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第四話

「あ?怪しい、て。アヴィを疑ってんの」

電話の相手はエリゼルドだ。

「ああ、それは分かる。…首都に行くんだろ?問題解決できるよ」

ハロルは通話を切った。「あいつに限ってそれは、…ね」

ハロルはエリゼルドを疑っていた。

首都クロウ・クロン

住民市街地マカ

「…久し振りに帰ってきたな」

エリゼルドは首都クロウ・クロンで育ち幼い頃にアヴィと会った。

「…」

アヴィは黙って街人を眺めていた。淋しげな眼差しを見たエリゼルドは「悩みあるなら聞くけど」と目を合わせるが、アヴィは直ぐに目を逸らす。

エリゼルドは普段と違う態度を時折見せるアヴィを案じていた。

「おい、何処から行くんだ?」

「リクエスタ酒場に」

「あら、昼間から呑めるのかしら」

「へえ、案外気が利くじゃねえか」

リジンとメルフィーナは喜んでアヴィについて行く。「マスター」とアヴィは親しげに言う。エリゼルドも「マスター、ご無沙汰してます」と頭を下げた。

「おお、アヴィにエリトか」

エリトに反応したリジンが赤き翼で制する。

「一般人ですよ」

「リジン兄ちゃん、隊長だけにしろって」

「魔法で気絶させますぅ?」

「いいわよ。凶暴化させて暴れたこと忘れたの?勘弁して」

リジンは手を挙げて「外で一服するわ」と酒場から去った。アヴィは去るリジンを確認する。「心置きなく話せるね」カウンターの椅子に座り赤き翼を見る。

「エリト、刀を使って」

「急に唐突だね」

「アヴィ、エリゼルドは拳を使うのよ?」

「貴方たちは弱いから何を使っても関係ない。

エリトは違う」ガタンと椅子から降りエリゼルドに「遊びじゃないんだよ」と言う。

エリゼルドは返答に困っていた。

「お前さん達、エリトが何者なのか知らんようだな」「マスター」エリゼルドは焦る。

「言うべき事あってそれから絆が深まることもあるだろう。エリトから話した方が良い。アヴィ、猶予をやりなさい」

「シバは待たない」

アヴィとマスターの話しを聞きルフェリトロールは「察しはしていますよ」

エリゼルドはエリト・ガーゼレビアだと。

首を振るナポリ。

「噂と違いますよぉ。エリ君とガーゼレビアさんの性格が全然違う」とベベルも否定した。

「はは、まあ、立場上もあるからね」


エリゼルド・クイックラインは6年前迄首都でヴァン家の使用人をしていた。本名はエリト・ガーゼレビア。エルムの村へ行く事になったのは母ルイゼの願いだった。セリカの面倒を見て欲しい、これ以上危険な目に遭わせたくないと遺書が残されていたからだ。

「セリカが一人でやっていけるようになったら首都に戻る予定だったんだけど、セリカの心はまだ幼い。たまに泣いている妹を置いてはいけれないからね」

仕事で遠出する以外は家に居るように心掛けていたエリゼルド。因みにエリゼルドは母ルイゼ、エリトは父モルスクが提案した名前である。

「アヴィ、刀なくても大丈夫。解除したら、問題ない」す、と冷たい空気が風のように流れた。赤き翼にも強さがしれる。

「ごめん、ベル。伝えてたら危ない目には遭わなかった」

「ううん。…ごめんなさい」

「謝んなよ、姉ちゃん。隊長が強くないと困んだろ?師匠が弱ったら強くなんないじゃん」

「…話しは聞いていましたが、刀の達人に間違いはないんですね」

「そう、私とリジンが守らなくても成長していたのね。苛つくけど安心したわ」

「ありがとう…ごめん、皆」

「シバに太刀打ち出来るね。後は皆さん」とアヴィは心弾んでいた。


「魔法教えてくれるて約束しましたよねぇ?」

「…お前さん方、彼女は」マスターの会話に割り込むアヴィは「私は神官出身。言えば神殿に行けば魔法の秘密が分かる」

神殿は神が棲む場所。世界の創造主・現人神が居る。現在の神はカグナ。アヴィはカグナを世話する神官の一人である。神官には5段階に分かれており、その段階毎によって業務担当が決められている。

