第二話
「ええ、見事な程にね」ぴっと通話を切る。路地裏には二人の姿。話しが終わった事を確認した一人は歩き出す。
「頼んだからね」と一人は空を見上げて囁いた。
「あー…、辛いな」胡座をかいたままボサついた頭に如何にも寝起き姿のエリゼルド。
「どう見ても、電車が来なければ意気込んでも意味ないわね」
三人はエルムの村から近い駅迄歩いた。トウヤ駅からタダベラ駅に向かいハーメス村の件で連絡を取った人と合流するつもりだった。
だが肝心な電車の時間がなかった。駅近くで野宿する事になる。
「おぅら、エリゼルド、立てや。駅員が中で待っていいとよ」
「タダベラまで」とメルフィーナは3人分の切符を買う。
「すまんな、タダベラには行けないんだ」
事故で線路が封鎖しているとの事。行けてもウサ駅迄だと言う。思わずメルフィーナは吹く。行動が空回りしていた。
「何から何まで焦りすぎだったんじゃない?」
更にもの言いたげな目をしたメルフィーナの視線を感じながらエリゼルドは言う。「…ウサよりカメに行こう」
「あ?遠くなるって。歩く気か?」
「ウサは山だったよね。カメの方が良い。川があれば彼達が居るかもしれない」
リジンとメルフィーナは見合う。リジンはエリゼルドの肩に腕で抱き寄せる。
「冴えてるう」「安心ね」
カメ駅までの切符を購入した三人はトウヤ駅に停止した電車に乗った。セリカ特製のおにぎりを食べながら隣町の出来事を振り返る。
あの時空間が妙だった。空間の歪みはなかったとハロルから聞いたが何かが引っ掛かるエリゼルド。あの場所に居たのは大木に寄りかかっていた男性、ハロル、アヴィ、そしてアヴィを呼んだ男。人物に関係あるのか、それとも環境か。天候は曇っていた。それだけではない。辺りも夜中のように深い森に居るような不快な感じだ。おにぎりを一口食べる。電車の窓を見ると昨日とは打って変わって草原が広がり空が一段と高く見えた。空気は透き通っていて心が洗われる。カメ駅迄あと3駅。
「グリュヌ橋を見るのも久々だな」
「何馬鹿な事言ってるの。カメ駅に着いてからいいなさい」
「そうなんだけどよ。昔姉ちゃんに連れて行って貰ってな」
リジンの姉リィンは神殿の神官を務めていた。試験に合格しエルムの村から首都に向かう時にグリュヌ橋を渡った。見習いの頃は帰郷で何日間も滞在出来た事から一緒に旅行していたが、一人前になり指導者になった事で休みなく働いていたと言う。
「…の、な」とリジンは小声だった。聞き取れにくいとメルフィーナは伝えようとしたがリジンの浮かない顔で声を掛けづらい雰囲気。エリゼルドも何処か浮かない様子。暗い空間が漂っていたがカメ駅迄それぞれの思いを乗せて電車は走り続けた。
「カメ駅、カメ駅」と駅員。
数人が降りていく。三人も駅から出る。
駅村カメリア、駅と村が繋がっていて小さな屋台がこの村の名物だ。駅から出ると屋台が6件開いている。時間帯や行事によって屋台の数、内容が変わる為来てからのお楽しみ。今回は食品、装飾品とバランス良く出されていた。
エリゼルド達はタダベラ駅に行く為に[彼等]に会いに来た。この屋台場の隅にひっそりと構えている事が多い。耳が長くフサフサの毛を持つ種族ピット族を捜す。屋台に出ていた饅頭を片手に読書していた。三人はピット族に近付いた。「いらっしゃいませ」と三人を歓迎し手を差し伸べる。エリゼルドは2cmのコインをピット族に渡した。
「ルーさんとこの、こんにちは、ハンセラーマンが本日の担当です」
ピット族は立ち上がり一礼をする。「でわでわこちらに」と楕円型の小型船に案内された。
三人は船に乗りハンセラーマンは小型船が川に潜るのを手を振りながら待つ。
