第4話 Z県N町の旧C村にて
4話目です。よろしくお願いします。
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ナハク・ヴェルフ(AI-789)がインドのデリー国際空港(インディラ・ガンディー国際空港)から、日本の関西国際空港までの到着にかかった時間は約1時間半。
凡そ、2020年代からすると、約7分の1のフライト時間だ。
しかも、旅客機の形状や乗客員数はこの当時とは桁違い。
水素エンジンで飛ぶそれは、2000人の乗客とその荷物を搭載させることが可能。
だが、地球における先進性とは、これら空や地上や海の移動手段と、その到着するステーションなどだけ。
国や地域により違いがあれど、大体その地の景観は21世紀半ばで止まっている。
関西国際空港から大阪市へ到着したナハクは、まず大阪城に目を奪われる。
巨大なオフィスビルもあるが、その殆どは2020~40年代に働いていた様子を残した博物館と化し、中で働いているのは、観光で訪れる人々をガイドする人たち。
テーマパークのUSJもあり、こちらは通常に営業中。
日本の大阪市なら、大阪城、USJ、海遊館、そしてキタやミナミでの繁華街での飲食やショッピングが主な観光。
そして、日本の主要部分に即座にアクセスできる、リニアモータ駆動の高速新幹線で他の都市への観光に向かう。
ナハクは大阪市到着後、即座に新大阪駅でZ県へ行ける最短距離の方法を探る。
「おや、あなたはもう大阪を離れるんですか?」
ナハクは旅客機で共に降りた観光客から声を掛けられる。
確かに日本の主要な観光地の一つである大阪をいきなり離れるのは不自然だ。
ナハクはZ県に行けるルートを確認したら、この日と次の日は大阪観光と決めた。
日本。
20世紀半ばから21世紀初頭に、自動車をはじめとする工業製品を大量に製造していた工業国として知られている。
だが、主だった工場やそれに関連する企業ビルは全て閉鎖解体され、緑地化されているか、先に挙げたようにあえて残し、当時を知るための観光場所となっている。
例えば自動車工場なら、ガソリン車の製造工程が見学でき、実際にそれに乗って運転を楽しむコースも併設されている。
もちろん、当時の自動車と異なるのは助手席に特殊な装置が付けられ、観光客が少しでも運転ミスをしたら、助手席に乗ったガイドが、それを操作し即座に車を安全に停止させ事故を防ぐ。
そして気候。
日本もそうだが、北半球の中緯度地域は四季が明瞭としており、日本なら3月後半から少し肌寒いか、あるいは少し暖かい5月終わりまでの春。6月半ばから7月初めの雨期。9月初めまでの最高気温が30度を時に超える夏。11月初めまでの紅葉を楽しめる秋。そして翌3月後半まで長く寒い冬。
南北に長い国なので、当てはまらない地域も多いが、冬場の降雪は日本海側がが多い。
しかし、太平洋側でも豪雪は稀だが、冬場はそれなりに降雪がある。
21世紀初頭から半ばの日本は、この春と秋がほとんど感じられなく、逆に夏場は異常なまでの高温多湿。
冬場だと、日本海側は時として異常な豪雪に見舞われていた。
現在。
冬場なら大体の地域で、どこでもスキーを初めとするウィンタースポーツが楽しめる。
この地球全体の気候の安定は、単純な人口減、工場が無くなったこと、移動手段の乗り物が一切の排ガスを出さないこと、これ等が200年以上続いたからである。
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西暦2327年1月17日の早朝。
ナハク・ヴェルフは大阪を離れ、Z県N町を目指す。
Z県は海なし県。
N町は特にこれといった特徴のない、農業を主とした町。
日本を訪れてここへ観光に赴くのは、ナハクくらいだろう。
否、ナハクは観光でここに向かうのではない。
このN町の旧C村と呼ばれる地域の調査に来たのだ。
Z県の県庁所在地のX市へは、高速新幹線で即座に到着したが、そこからN町へは水素エンジンの自動運転バスで赴く。
このバスの形状は2020年代の観光バスに似ていて、違いは動力源と運転士がいないことだけだ。
時速も安全を考えられて最高でも60キロまでしか出ず、ナハクは数名の恐らく地元民と共に乗り込む。
ある人物がナハクを見て、明らかに地球出身でないことに違和感をおぼえ、片言の世界共通語で声を掛ける。
「このようなところに観光で訪れる方は珍しいですね。日本なら他に色々と楽しい場所があるでしょうに……」
ナハクは見事な日本語で返す。
彼の人工頭脳には、40ほどの言語がインストールされているが、日本語はその中一つ。
「日本語で構いません。このように日本が好きなので語学を勉強して、日本の様々な地域。特にあまり観光地化されていない、日本の原風景のような場所が好きなのです」
ナハクは自分でも上々の返答だな、と思ったが、声を掛けた人物は「はぁ」と、半ば感心、半ば呆れの混ざった声を出しながら席に着き、N町の隣のM市の中心部で降りてしまった。
そして、バスはN町の中心部に到着する。
ナハクは降りる。
「本当に何もないところだな……」
N町は人口が約7000人。
火星を初め地球を出て移住した人類は、元々都市部に住んでいた者たちが中心なので、日本なら田舎のほうが比較的人口が21世紀時と変わらない。
ナハクが最初に訪れた大阪市なら、その人口は約35万人である。
N町は平地が多く、その大半は田畑である。
故に住民も農業に従事している者たちが多い。