メルフィーナはエリゼルドを見る。頷くエリゼルドに少し微笑んだメルフィーナ。

行き先が決まった為、赤き翼は酒場を出てリジンを捜した。


噴水広場にリジンの姿がある。女性に声を掛けていた。メルフィーナはリジンの左頬を叩き掌の跡がくっきりついた頬を見て女性は逃げていった。

「は?」リジンは叩かれた理由が分からない。

「いい度胸してるわね。人が心配してあげているのにナンパする元気があるなんて」

「声かけられたのは俺!誘われたんは俺!」と弁明した結果リジンは叩かれ損をしていた。

「紛らわしい事するからそうなるの」とメルフィーナは頬を赤らめて言う。


事情を聞いたリジンは「神殿となりゃあ、一般人が入れるわけねぇだろ」リジンには二人の正体を告げずに話したのだ。

「流石、大神官の姉を持つだけあるね」エリゼルドは攻撃的に言う。

「なんでさ。ここ、貴族街に近い場所だよね?行きたがらないのに今日はどうして」と普段より強めな口調で続けて言った。

「ああ、ガーゼレビアに会える気がしてよ」

「うお!リジン近いじゃん!」

「ナポリ!」

「きょ〜だい、馬鹿にすんなや?居ても俺らは入れさせねえ」

貴族街、一般街と壁で離されている。通行手形がないと門が開かないのだが貴族は往来できる。「平等じゃないんだからよ」と感慨深い表情をするリジン。

「無理なくてごめんなさいね」

「嬢ちゃんが謝る事ねえさ」

噴水広場に留まると住民が赤き翼を見ている人が多い。「珍しいですかな」ルフェリトロールは赤き翼に近寄って来る住民を目で追った。アヴィ様と礼をする住民、エリゼルドをエリトと呼ぶ住民が次から次へと現れる。「アヴィ…」「大丈夫」

「なんでまた嬢ちゃんにガチな挨拶してんだぁ?」神や神殿に関わりを持つ人に対する挨拶をアヴィにしている。

「で、だ。お前はエリトって呼ばれてんだよ」キツめな視線をエリゼルドは浴びた。

「はは、なんでだろう」


「開いたよ」とアヴィは気にせずに貴族街の門を叩いた。不審に思うリジン。貴族街に入ると一般街以上に人が集まった。危害を及ばないようにエリゼルドはアヴィの前に立ち「下がってくれる」と低い声を出した。

ぴりとした圧にリジンがエリゼルドの手首を握り締めた。「お前」

二人は動かずお互いの目を見る。


「何見つめ合ってるの」とアヴィはエリゼルドの背中を押した。エリトは右手で先に行こうとするアヴィの行く手を遮る。

「留守にしてるから群がるのは分かる。異常だ。後ろに居て」とエリゼルドは言った。

ほんの一瞬エリゼルドが変わった事にリジンは後ろに一歩離れた。

「お前、誰だ?」

エリゼルドが静かに息を出し話そうとした時

「いいよ、会わせてあげる」

アヴィはリジンを見る。「会いたいんでしょう?噴水広場は大聖堂がある。エリトより姉よね。その為に絡まないで」

リジンは顔を真っ赤になる。図星を言われたからだ。「リィンに同情するわ」と怒るアヴィは札を使い「報せ」と解き放つが何もおきない。

「はっ、焦ったわ。嬢ちゃん、姉ちゃんは大神官だ。貴族街に入れたからって威張んじゃねえわ」リジンの発言に貴族が騒つく。

「リジン、頼むから静かにしよう」とエリゼルドも苛立ちが見え隠れしていた。赤き翼は事情を知っている為見届ける事しか出来ない。


右隅に道がある。その道は大聖堂に繋がっている。神官がアヴィに挨拶をした。

「はっ、やるじゃねえか。嬢ちゃん」煽るリジンにエリゼルドはふるふる震え出す。神官はリジンを睨んだ。

「彼女を…」

「は、はい。巡礼歌を弾いている最中です」

「…願わくば安らかな眠りを」とアヴィは祈りを捧げた。エリゼルドもアヴィに倣う。

「ふぁぁ、エリ君カッコいい」ベベルはエリゼルドに惚れ直していた。

エリゼルドの肩を抱き寄せ「な〜に格好つけてんだ」リジンは笑う。エリゼルドは腕を外させ「リィンさんが弾いてるよ。リジンも祈って魂の救済を」

「エリゼルド、姉ちゃんは魂の救済をする神官じゃねえよ。神に仕える役目だ」堂々とした態度をとる。「何も知らないていいね」

アヴィの言葉には棘があった。エリトは手を差し伸べようとしたが手を下ろす。

「覚悟、ある?」アヴィはリジンに再度姉に会いたいか尋ねた。「ああ」リジンは即答。

神官はアヴィを見て「は、はい。お連れします」と急ぎ足で大聖堂内に向かった。その時間の1分は長く感じる。周りは騒ついたまま誰かが通報したのか軍隊まで囲まれた。

「これ危ないんじゃない?」とメルフィーナはリジンの元へ行こうとしたが「いけません、メルフィーナ。リジンの試練になります」とルフェリトロールはあくまで見届ける事を選んだ。

リジンを囲むように軍人が集まる。リーダーがエリゼルドに敬礼をする。

「こうやってみるとお前偉くなったな」とリジンはエリゼルドにも挑発した。

「うん。もう少しでリィンさん来るよ」と落ち着いている。エリゼルドはアヴィを気にしていた。アヴィはリィンを呼んでからずっと不安そうに大聖堂側を見ている。エリトは声を掛けて安心させたいが使用人という立場が邪魔だった。


「…大丈夫そうね」とアヴィの顔色が元に戻った。「リジン、大神官リーシャよ」

車椅子に乗った女性と神官の姿。アヴィが名乗った名前を指摘するのが先か変わり果てた姉の事を聞くか迷う。

大神官リーシャの姿を見たベベルは口元を隠して驚く。

「まるで壊れた人形のようですね」ルフェリトロールはかくんかくんと顔を上下左右に動かすリーシャを見る。

「 、 、 」メルフィーナは言葉が出らず、涙を流した。

リィンは手をアヴィに伸ばす。その手の関節は繋ぎ合わせたような肌が神官服の裾から見えた。

アヴィはそっと手に触れる。「リィン、今日はよく晴れてる。空観たいから誘った」

「ソウ、モドッテキタノ、ネ。アヴィサマ」

「うん。まだ終わってないからまた行かなくちゃ」からからからからからと音が鳴る。音が鳴る度にアヴィは俯いていた。エリトはアヴィに寄り添った。そのタイミングで軍人がエリゼルドに剣を向ける。