「全部潜ってねえのにもう本読んでら」
上部はガラス張りになっている。水中時でも景色を愉しませる仕組みだ。
「ピット族の頭脳はこの世で勝るものはないて言うからね」
川から海に繋がった後、海上。モニターに行き先を記入したらエンジンが回り目的地に連れて行ってくれるのだ。この機械を発明したのはピット族。発明の域も指折りに入る発明家でもあるが一般には使用不可。ピット族からくれるコインを見せないと使用出来ない。
その為頭脳は飾りと世間には言われている。
グリュヌ橋と同じ向きに首都方面へ進む。
グリュヌ橋は四大大橋で観光名所。車や電車等の交通機関に乗り渡れる。観光船だとグリュヌ橋の下をくぐる事が出来、夜間になると街灯が照らされるプランが一般的だ。
グリュヌ橋を渡り切ると駅村カメリアンに到着。駅村カメリアンからタダベラ駅迄の道のりになると漸く半分になる。このまま乗り継ぎ遠回りになるがウサ駅より2駅先のハラリ迄向かう事にした。
エリゼルドの携帯受信にハーメス村の件で合流する人からの連絡が入った。
[現在タダベラ駅立ち入り禁止、ハンセラーマンからの報告あり。小型船にて待つ]
「…大きな事故かもね」
「何事もなければいいわね」
「何にせよ、タダベラの近くにはソープ社があらぁ。直ぐとりかかれるさ」
ソープ社とは機械の修理を行う会社で扱う技術は錬金術に近い。ガンレック種族が主に担当している。つまりは種族特有スキルだ。
他人事みたいにリジンは景色を楽しんでいた。山と山の間に入り畝りながら合流地点に向かう。
「ん、船酔いしそうだわ」
「はは…メルフは乗り物苦手だったね。君みたいに俺達は跳び回れないから。ごめん、辛抱して」
「世話焼けんね」とリジンはメルフィーナの看病をする。メルフィーナの船酔い以外に変化なく合流地点の駅に到着した。ハラリ駅に降り「ありがとうございました。またのご利用を」とピット族がお辞儀をして見送る。
駅ホームにある大画面の下で待ち合わせになっていたが向かうと誰も居ない。
「錆びれてるな」
「ハラリは無人駅になるから仕方ないよ」
「…地上に降りられただけでもいいわ」少し顔色が青い。
メルフィーナを座らせる為大画面の下にある椅子で待つ数十分。エリゼルド達が降りた方向から二人とピット族が駆け寄ってきた。
「おっす!」
「遅くなりましたぁ」
魔導士の姉弟と「御三方ご無沙汰してます」と垂れ耳のピット族が挨拶をする。この三人こそが待ち合わせしていた人である。魔導士姉弟は8歳と7歳。10歳から独立が一般の為ピット族が二人の保護者と第三者から思われがちだが、弟のナポリとピット族ルフェリトロールは契約成獣の主従関係である。賢者になるのがナポリの夢でルフェリトロールはピット族の荒れ果てた地の復興を目指して旅に出ている。姉のベベルの夢は花嫁。エリゼルドに慕っており嫁になるべく同じ赤き翼に入団し傍で花嫁修行をしている(自称)エリ君の花嫁候補。
ベベルからタダベラ駅について聞く。
タダベラ駅付近にある洞窟と魔物の棲家が繋がってしまった為、大量の魔物が駅で暴れているとの事だ。
「人手不足との連絡があり隊長と合流次第応援に向かうと依頼者に申し出てます」
「なんで、いっそいでタダベラに行くぜ」ナポリはガッツポーズ。
「外で車が待ってますー」エリゼルド達は車内に入りタダベラ駅へ全速力。
「魔物討伐は腕が鳴るねえ」
「リジン、私の分残しなさいよ」
「赤き翼の皆さんですね。急なブレーキに注意して下さい」タイヤの擦れる音が聞こえた。
エリゼルド、リジン、メルフィーナ、ベベル、ナポリ、ルフェリトロールこの6名が赤き翼。エルムの村を拠点とし世に名前が拡まりつつある団体である。
