第111話 順序は消せない
セドリックと私は、記録の山に潜った。
窓のない書庫だった。蝋燭の火が、紙の山を頼りなく照らす。埃の匂い。指先がすぐに黒く汚れる。
何刻も、私たちはそこにこもった。食事も、忘れて。
「署名が黒塗りでも」と、私は言った。「決裁には、順序があります。どの部署をどの順で回ったか。日付。添付された資料の番号。……名は消せても、道筋は消せません」
セドリックは、感心したように私を見た。
「あなたは、昔からこういうことが得意でしたね」
「得意ではありません。ただ、これしかできないので」
武器を持たない。地位もない。私にあるのは、記録を読む目と、整える手だけだ。
だから、それでやる。
私たちは、黒塗りの決裁がどの部署を経由したかを前後の書類から割り出していった。決裁の一枚は消せても、その前後の連絡文書までは消しきれていない。
道筋は、少しずつ形を現した。
中央集権政策の一連の決裁は、ばらばらに下されたように見えて、実は一つの部署を必ず経由していた。
宰相府の、一室。
そこを通らない決裁は、一つもなかった。
「……宰相府」
セドリックが低く呟いた。その声に、怯えのような色が混じっていた。王都で長く働く者ほど、その名の重さを知っている。
「……ここが、束ねていたのですね」
私は、呟いた。
港を弱めた決裁も。関税を締めた決裁も。そして――
私は、その道筋の隣にもう一つの束をそっと置いた。
私の、追放の記録。
それもまた、同じ部署を経由していた。
名前を消しても、道筋は残る。
整える人の目は、そこを見ます。
次回、二つの束が、重なります。