エリゼルドは「話すなら早く済ませて」と軍人をよそにリジンの相手をした。

「姉ちゃん…」リジンの知っている姉の姿はなかった。怒りをアヴィにぶつける。

「てめぇ、何しやがった!」

姉リィンのそばに行きアヴィを払いのける。「我慢の限界かも…」とエリゼルドはぼそと吐いた。

エリゼルドに向けた切先を握る。握った手から血が持ち手に流れた。エリゼルドの腕力が上なのか軍人の手からエリゼルドの手中に剣が納め剣をリジンに向けた。

「ちょ…、エリゼルド。冗談キツくねぇか」

切先を触るリィン。「スルドイヤイバ、アヴィサマヲマモッテル…。アナタガワルイノ、ヨ」

リジンは姉に叱られて戸惑っていた。リジンにとって姉は自分の味方で何よりも優しい人。

「リィン、貴女の弟よ。リジン・プレッシャー」

「オトウトハ、フルサトヨ」

「ね、姉ちゃん」

「弱々しい態度とらないで」とアヴィ。

「嬢ちゃん、神官て言ってたな。姉ちゃんに何したって聞いてんだろ⁈」

リジンの目には涙が滲みながらも目の色はアヴィを敵とみなしていた。

「リジン、頼む。ひいて」突きつけた剣のエリゼルドの手は震えていた。

「見て分からない?これが現状。これが大聖堂のやり方!」

アヴィは上からものを言う。リジンは更に怒りを込み上げていく。

「アヴィ、煽るな」とエリゼルドはアヴィの高ぶった感情を鎮める。「エリトも分からないの?」アヴィの目にも涙が溜まっていた。

からからからからからからから…

からからからからから……

アヴィは俯き大粒の涙が溢れた。アヴィは崩れるがエリゼルドがアヴィを支える。


「待って、アヴィ…」

「貴様、アヴィ様から離れろ」と軍人がエリゼルドに向けた剣の距離を縮めた。

「何も変わらない、何も出来なかった」アヴィはゆっくりと地面に座りエリゼルドの胸に額を当てた。アヴィが近付いた為、軍人は剣を引っ込める。

「アヴィは何も悪くない…まだ始まってもないだろ。勘違いするな。

…頼むから泣かないで」エリトもアヴィを抱き寄せた。

「そうね。そうよね。何もしてなかった」涙を拭いエリゼルドの肩を借りながらアヴィは立つ。エリトもアヴィに合わせて支える。

「大神官リーシャ、貴女に問う。貴女はどう生きたい?」

大神官リーシャはその言葉を聞いて人形だった彼女に息を吹き込んだ。


リィン、大神官になったお祝いに一つ叶えてあげる

アヴィ様、お気持ちだけで光栄です。

だーめ

では、アヴィ様が大きくなられた時に私に聞いて下さい。どう生きたいかを

リィンは大神官じゃないの?

そうですね。大神官ですよ。

だけどその前に私はーーー


「ワタシハ、アノ、コノアネナノ。ズットズットヒトリニサセテイ、タノ。ダカラ、ギュットシタイ」

「うん、つまりは裏切る…だよね?」

大神官が神殿を離れるという事は主を捨てた事になる。リィンが故郷に帰れなくなったのは大聖堂の掟だったから。大聖堂の掟を知らないリジンはいつしか恨みという気持ちを宿らせていた。