エルムの村外れの灯台でハロルはひと休憩をしていた。
「お疲れ様です」とラバンはハロルに紅茶を淹れる。ニュースではタダベラ駅の魔物について話していた。ハロルは地震も起きてないのに事故で棲家と繋がった事への疑問を持ち掛けた。
「すると、誰かがしたとお考えですか」とラバンは言う。ここ最近村潰しだけでなく魔物の出現も増えてきたのだ。時に凶暴になった魔物も多発し地域によっては町から出る事も困難になっている。村潰しと関わりがあるとハロルは踏んでいた。
バタンと車のドアを勢いよく閉める。運転手は逃げるように走っていった。
「んなあ、急ぐ事ねえだろ。守れるつうの」
「そうかしら。居ない方が好きに動けるから好きだけど?」
「はわわ、実戦ですね」ベベルは魔法を使うのだが難点がある。
「うん。敵を弱らせてくれたら大丈夫だよ」回復と攻撃魔法の紋章術を反対で覚えていたのだ。赤き翼なら誰にでも経験がある。トドメを刺されると。
「意外ですね。しっかりしているベベルさんが間違って覚えているとは見かけで判断は禁物だと実感します」
「集中したら空回りする子だからね」
「姉ちゃんが回復させた魔物も俺が懲らしめてやるぜ」
エリゼルド達はタダベラ駅出入り口へ。道中には魔物の姿はない。駅員に話しを聞くと一辺の魔物は退治出来たが南下し駅が次々に封鎖をしている状態だと言う。また洞窟の棲家は爆弾で封じ込めた事で周辺は安全になっていた。
現在他の団体が南下し戦闘中である。エリゼルド達も南下する事にした。
駅村カメリアン、グリュヌ橋前。
グリュヌ橋は折れていた。エリゼルド達はその光景を見て大掛かりな戦闘だったと感じる。エリゼルドは金髪のポニーテールの後ろ姿に目が入る。「ア、アヴィ…」とエリゼルドの足は駆け足になっていた。足音を聞き振り返る彼女はアヴィ・アリナーゼ。魔物討伐をしていた他の団体人もアヴィの美しさに彼女に目を奪われていた。16歳だが大人のような魅力を持つ絶世の美女で[情報屋]を営み各地を彷徨っている神出鬼没な面も持つ。彼女の情報を買う為に人々は集まっているだけでもない。アヴィは目を細め笑う。エリゼルドだけでなく周りの人も赤面していた。
「この前はありがとね」
エリゼルドはアヴィの手を握る。視線が背中を刺す。
「無理してるな…。アヴィ、君て子は橋ごと落とさなくても」笑うアヴィ。
「バレた?」
「氣が流れてる」
「正解。じゃ頑張って追ってね」
アヴィはエリゼルドの手を握り返した後そのまま後ろに倒れるように橋から落ちた。団体人が驚く中エリゼルドは冷静。海上に小さなボート。フードを被った人が漕いでいた。手を振るアヴィに周囲の人が手を振り返した。
エリゼルドは(うん)と頷く。
魔物の件は幕を閉じた。
「はあああ」溜め息を洩らしたのはベベルだった。
「戦わなくて勝つが一番だよぉ」表情は安堵に満ちていた。
「ベベル、平和ボケになるわ」
「寧ろリジン。それが正解なんだよ」
「そうね、物足りないわ。移動ばかりで流石に堪えるわね」メルフィーナも不服そうに言う。
「ここから近いピット村に行きましょうか。そこで一晩迎えましょう」
「結局歩くのね」
グリュヌ橋の全体像がテレビに映る。四大大橋の一つで壊れた事に悲しみに暮れていたが民の生命を救った事に変わりない。被害の拡がりを抑えたのは橋のお陰となり復旧工事資金の工面を応募する内容に変わっていった。
「政治らしいな」ハロルは寄付の協力を民に預ける政治を嫌っていた。
「どうされますか」
「ああ、工面する。連絡やってて」ハロルはブチとテレビを消した。
それしん②奇跡の橋より




