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婚約破棄された悪役令嬢は、役割を与えられない場所で静かに生きる 〜尽くしても報われなかった私を、理由も聞かずに受け入れてくれる領がありました〜  作者: 水無月カレン


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116/130

第116話 捨てられた聖女

 聖女セシルの居場所を探すのは、難しくなかった。


 誰も彼女を隠していなかったからだ。


 用が済んだ者を、人は隠しさえしない。ただ、忘れる。


 彼女は、王都の外れの古い聖堂の裏手に住んでいた。かつて、光の中心にいた人が。


 聖堂は古びていた。壁は罅割れ、庭は荒れている。かつて、大勢の信徒が彼女の祈りを求めて列をなした場所とは、思えなかった。


 人の熱が去った場所は、こんなにも早く寂れる。


 あの日、私を悪役令嬢と呼んだ人たちは、この荒れた庭を見に来ない。持ち上げた者を忘れるのに、王都は二年もかからなかった。


 私が訪ねると分かったとき、周りの者は私を止めた。あなたを陥れた張本人ですよ、と。会う必要がどこにあるのですか、と。


 必要なら、ある、と私は思った。


 あの舞台の上にいた、もう一人。彼女が見たものを、私は知らなければならない。


 聖堂の裏手の扉を、私は叩いた。


 出てきた女は、記憶の中のセシルとは別人のようだった。


 痩せて、髪には艶がなかった。あの、匂い立つような華やぎはどこにもない。


 華やかさはなかった。あの、泣くことが武器になると知っている人の、計算された涙も。


 ただ、疲れた一人の女がいた。


「……あなたが、なぜ」


 彼女は私を見て、掠れた声で言った。


「恨みを、言いに来たの」


「いいえ」


 私は、首を振った。


「あなたに、聞きたいことがあって来ました」


 彼女はしばらく私を見つめてから、力なく脇へ避けた。


「入って。……何も、出せないけれど」


用が済んだ者を、人は、隠しさえしない。ただ、忘れる。

次回、二人だけの、静かな対話です。

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