「おかしいですね。リィン殿は死んだと聞いておりましたが、目の前に居る方はリジンの姉君で?」

メルフィーナはルフェリトロールの内容を聞いて我に返る。

姉リィンはガーゼレビア家によって殺されたとリジンも話していたが、目の前に居る車椅子の女性も間違いなくリジンの姉で間違いないのだ。

「リィンさんと大神官は同一人物だよ」とエリトは赤き翼に言う。その時の口調はエリゼルドだが何処か知らない人にも見えた。


現人神の大神官と[大聖堂]の大神官の違い。

リジンはアヴィを見た。

「あんたは…何もんだ⁈」

「テキ、テキガア、ラワレ、タ」

「リィン、相手は雑魚。心配しないで。

私は神官。残念ながら[現人神]さまのね」アヴィが発した後エリトの様子が変わる。

「エリゼルド」

「リジン、状況を考えよう。僕は守ってあげれなくなった」瞳が冷たくなっていた。

軍人は剣を鞘に直し剣をかがけて敬礼する。

リジンは後退りした。

「数々の無礼をお赦しください」エリトは手で合図を送り軍人は集まっていた貴族を帰らせた。「ふは、は、本当に偉くなりやがった」

エリゼルドの顔はぼやけて見えづらい。リジンは再度後退りする。

「小細工をしたのはガーゼレビア家の一族だから恨んで仕方ないと思ってたけど…ここ迄分からない人だったとは、一緒に居てむなしくなるよ」剣の持ち手をリジンに向ける。

「今なら殺せるかもね?」エリトは刃を握っている。血がぽたぽたと落ちていった。

リジンは「マジかよ」ふらと後ろにふらつくがリジンの手には剣の持ち手を握っていた。

メルフィーナは「エリゼルドよ」と叫んでいる。

「…間違いではないけど。

君も、動いてどうするのさ」とアヴィを見て言う。アヴィは[縛]を発動しリジンの身動きを止めていた。

「馬鹿だから。殺るんじゃないかと思って守らせて貰った」

「君て子は」

からからからからからからからからから

アヴィはリィンを見て「分かった」と返す。

リジンにかけた魔法を解きリィン・プレッシャーに何が起きたのか話し出した。


7歳の頃にも現人神の神官として務めていたアヴィは大聖堂に届く品物を神殿に運ぶ業務を任されていた。

品物が重くて運ぶ事が出来ない。大聖堂から神殿を何十往復するのが毎日の日課になっていた。

黒い髪の神官が途中からいつも手伝いをしてくれた事でアヴィの手の豆もなくなり次第に時間が空くようになっていく。その日々の流れは二人の仲を縮めていた。

神官の名前はリィン・プレッシャー。大聖堂の巡礼では得意のピアノを弾き巡礼者に癒しと温もりを授けていた。リィンの夢は人々の負の心を和らげる事。両親の仕事について行った時大聖堂で歌う神官を見たリィンは、天使が現れたと興奮したと言う。私もあんな風になりたいと感じ神官を目指した。

リィンはアヴィに自分の過去や家族の事を話す迄に親密になり大神官になる好機が訪れていた。

大神官になる事は今迄とは異なる生活が要する。掟に縛られ自由と自分を失う過酷な部分もあったと引退間近の大神官がリィンに伝える。忠告を受けたリィンだが大神官になる事を諦めなかった。大聖堂は表向き慈愛に満ち、未来を授けるもの。光があるならば闇もある。大神官は闇となり大聖堂を守り続けなければならない存在でもあった。リィンは大聖堂の大神官に昇格され喜んだ。アヴィは大神官になる事を本心は認めなかった。


大聖堂の業務の一つに魂の救済がある。

悪霊となった人の魂を成仏させるもの。それは大神官の務め。

悪霊を吸収する装置で各地に散らばる迷える魂を捕獲し大聖堂でお祓いをする事によって断罪させ来世に渡す。リィン・プレッシャーは護衛神官と共に各地に廻り魂の救済を行ってきた。その為アヴィとの交流も減っていく。

ある日装置が故障し悪霊を吸収できない。

悪霊を放置する事が出来なかったリィンは自分自身を器にし悪霊を大聖堂に持ち帰ったと言う。リィンの中に彷徨う悪霊はリィンの身体を蝕む。大聖堂のお祓いはリィンごと行う事しか出来ない状態だった。

悪霊を吸収する装置が完成した時にはリィンの身体も生命も回復の見込みがない程に堕ちていた。リィンが助かる方法は一つ。壊死した部位に魔法を掛けた布を肌に縫いつけていき、新しい身体を作る方法だった。


リィンは生命が助かるのなら構わないと思い同意のサインをする。年々リィンの身体が人形のような姿に変わっていく。

現在は別の人が魂の救済を行っている。リィンは神官だった頃のように大聖堂で巡礼歌の演奏の担当に戻った。新しい身体を作った材料はただの布に魔法を掛けたもの。次第に魔法効能が切れリィンの活動も狭くなる。

からからからと魔法が消え生命を削る音色。


「この姿を見せたくないとリィンは話してたから、貴方の所に通知が来なかった。

生命が減るにつれリィンの心に変化が生まれたのは知ってる。貴方に会いたがっていた。だけど、彼女は大神官。大聖堂を出れば裏切りとみなされ殺される。貴方が会いに来たら大聖堂の見えてはならないものを一般市民に見せてしまう。どちらにしても神殿は隠す事しか出来ない」とアヴィ。

「リジンが会いに行かないように、ガーゼレビアが一芝居をうったんだよ。まあ、死罪の者を使って長い黒髪でリィンさんの背丈に似ている女性を捜して代わりに死んだだけ」とエリトは感情を交えない態度で言う。

