第119話 ひとつの流れ
私は辺境で抱いた三つの問いを思い出していた。
なぜ、有能な要が辺境へ流れたのか。
なぜ、辺境は別の道を模索しなければならなかったのか。
そして――誰もその責任を取らないまま、なぜ、話は流れていったのか。
王都で記録を遡り、セシルの話を聞いて、私はようやく、それらが別々の問いではないことを知った。
三つは、ひとつの流れだった。
中央へすべてを集めたい者がいた。そのために、辺境の自立の手足を一本ずつ外していった。港を弱め、関税を締め、外交を縛った。
そして、辺境がそれでも自立を保っていた、ただ一つの理由――名の出ない要を、恋の脚本で消した。
要を失った辺境は、生き残るために別の道を探すしかなかった。北方港。二本目の経路。それは、追い詰められた末の苦肉の策だった。
そして、その苦肉の策が皮肉にもうまくいってしまった。だから今、王都はまた、それを取り上げに来ている。
すべて、ひとつの流れだった。
私は、長いあいだ自分の追放をどこかで恥じていた。自分にも非があったのではないか、と。
違った。
私は、優秀すぎたから消された。それだけだった。その事実は、私を慰めもしなければ、傷つけもしなかった。ただ、静かに腑に落ちた。
その日、辺境から短い便りが届いた。アレクシスの字だった。
用件だけの、そっけない紙だった。港の荷は動いている。冬の見通しも立った。案ずるな、とは書いていない。無理をするな、とも書いていない。
最後に、一行だけあった。
――帰る場所は、動かない。
私はその一行を二度読んで、畳んで懐に入れた。
その一行の分だけ、王都の空気が薄くなった気がした。
その流れの源に、一人の男がいた。
誰にも名を残させず、自分も名を残さず、「国のため」という正しい理由で、すべてを設計した男。
宰相ベルフォード。
私は、その名を心の中で、そっと帳簿の一行目に書いた。
罰するために、ではない。
閉じるために。
三つの問いは、ひとつの流れでした。
その源に、一人の男。
次回、レティシアは、その男と、向き合います。




