第118話 脚本のある火遊び
セシルの話は、断片的だった。それでも、繋ぎ合わせれば形が見えた。
宰相府は、こう考えたのだ。
辺境を陰で支え、王都の行政をも陰で整えている名の出ない要がいる。レティシア・アルヴェイン。彼女がいる限り、中央への一元化は進まない。彼女が整えてしまうから、綻びが表に出ない。
だから、消す。
だが、有能な人間を有能だから消す、とは言えない。それでは、反発を招く。
――ならば、恋の話にすればいい。
若い王太子に聖女を宛がう。二人を恋に落ちたことにする。そして、邪魔な婚約者を嫉妬深い悪役令嬢に仕立てる。寄付金の横領という、分かりやすい罪を着せる。
そうすれば、誰もそれを政治だとは思わない。
愚かな火遊びの、ありふれた結末。人は、そう見て忘れる。
私も、そう見られて忘れられた一人だった。嫉妬に狂った、愚かな令嬢。寄付金にまで手をつけた、強欲な女。そういう筋書きで、人々の記憶にしまわれた。
本当の私がどうだったかは、誰も確かめなかった。確かめる必要がなかったから。結論だけあればよかったから。
火遊びは、情熱ではなかった。
脚本の、あるものだった。
冷たく、計算された脚本の。
そして――脚本を書いた者は、どこにも名を残さなかった。
カイルは、名を貸した。セシルは、役を演じた。私は、罪を着せられた。
三人とも、舞台の上にいた。
脚本を書いた者だけが、舞台の外にいた。
私はセシルに最後に一つだけ尋ねた。
「その、宰相府の人、というのは。誰でしたか」
彼女は、少し考えてから言った。
「直接来たのは下の者よ。でも、その人はいつも、こう言っていた。……これは、宰相閣下の御意向だ、と」
ベルフォード。
その名が、静かに部屋に落ちた。
落ちたきり、拾う者がいなかった。
この街で、その名を声に出せる人間が何人いるだろう。私はまだ、一人も知らなかった。
舞台の上に、三人。
脚本を書いた者だけが、外にいた。
名を、残さずに。