「リジン、恨むのはガーゼレビアじゃない。神殿よ。だから、私」

「アヴィサマハ、ワル、クナ、イ。アノトキ、トメテクレ、テタ。ヨクガデ、タバツ、ヨ」

「姉ちゃんに限ってそれはねえ。誰かにはめられたんだ!」リジンはリィンの肩を揺さぶる。関節が脆く腕が脱臼したかのように下がった。

「ご、ごめん」慌ててリジンは腕を戻すが一度外れると治らない。アヴィを見る。

「いらないことするからよ。ここで補修は出来ない。リィン、帰る迄我慢して」

リジンは口を開ける。「悪かったて。嬢ちゃん、謝るから、改めるから治してくれよ」

「治したいでも、道具ないから治せないの」

「リジン、アヴィから離れて」リジンの手はアヴィの腕を持っていた。剣をリジンの手首につけるエリト。

「わ、悪かった」とリジンは握り締めていたアヴィの腕をそっと離した。

「もう選択肢はひとつだよ。リジン」

アヴィは潤んだ声で言う。「彼女は、死を選んだ」

「ささ、さっ、さっきの生きるか?て問ったヤツだろ?俺は聞こえてねえ。なぁ、お前らも姉ちゃん答えてなかったろ?」

赤き翼に振るリジンに誰も返す事ができない。ルフェリトロールが沈黙を破るように言った。

「楽にさせるのも愛ですよ」

誰もが同じ考えと思わせるようにリジンは

「いや、世の中捨てたもんじゃねえよ。うん、ゔん」変にどぎまぎしていた。

「リィン、貴女の弟、馬鹿なの。どうする?力貸すけど」と普段のアヴィに戻っていた。

「イイ、ノデス、カ?」

「そういう約束でしょう」

アヴィは笑って言う。「一つだけ叶えてあげる。遅くなったけど大神官になったお祝い」

ふと笑うリィン。アヴィも眼を細めて微笑む。

「やっぱりリィンは笑ってる顔が好き」へらと笑うアヴィ。得意げに笑い出したアヴィにエリトは「羽目はずしすぎ」と言うエリトも笑っていた。

「楽しい方がいいでしょう。リジン、有り難く思いなさい。この場に私が居て良かったね」

リジンは逆光に照らされるアヴィが天使にみえた。

「…姉ちゃんが言ってた。天使が、居た…?」


アヴィは一呼吸を置く。エリゼルド達はアヴィの邪魔にならない距離まで移動した。

彼女が落ち着いた時内なる光が輝く。

「彼女は一体…」

「ルー、多分君が欲しがっているものをアヴィは持ってるよ。

それが、守られている証明」

ルフェリトロールを見て「能力を見て、狙われる証拠」ルフェリトロールは額に冷やせをかく。エリゼルドは手を出すなと言っていたのが分かった。唾を飲み込んだのを確認したエリトは「ありがとう」と言う。

赤いリボンと金髪のポニーテールが空に広がっていく。アヴィは何かを唱えていた。左耳につけてあるイヤリングは雫の型で3つ横に並んでいる。その1つを引きちぎり両手で祈る姿は女神を思わせる程だった。

「カグナ様」ルフェリトロールの目は光る。ルフェリトロールの隣に居るエリゼルドは「さっき忠告したばかりなんだけど」とすかさず突っ込んだ。「分かっていますとも」

直ぐに返答をした為エリゼルドは驚くと共に警戒を強めていた。

光がアヴィの体内に消えた。ラァ、ラランと音響を確かめる。くるっとアヴィはリィンの方に向きを変えとびっきりの笑顔でリジンに言う。「見せてあげる。リィンの巡礼歌を」エリトはリジンに愛想振りまいた事を嫌がっていた。

「別に伝えなくても…」とぶつぶつ言う姿を見て「隊長は隊長なんですね」とルフェリトロールも肩の力が抜けた感じがした。


アヴィは両手を広げる。空間から無数の線が現れ半透明だが大聖堂の内部が現れた。リィンの前にはピアノ、アヴィの後ろには現人神カグナのステンドグラス、地面には大聖堂の紋章がついた絨毯、見覚えのあるものが具現化しリィンは懐かしがる。

「はあー、半透明だけどこんな感じかな?…想いを届けて下さい、リィン」

アヴィの柔らかな表情を見てもまだ目前のものが信じられないリィン。巡礼歌を弾く人形の姿が巡礼者に見えないようにカーテンで遮り、その空間は圧迫感がある孤独な場所。

大神官になっても巡礼者が居ない時でも大聖堂で巡礼歌を弾いた美しい場所がリィンの周辺に広がっている。


ターンとピアノの軽盤を鳴らす。リィンは笑った。最初は片手である曲を弾く。

「姉ちゃん」心に響くのはリジン。母親からの子守唄をリジンに聴かせた。

子守唄が終わると閉眼して聴いていたリジンに

ーーー落ち着いた?ーーー

思いっきり目を見開きピアノを弾いていたリィンを見る。そこには大神官リーシャと呼ばれる姉が居た。

何事もなかったようにリィンは今度は巡礼歌を弾く。巡礼者ならば誰もが耳にした事がある曲。大聖堂外で行っていた為貴族街だけでなく一般市民街でも足を止め聴く人が増えていた。

