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婚約破棄された悪役令嬢は、役割を与えられない場所で静かに生きる 〜尽くしても報われなかった私を、理由も聞かずに受け入れてくれる領がありました〜  作者: 水無月カレン


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121/130

第121話 私が、渡したもの

 辺境への帰り道を、私はまだ選べずにいた。


 ベルフォードと会って、私は勝った気にはまるでなれなかった。


 源は、分かった。流れも、見えた。三つの問いは、ひとつになった。


 なのに、胸の底が重かった。


 その夜、私はようやく、その重さの正体に気づいた。


 ベルフォードは、なぜあんなに堂々と名を残さずにいられるのか。


 「制度に従っただけ」「正しい手続きを踏んだだけ」――そう言えるのは、なぜか。


 その言い訳を成り立たせている枠を、誰が作ったのか。


 ……私だ。


 私が王都を去るとき、最後に残した言葉。国家は、個人ではなく、制度で責任を負うべきです。個人の善意に国家を委ねてはなりません。


 あれは、正しかった。カイウスの「責任は、私が負う」という、個人への依存を退けるために。


 でも。


 「制度で負う」と決めた瞬間から、こうも言えるようになる。


 ――決めたのは、制度だ。私では、ない。


 私は、個人の暴走を止めるための盾を作ったつもりだった。


 その同じ盾が、ベルフォードのような人間には「個人が名を隠すための隠れ蓑」になっていた。


 私が退けたはずの問い。かつて王都で、あの暫定体制を定めた夜に、私自身が立てた問い。


 誰が、負うのか。


 その問いに、私はあのとき「制度が負う」と答えて、幕を引いた。


 でも、それは答えではなかった。


 「制度が負う」は、「誰も負わない」の上品な言い換えになりうる。


 私は、自分の作った空白の中に今、立っていた。


 皮肉な話だった。ベルフォードの隠れ蓑を、私が縫っていた。


 彼を憎むほど、その糸が私自身の手から伸びていることに気づかされる。


 この空白を埋めるのは、たぶん私自身の宿題だ。


 ――制度で負う。それは、正しい。


 でも、それだけでは足りなかった。


 足りなかった一つを、私はまだ言葉にできずにいた。

「制度が負う」は、「誰も負わない」の、上品な言い換えにもなる。

自分が退けた問いが、自分に返ってくる。

――第二幕、了。

第三幕は、レティシアが、その足りない一つを、言葉にします。

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