴィの目前に現れ大鎌を振るう。
「ッ」エリゼルドは瞬時にアヴィの所に向かった。(間に合え)と心で叫ぶエリト。
両腕を十字にして防御をするアヴィ。左頬と腕に大鎌の切り傷がつく。番人はそのまま回転し後ろに下がった。
一歩間に合わなかったエリゼルド。アヴィの頬を見てエリゼルドに纏った氣が変わる。鋭い眼で番人を睨みつける。エリゼルドは大鎌を下ろすタイミングを見計らう。
番人はエリゼルドに一振。攻撃で下ろした鎌は番人の脇腹を貫いていた。番人の両腕の骨は折れ、柄を握る両手は鎌を握ったままぶら下がっている。エリゼルドは大鎌を大きく振り上げ心臓を切断。
番人は散る。
エリゼルドは凄まじい怒り。赤き翼はエリゼルドの姿を見て身がすくんだ。振り向いたエリゼルドに身の危険を感じる。
怯える赤き翼を見たエリゼルドは寂しそうな表情で笑った。
アヴィの頬に触れ手当てをするエリゼルド。
番人が守っていた門が開門した。奈落に地上の光が入ってくる。
エリゼルドは一人先に門に向かった。
歩くエリゼルドの背中を見ていたベベル。
エリゼルドを受け止める事が出来ず、見たくない顔を見てしまった。胸がぎゅーと締めつける。怖いと痛いが交互する。
エリゼルドの想いを届ける為にエリゼルドの後ろ姿に手を伸ばし、左手をきゅと握る。
ベベルは笑った。
エリゼルドは振り返る。
握ったエリゼルドの左手は優しく握り返した。
優しく触れたエリゼルドの手の感触を感じない。ベベルは座っている自分に気付いた。
ベベルの両手は赤い水に浸かっていた。(私じゃないんだねぇ?)と誰かに問いかける。
エリゼルドはアヴィに微笑んだ。
(ああ…アヴィさんのこと本気で好きなんだねぇ、エリ君)
それしん⑦君にだけみせる笑顔