リィンが弾いている間アヴィは祈り続けていた。祈る事でピアノ内に光の灯火が宿りその光がピアノの音を出していく。

巡礼歌の中盤に入る。勢いよく奏でる音色は悪と闘っている所を再現されていた。悪に勝利し平和が訪れ優しい曲調へと変わる。

ーーー………な、あぁ…ーーー

誰かが歌っている。ピアノの光は大神官リーシャに迄広がっていた。つぎはぎになっていた肌が消えリィンの姿が髪の毛先まで届く。

ーーー数多の星が輝いているーーー

ーーー星は死者の語らいーーー

ーーー戦慄を繰り返すなとーーー

ーーー亡者を忘れるなとーーー

ーー心に秘めていれば 諍いは起きぬーー

ーーー小さなもの 大きくならんとすーーー

ーーー空に光の柱が地を照らすーーー

ーーーこの地に命の息吹をのせてーーー

巡礼歌が終わると拍手喝采。答えるかのようにリィンは立ち神官の挨拶をした。


ーーーリジンーーー


リジンの体内から響いて聞こえる姉の声。

「うん、うん、聞こえてるよ」


ーーー誰も悪くないのですよーーー

ーーー私はーーー

ーーー大神官になったあの日からーーー

ーーーアヴィ様を捨てたのですーーー

リィンは今迄の事柄を語る。

首を振って答えるリジン。

ーーーあの方の力を利用したーーー

首を振るリジンは「そんなの聞きたくねえよ」と言う。

ーーー触れてはならないものをーーー

ーーー私は触れーーー

ーーー彼女を傷つけたーーー

ーーー気付いた時には既に遅くーーー

ーーー恥ずかしい姿に変わってもーーー

ーーー私は生きたいとすがりーーー

ーーー自らの過ちを認めずーーー

ーーー守られてきましたーーー

「姉ちゃんは大神官の仕事をしただけだ」

首を振るうリィン。

ーーーなりたかったーーー

ーーー大神官にーーー

ーーー他愛のない日常よりーーー

ーーー出世を選んだーーー

ーーとり逃せば大神官ではいられないーー

ーーーこの地位を守るためにーーー

ーーー私は身を削ったーーー

ーー人々からは[聖なる浄化]と呼ばれーー

ーーー誇らしかったーーー

ーーーアヴィ様という七光りは溶けーーー

ーーー実力でこの場所に座れるーーー


リィンの表情には光がなかった。

ーーー私を生かす魔法が離れるのがーーー

ーーーリジンや、神官の皆さんーーー

ー巡礼者、悪霊、そして大事にしてきたー

ーー地位までもが消えてなくなっていくーー

ーーー私の前に、ずっとーーー

ーーー変わらずに居てくれーーー

ーーーアヴィ様ーーー

ーーー貴女さまだけだったーーー

「うん、距離置きたかったのは知ってるつもり。辛い思いさせたね」

ーーー敵いませんーーー

ーーーふっ、こんな私が巡礼歌を歌いーーー

ーーー何を癒しますでしょうかーーー

ーーー私は、もうーーー


リィンの体内から黒い雲が現れ全身を包む。

「うん。全部伝えて」アヴィは光を放つように手で風を切る。

リジンは腰を抜かした。リジンを通り過ぎ「加勢を」とエリゼルドはアヴィの側に行く。

「エリト、これは神殿の問題。口出ししないで」

「だったら」エリトはポケットにしまい込んでいた物を腕にはめ込みブレスレットをアヴィに見せた。怒りを込み上げるリジンだが身体が動かずもがく。メルフィーナはリジンの元に駆け寄り抱き締め守った。

エリトのブレスレットにはガーゼレビア家の紋章が刻まれていた。「エリト・ガーゼレビアがアヴィ様の手足になります。護らせて頂きますよ」

使用人として行動するならば何も言えれない

エリトは笑う。

リィンの頭上には悪霊の塊となった魔人が現れた。リィンはくの字に曲がり意識を失い意思は悪の魔人に変わる。


➖私の人生➖

➖栄光は私が成した➖


リィンの声に低く太い声が重なって聞こえる。リィンの心の奥の声が発していた。

魔人はアヴィを標的に狙いを定めぶん殴る。エリトが剣で防御した。「…思ったより弱い」

魔人は防御されても尚拳を突き入れるが、エリトは軽々と攻撃を受け止める。「しかも遅い」張り合いのなさがエリトの行為で伝わる。

「…アヴィ、どうする?殺れるけど」左斜め後ろに居るアヴィに尋ねる。「ガーゼレビア、姉ちゃんに傷つけんな」とリジンが大声をあげた。

「君には聞いてないよ。…腰抜かしてよく言えるね。その程度で僕に勝つつもりだったの?」

剣の角度を変え魔人の腕に切り傷をつけた。

➖ギャアアアアア➖と物凄い声で叫ぶ。

「相手は素人。それに浄化した悪霊の塊だから何も出来ない。…これはリィンの中の闇が具現化したものだよ」

「うわああああああああ」リジンはエリトが剣を振るった事にリィンが傷付いた事に叫んでいる。アヴィの声は悲鳴に消され近くに居たエリトの耳だけ残った。エリトは右目を瞑り「姉弟してうるさいな…」とエリゼルドとは違う態度をとる。赤き翼も目を疑う程だった。


「力ではなく心で救いましょうか」

エリトは剣をその場に捨てた。ガシャンと鳴り響く。「主の言いなりかよ」とリジンはエリトの行動に茶々を入れた。

「まあ、使用人家だからね」

「それ必要?」とアヴィ。

「アヴィが居なければ、害なくても人を傷付ける時点で始末は確定」リジンは口を閉めた。

「だから、言ったろ。リジンを守る事出来なくなったて。状況を理解してひけよ」

リジンは目でエリトに刃向かい、呼吸も速くなっていく。

「…助けたいのならひいて。アヴィはリィンさんの闇を取り除きたいんだよ」とエリゼルドは言う。「俺を気にしないでリィンさんを見て」と続けて言った。最後の笑みは普段と変わらないエリゼルドの笑顔。

