第121話 私が、渡したもの
辺境への帰り道を、私はまだ選べずにいた。
ベルフォードと会って、私は勝った気にはまるでなれなかった。
源は、分かった。流れも、見えた。三つの問いは、ひとつになった。
なのに、胸の底が重かった。
その夜、私はようやく、その重さの正体に気づいた。
ベルフォードは、なぜあんなに堂々と名を残さずにいられるのか。
「制度に従っただけ」「正しい手続きを踏んだだけ」――そう言えるのは、なぜか。
その言い訳を成り立たせている枠を、誰が作ったのか。
……私だ。
私が王都を去るとき、最後に残した言葉。国家は、個人ではなく、制度で責任を負うべきです。個人の善意に国家を委ねてはなりません。
あれは、正しかった。カイウスの「責任は、私が負う」という、個人への依存を退けるために。
でも。
「制度で負う」と決めた瞬間から、こうも言えるようになる。
――決めたのは、制度だ。私では、ない。
私は、個人の暴走を止めるための盾を作ったつもりだった。
その同じ盾が、ベルフォードのような人間には「個人が名を隠すための隠れ蓑」になっていた。
私が退けたはずの問い。かつて王都で、あの暫定体制を定めた夜に、私自身が立てた問い。
誰が、負うのか。
その問いに、私はあのとき「制度が負う」と答えて、幕を引いた。
でも、それは答えではなかった。
「制度が負う」は、「誰も負わない」の上品な言い換えになりうる。
私は、自分の作った空白の中に今、立っていた。
皮肉な話だった。ベルフォードの隠れ蓑を、私が縫っていた。
彼を憎むほど、その糸が私自身の手から伸びていることに気づかされる。
この空白を埋めるのは、たぶん私自身の宿題だ。
――制度で負う。それは、正しい。
でも、それだけでは足りなかった。
足りなかった一つを、私はまだ言葉にできずにいた。
「制度が負う」は、「誰も負わない」の、上品な言い換えにもなる。
自分が退けた問いが、自分に返ってくる。
――第二幕、了。
第三幕は、レティシアが、その足りない一つを、言葉にします。




