第116話 捨てられた聖女
聖女セシルの居場所を探すのは、難しくなかった。
誰も彼女を隠していなかったからだ。
用が済んだ者を、人は隠しさえしない。ただ、忘れる。
彼女は、王都の外れの古い聖堂の裏手に住んでいた。かつて、光の中心にいた人が。
聖堂は古びていた。壁は罅割れ、庭は荒れている。かつて、大勢の信徒が彼女の祈りを求めて列をなした場所とは、思えなかった。
人の熱が去った場所は、こんなにも早く寂れる。
あの日、私を悪役令嬢と呼んだ人たちは、この荒れた庭を見に来ない。持ち上げた者を忘れるのに、王都は二年もかからなかった。
私が訪ねると分かったとき、周りの者は私を止めた。あなたを陥れた張本人ですよ、と。会う必要がどこにあるのですか、と。
必要なら、ある、と私は思った。
あの舞台の上にいた、もう一人。彼女が見たものを、私は知らなければならない。
聖堂の裏手の扉を、私は叩いた。
出てきた女は、記憶の中のセシルとは別人のようだった。
痩せて、髪には艶がなかった。あの、匂い立つような華やぎはどこにもない。
華やかさはなかった。あの、泣くことが武器になると知っている人の、計算された涙も。
ただ、疲れた一人の女がいた。
「……あなたが、なぜ」
彼女は私を見て、掠れた声で言った。
「恨みを、言いに来たの」
「いいえ」
私は、首を振った。
「あなたに、聞きたいことがあって来ました」
彼女はしばらく私を見つめてから、力なく脇へ避けた。
「入って。……何も、出せないけれど」
用が済んだ者を、人は、隠しさえしない。ただ、忘れる。
次回、二人だけの、静かな対話です。