エリゼルドは魔人の方を見て「よく見て、攻撃してこないだろ?つまりは…」

「待ってる?」とリジン。

「ね」正解と指差して共有する。

リジンはメルフィーナに抱かれていた事に気付いた。「メル」「大丈夫、話したい事話そう」

メルフィーナはリジンを立たせ魔人に近付いた。「時間とらせんな」とエリトは自分の前迄来たリジンに言う。

「へ、減らず口が」

「上等、上等。そんだけ言えれば問題ない」

エリトはリジンに近付く。リジンがぴくとした。

「…アヴィが疲れてる。お前の為に力使ってんだ。早く済ませて」と小声で言った。アヴィを見ると引きずった表情をしていた。

「…何?」アヴィはリジンに言う。

「嬢ちゃん、ありがとう」

「感謝はまだ早い。場合によればそのまま浄化する」

頷くリジンは魔人の手を触った。


➖リジン➖

魔人は弟だと理解している。

「姉ちゃん、俺は分からねぇよ。こんな姿になっちまってでも大神官を務めたのが」

➖存在の価値、私は誰かの影ではない➖

➖人なんだ➖

➖弟が出来て私は居場所を失った➖

プレッシャー家は商人一家で代々続く跡継ぎは男性だった。リジンが生まれた事でリィンから人は離れていったと言う。

➖ずっと羨ましかった➖

➖貴方の周りには➖

リィンの脳内は家族で笑い合う温かい日常。その中にはリィンの姿はなかった。


「…姉ちゃん」リィンはリジンの喉仏を触る。

➖生まれなかったら私はあそこに居れた➖

リィンはアヴィに手を差し伸べる。

➖あの子に同情されなかった➖

「同情したのは大神官になってから」

「アヴィ、恨まれるから縁はちゃんと始末しないとこんな感じでつきまとわれるよ」とエリト。

「あいつらはほっとけばいいってぇ。

姉ちゃんが商売継ぎたかったんだろ?俺はあん時補佐として勉強してたんだ。姉ちゃんのやる気を親父達は認めてんだよ。けどよ、首都から帰ってくるなり神官になるって言ってたろ⁈」

➖認めてた?➖

疑うリィン。

父親が仕事の同行を許可した理由は跡継ぎをリィンと決めていたから。だがリィンには伝えていない。代々男が継ぐという伝統がしがみついていたのか話す機会がなかったのか伝えなかった理由は不明だ。

➖神官になってから巡礼に➖

➖一度も来たこともない➖

「来たくても来れねえよ。

…夢叶って故郷離れて頑張ってるリィンに心配されたくないって。姉ちゃんが出ていって、体調悪くして、そのまま逝っちまった」

➖嘘よ➖

「そんな嘘つくか!我儘なのは姉ちゃんだよ!

姉ちゃんが商売継ぎたい事知ってるから俺から頼んだ。やりたくないって!けどよ、あんたの補佐として商売しろて言われた!急に辞めるからなぁ。ショックで体壊して継ぐ奴居ねえから店たたんで!…俺はッ、一人残されて畑耕してエルムに居た。まさかっ、弟分がガーゼレビアで憎い奴なのに今も助けられて、俺の方が訳分からねえよ‼︎」息切れになりながらリジンはリィンに伝える。

「俺は現人神に仕えてるて馬鹿みてぇに思ってた。偉い奴に仕えて自慢の姉貴だった。大聖堂って聞いてねえ。その為に…、ああ、もういいや。嬢ちゃん、話は終わった」

「物凄く中途半端で後悔がいずれ起きそうな形で終わらせる?次はないんだよ」

「自身の気持ちの問題だろ。それだったら、姉ちゃんだけじゃねえ。そこの使用人だってある。俺から話す事ねぇよ」気分を害するリジン。

「リジン、失ってから大切な事に気づきます。慎重に進めるべきです」とルフェリトロールは言う。

「分かってる。けどな、姉ちゃんの闇は俺らじゃねえ。多分嬢ちゃんだ」

アヴィは魔人を見た。「…私に、用があるの?」


➖ーーー➖


魔人は話さずジッとアヴィを見つめる。


➖アヴィ様が欲しい➖

➖アヴィ様のその力が➖

アヴィの頭を掴もうと襲いかかる。エリトから腕ごと斬られ、腕がぼとと落ちていく。

泣き叫ぶ魔人。リジンはリィンを見ず背中で受け止めた。

「悪いね。アヴィに手を出したら話変わるよ?懺悔といこうか」エリトは誰かが発する前に魔人の喉を斬る。魔人が消えそのまま倒れゆく姉をリジンは姉の方に振り向きながら見送った。リィンの両手が宙に広がる。あと数cm届かずリィンは地面に倒れた。

掴むことが出来なかった手。アヴィはエリトを見た。「なんで止める?」

「穢れを触れさせない」エリトは見下ろすように言う。唇を噛んでエリトを見るがエリトが悪くない事をアヴィも納得している。リィンの身体は灰となり空へと散った。


リジンは涙を流さないように堪えていた。アヴィは叫んだ。リィンの名前を何度も呼ぶ。

空間が名前を呼ぶ度歪んだ。

エリトもアヴィの傍に座り右親指を加える。

「ッ」アヴィは痛みを感じた。エリトが歯で皮膚を引きちぎり指から出血する。アヴィの血をエリトは手につけ唱えた。空間の歪み後に膜が張られ建物や人間の体内迄振動が伝わっていたものが消えた。顔面紅潮になっているアヴィの額に手を当て状態を看るエリト。そのまま頭を撫でアヴィを眠らせた。


