↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された悪役令嬢は、役割を与えられない場所で静かに生きる 〜尽くしても報われなかった私を、理由も聞かずに受け入れてくれる領がありました〜  作者: 水無月カレン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
104/130

第104話 誰も負わずに済む

 その夜、私は眠れなかった。


 寝台に横たわっても、目が冴えていた。


 外は、静かだ。まだ早い春の夜は、虫の声もなく、時折、遠くで梟が鳴くだけ。辺境の夜は深い。王都のように、明かりで薄められていない。だから、考えごとはいつも、夜に深くなる。


 黒く塗り潰された署名欄が、瞼の裏に残っている。


 私は思い出していた。


 いつだったか、アレクシスがぽつりとこぼしたことがある。彼にしては珍しく、自分のことを。


 かつて彼自身が理由を並べ立てられて、切り捨てられかけた側だったこと。能力がない。出自が悪い。前例がない。辺境を任せるには若すぎる。――並べられた理由は、どれも正しかった、と。


 そして、彼はこう言った。


 正しい理由は、人を殺すのに都合がいい。誰も責任を負わずに済むから、と。


 あのときは、彼自身の過去の話だと思って聞いていた。


 今は、違う。


 あれは、この国のいちばん深いところの話だった。


 港を弱めた決裁も。関税を締めた決裁も。私を追い出した、あの日の裁定も。


 どれも、たぶん「正しい理由」で飾られていた。国のため。秩序のため。均衡のため。


 正しい理由で包めば、誰も個人としては手を汚さずに済む。決めたのは制度であって、私ではない、と言える。


 ――だから、誰の名も残らない。


 私は天井を見上げた。


 国家は誰か一人のものではない、と私はいつかの夜、王都で言った。言った以上、私はその言葉に縛られている。


 けれど今夜、私はその言葉の裏側を見た気がした。


 「誰か一人のものではない」は、優しい。けれど、使いようによっては――「だから、誰の責任でもない」にすり替わる。


 誰のものでもない国。誰も負わない国。


 それは、私が支えたかった国の形だったろうか。


 窓の外で、森が低く鳴っていた。


「誰か一人のものではない」の、裏側。

第二部の、いちばん静かな夜でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。