第84話 王の静かな崩れ
知らせは、静かに届いた。
王の体調悪化。
公式発表は簡潔だった。
「長期療養に入る」
それだけ。
だが王都の空気は一瞬で変わった。
市場の声が低くなる。
貴族の動きが早くなる。
王城の廊下が慌ただしくなる。
王は老いていた。
だが、倒れるとは思われていなかった。
王太子宮。
レオンハルトは報告書を静かに閉じる。
「容体は」
「安定と不安定を繰り返しています」
側近が答える。
「意識はあるが、長時間の政務は困難」
沈黙。
これは単なる病ではない。
均衡が揺らぐ。
その頃、王城別棟。
カイウス・エル・アルヴェインは、窓の外を見ていた。
穏やかな横顔。
だが目は冷静だ。
「発表は早かったな」
隣に立つ若手貴族が言う。
「隠せば憶測が広がる」
カイウスは柔らかく微笑む。
「不安は、透明な方が扱いやすい」
言葉は穏やか。
だが意味は重い。
王が弱れば、空白が生まれる。
空白は、誰かが埋める。
夜。
城館の客室。
私は窓辺に立っていた。
王の病。
予想していなかったわけではない。
だが、早い。
扉が叩かれる。
辺境伯が入ってくる。
「王の件、聞いたか」
「はい」
「揺れる」
短い言葉。
「継承が動く」
私はゆっくりと頷く。
王太子は正統だ。
だが正統だけでは足りない。
第二王子は動くだろう。
「あなたはどう見る」
辺境伯が問う。
「速さと持続の衝突です」
私は答える。
「速さは安心を生む」
「持続は時間がかかる」
「民衆はどちらを選ぶ」
問いは重い。
私は少し考える。
「揺れている時は、速さに惹かれます」
彼は目を細める。
「お前は」
「速さではありません」
「構造です」
窓の外、王都の灯りが揺れている。
王の体調悪化は、始まりにすぎない。
まだ誰も声を上げていない。
だが、水面下で動きは始まっている。
王は倒れた。
だが、王国はまだ立っている。
問題は、誰が握るかではない。
どう握るかだ。
静かな夜。
嵐の前の、深い静寂だった。
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