エリトはアヴィを抱えて神官に「シェロで休ませる。シングラ神官はリィンさんが亡くなった為弔う準備を。喪主は弟。参列は赤き翼、僕は後で向かう」「はい」神官は大聖堂へ行き副神官に事情報告をする。

エリゼルドはメルフィーナに「後はお願い」と伝えた。

「お前が世話になってるて奴だよな?シェロは」リジンはエリトをその場に留める。

「ガーゼレビアはヴァン家の使用人だから当然。

何かある?」エリトの鋭い目は身体を硬直する。

「エリト!帰って早々派手にかましてるねっ」笑い声と共に鎧と家紋をぶら下げた兵士が隊列。エリトは嫌な顔をしていた。その顔を見て肩を叩く青年。

「リグゥウアウン」とリジンは言う。

「ほう、名将の一人ですな」ルフェリトロールは興味を示した。

リグゥウアウン・ロア・ヴァン。将軍家の長男でエリトの主。アヴィの圧が街中に響いていた為一番近くにいたリグゥウアウンが現場に赴いた。何故かエリトにシェロと呼ばせている。

「シェロ、…弟さん」とエリト。

「ん、初めてまして。リジン君。エリゼルド君をちょいっと借りて行くよっ」

リグゥウアウンはエリトに合図を送る。

「リジン、話しは後で聞く。リィンさんの葬儀の準備を神官と一緒に行って。皆もよろしく頼む」エリゼルドは何処となく余所余所しい。赤き翼も返答の仕方に困っていた。


エリトはヴァン家の客間にアヴィを休ませる。アヴィの前髪をサイドに分けるエリトに「ご苦労だったな」とリグゥウアウンにおちゃらけな態度はなくなっていた。

エリトはその場に跪く。

「申し訳ありません。私にはシェロと呼ぶ権利がないのに出過ぎた事を申して」

「私が渡した刀を差してないからか。ガーゼレビアではなく、赤き翼で行動していると聞く。

問題ない。立ちなさい」

エリトは一礼後その場に立つ。「アヴィ様は何をなさってる」とリグゥウアウンが尋ねた。

エリトは今迄の事柄を話した。


サリネスタ大聖堂

葬儀の飾り付けが終えエリゼルド達を待つ。棺の中は誰も居ない。灰になって消えたリィンは骨も残らず旅に出たからだ。

「入ってねえのに、まいらないといけねぇの?」

「魂は近くに居ると言うわ」メルフィーナはリジンにそっと触れる。

「姉ちゃん、嬢ちゃんの能力欲しさに近付いたのか?」ルフェリトロールはリジンを見た。

「姉ちゃんに継ぐ話しをしたら変わってたか?」ナポリはリィンの遺影を見た。リィンは笑顔だった。

「姉ちゃん、あいつガーゼレビアだってよ」ベベルは冷血漢なエリトと彼を同一人物と認める事が出来ていない。

「姉ちゃん、あんなに歌上手かったけ?」副神官は大聖堂内一の歌い手と話した。

「姉ちゃん、呆気なく逝っちまったな」リジンは遺影を見た。リィンは真顔に見えた。

「アヴィに手を出さなければ、身体は残っていたかもね」エリゼルドは紋章入りの絨毯を踏む。その行為は普通なのだがリジンは踏み潰しているようにしか見えなかった。


大神官リィンの葬儀が始まる。副神官の声が響くだけで葬儀は終え静まり返った大聖堂へと戻った。「姉ちゃん、葬儀も呆気ねぇく終わったな?」とリジンは棺に手を乗せた。

葬儀の片付けは神官が行い、赤き翼は大聖堂の客間で疲れきった身体を休める。

沈黙を破ったのはエリゼルドだった。「アヴィが回復次第、神殿に向かう。ベル、ナポリに魔法教えて貰う約束あるからね」

「お、おう」ナポリはあわてふためいて答えた。

「エリ君、急がなくても…」と小声で返す。普段のエリゼルドならリジンのことを気にかけるが「分かってないわね」とベベルの額をこつんとメルフィーナは触れる。

リジンが「分かってる」と言い客間を出たっきり戻って来なかった。


噴水広場の水の流れを見るリジンに「どうするの?エリトは憎い相手。相手は恨まれても前に進む強さがある。貴方一人が初めてな経験ではないから」アヴィの声がした。

リジンは汗ばむ。「もう歩けるのかよ…」

アヴィは笑う。

「心配しないで。彼女の父はモルスクではない。傍に居れるよ?」

リジンはアヴィを勢いよく見た。アヴィを見ながら後ろへと下がりリジンはそのまま黙って首都クロウ・クロンを後にした。

アヴィの手中にはネックレスがある。リィンがいつも身に付けている物だ。

「リィン、弟に渡すにはまだ早いよ」アヴィは夜空を見上げた。数多の星が輝いている。

「明日も晴れになりそうだね」

それしん④星の声をきかせて

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