但し、山地部分もあり、ここはかつてC村と呼ばれていた。
N町とは農業主体のA村とB村、山岳地帯のC村が、20世紀の半ばに合併して出来た町である。
それが現在。24世紀になっても続いている。
平地の旧A村と旧B村、山岳地帯の旧C村を分かつのは川で、そこそこ川幅があり水深も深い。
この川には片側一車線の道路がある橋が架かっている。
基本的に旧Aと旧Bから旧Cに行くには、この橋を自動車で渡る。
N町の中心地でナハクは旧C村へ向かう自動バスか自動タクシーを探す。
バスは無料だが、N町の中心地にある駐車場に並ぶタクシーは料金を払わないといけない。
バスの時刻を確認したナハクはタクシーを選択する。
駐車場の入り口に設置された端末読み取り機に、ナハクは黒ジャケットの左胸に付いた一般用の端末をなぞり、縦横1メートルほどの空中画像を浮かべ、そこから電子マネーを入れる。
入り口は開き、十数台のタクシーの一つを選び、又も空中画像をかざすと、タクシーの四席のドアが開く。
ナハクが前部の右側に座ると、シートベルトが乗った人物に最適化された状態で自動的に締まり、ドアは全て閉まる。
車内に音声が鳴る。
「ご利用ありがとうございます。目的地をお願いします。尚、このタクシーはN町外へ出ることは出来ません」
「C地域の公民館前を頼む」
「了解しました」
タクシーはほぼ無音で駐車場から出て行き旧C村へと向かう。
3
N町の道路を走るタクシー。
その車内からナハクは外の様子を見る。
現在は午後二時過ぎ。
大きな人家とその家の田畑がきれいに並んでいる。
農作業をしている者たちも見える。
基本的には21世紀の手法と変わらない。
ただ、単純作業と力仕事だけを機械に頼るだけ。
トラクターを初め、各種農作業の機械は内蔵された電池で動く。
日本人の半数以上がこのように農業や漁業に就いている。
日本の食料自給率は200パーセントを超える。
その生産物の半分の内、2割ほどは地球の各地域への輸出、残りの8割は地球外への輸出だ。
ナハクの目の前には山地が見えてきた。
そしてタクシーは橋に達する。
山地へ向かうので、この橋はナハク側からすると昇るように設計されている。
橋を渡り切り、目的地のC地域の公民館前でタクシーは止まり、ナハクのシートベルトは解かれ、ナハクが座った位置だけのドアが開く。
「ご利用ありがとうございました。お戻りになる際は、先ほどの記録されたものを入力していただければ、タクシーがこの場所に向かいます」
そうタクシーは音声を出して、ナハクが完全に下車したことを確認すると、ドアを閉じ発車する。
この旧C村は人口が100人ほど。
N町が約7000人なのだから、かなりの過疎地だ。
山間とあって、人家はまばらに点在している。
いくつかの家は無人である。
ここで一番低い場所はかなり広い平地で、キャンプが楽しめ、無人の人家はこの旧C村の責任者に頼めば、宿泊が出来る。
それが整備されたのが2020年代で、当時夏場はキャンプ、そして一年中天体観測のスポットとして有名だったので、観光地化されていた。
だが、今では地球外の観光客はもちろん、地球内でも日本内でもここを観光目的で来るものは、極めて稀だ。
ナハクはこの旧C村の責任者が住む家へと向かう。
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責任者の家に到着すると、ナハクは軽い驚きをする。
表札には「○○」と苗字が書かれていた。
あの「テラ001」でのミイラ化した人物が書いた「〇〇道彦」と同じ姓だ。
50代半ばらしき男性が対応する。
「ここの空き家で民泊をしたいと。そんな人が来るのは、10年以上も前でしたな。それも地球外の観光客が最後に来た時は、私が子供の頃でしたよ」
そう言って男性はとある家の鍵を渡し、その家の場所を教える。
ここもそうだが、日本の家々の外観はおおよそ21世紀と変わらない。
だが、インフラ状況が一変している。
日本は地震が多く、夏場は台風が来ることもある。
すべての建築物がマグニチュード8.0でも耐えられるように、特殊な材質が内部に組み込まれ、同じく地下の電力線や水道管も同様に耐えられる素材で出来ている。
電線が全て地下なので、日本における現在と21世紀の外観の最も大きな違いは、電柱の有無だ。
因みに地球における電力とは、月面に設置された太陽熱による汽力発電が主であり、補助的に地球各地に景観を損なわないように、水力、風力、太陽光の発電所がある。
また、日本の海上には全長10キロメートルという巨大な特殊船が10隻もあり、地震が起こった場合はこの特殊船が津波の発生するところに向かい、最大で高さ30メートル、幅10メートル、長さ10キロメートルの壁を出し防波堤となる。
ナハクが泊まる家も外観や内部は21世紀のそのものだが、このようにどんな天災にも耐えられ得るのだ。
居間には炬燵がある。
この炬燵に付いた装置を起動すると、炬燵の上に縦50センチメートル、横100センチメートルの2D画像が浮かぶ。
サイズやアスペクト比、また3Dに変えることも出来るが、ナハクはそのまま画像を火星から放送されている24時間ニュース番組へと切り替える。
ナハクは即座の調査は行わず、先ず数日間は、本当にここに民泊している様に留まることを決めた。
第4話 Z県N町の旧C村にて 了
続きます。
本当にこういった状態になって、あらゆる災害に耐ええる環境になったら、どんなに素晴らしいだろうな、と思いながら書いた回です。




