第3話 地球へ
3話目です。よろしくお願いします。
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西暦2326年8月31日。
冥王星基地内で地球行きの準備をしている、ナハク・ヴェルフ(AI-789)の元に、彼が乗って来た宇宙船の整備が終わったとの連絡が入った。
この宇宙船は超光速航法機能を備えているが、当然太陽系内を航行することにも問題は無い。
ナハクは彼と同じくロボット。
つまりこの冥王星基地に所属する、あるロボットと話し込んでいる。
「……という訳で、若し私が地球に赴き、それ以降連絡が取れなくなったら、お前が『テラ001』の再調査に向かうんだ」
ナハクは「AI-927」と呼ばれる、ロボットに命じている。
これは全て冥王星基地司令官アミナ・ラワーティの承諾を得て行っている。
「分かりました。ですが本当にそんなことがあるのでしょうか?」
「AI-927」は165センチメートルと比較的小柄な女性型で、見た目は20代前半。
白磁の肌と金褐色の髪。大きな目には緑色の瞳が輝いている。卵型の顔は細い鼻梁を初め、ややあっさりとした造り。
24世紀の人類としてはかなり稀な風貌をしている。
彼女はニーナ・ネーガンという、人間の名を持っている。
人類の大半が地球外で居住するようになって、約2世紀以上。
この間に人類の風貌とは、様々な地球出身地の間との婚姻が重ねられた結果、濃淡に差はあるが褐色の肌、様々なウェーブのある黒か黒褐色の髪、黒褐色か褐色の瞳、少し縦に長方形の顔にはくっきりとした目鼻立ち。
これらが一般的なスタンダードとなり、体型はおおよそ男性の平均は180センチメートル、女性の平均は170センチメートル。
ナハクのような2メートルを超える人間は数少ない、と言いたいところだが、この200名ほどの冥王星基地内にも数人の2メートル超えの人間がいる。
その中の一人。
ナハクの宇宙船の整備士の責任者がナハクの前に現れた。
背はナハクと同じ位だが、引き締まった細身の30代半ばの男性である。
「『AI-789』三等中級調査官。いや、任務で地球に行くので、ナハク・ヴェルフ三等中級調査官ですな。先ずは火星の宇宙省本部に行き、地球行きの申請をしなければなりません。船体には火星への航行プログラムを組んでありますので、オートパイロットで行けます」
「ご苦労。カイル・バンクス一等下級調査官」
宇宙省における階級とは上級調査官、中級調査官、下級調査官に分けられ、それらが一等から三等に区分された、9つの階級制だ。
上級調査官は幹部クラスの高官であり、ラワーティ司令官の階級は二等上級調査官。
ニーナ・ネーガン(AI-927)は二等下級調査官。
トップである宇宙省長官は、一等上級調査官の更に上に位置し、世界連邦政府の閣僚ポストである。
2
太陽系内での超光速航法は禁じられている。
翌9月1日。
ナハク・ヴェルフが乗り込む宇宙船は冥王星基地を出発する。
目的地の火星までは約3か月間の航行。
コックピットでナハクは腕を組み身動き一つしない。
3か月間をナハクはこの姿勢のまま過ごすと、船内に機械音が発せられる。
「火星軌道上の『LJ-002』ステーションまで、あと5時間で到着します」
それを聞いたナハクは、初めて動き、コックピットの天井や壁や床を外部モニターに変更する。
「凄いな……。いや、これが問題なのか……」
火星。
元々は1億人が居住できる20個のドームが、21世紀後半から建設されていたのだが、現在では100を超えるドームが建設され、各ドームは連結され、山々を初めとする元の環境は整備。
つまり、破壊され、エキュメノポリス(単一都市)として約100億人以上が居住する惑星となっている。
何十年も前から、この火星の状況を元に戻し、100億人の住民を太陽系外に移住させ、元の火星の景観に戻そうとする運動が起こっている。
「地球の環境は理想的な状況に戻った。だが、その代わりに我々は火星を人工的な歪な姿に変えた。火星に住む人類は外宇宙に植民し、火星を元の姿に戻すべきだ」
そう、ある環境団体は述べ、それを受け、宇宙省は太陽系外の惑星に関して、極力手を加えずに移住可能かどうかを実際に赴き、調査をしている次第なのである。
ナハクの宇宙船は火星の軌道上の何百とある宇宙ステーションの一つに到着する。
このステーションには軌道エレベーターがあり、そのまま世界政府の宇宙省のビルに直結している。
ナハクは宇宙船を降り、ステーションから軌道エレベーターに乗り、火星の宇宙省へと降りて行く。
このエレベーターは「フルヤ・アラキ」と呼ばれ、22世紀の半ばに火星での通信環境の開発に尽力した夫婦の姓を合わせたものである。
この夫婦以前の火星では、移住した人々は地球との連絡手段がなく、当時は定期的な輸送船で手紙などを送る、というアナログな手法を取っていた。
フルヤ・ソータとアラキ・アカネの夫婦は個人用端末の通信性能向上に携わり、火星と地球間の個人通信が可能となる。
既に冥王星基地司令官のラワーティから、超光速通信で宇宙省の地球担当部署の長に、ナハクが地球に調査に赴く、との連絡が入っている。
なので、ナハクは即座に地球行きの宇宙船のチケットのデータをこの長から渡された。
「どうする? 出発日は5日後だが、何か必要なものはないか?」
「そうですね。観光客を装うので、一般人の服と一般用の端末をお願いします。それと当日までフル充電をしたいのですが」
この長はナハクがロボットであること知っている。
ナハクの両方の願いは聞き届けられ、彼は自身に合った洋服を用意されるまで、宇宙省の中にある充電室に入るのであった。
そこは白いベッドのような横1メートル半、縦2メートル半。
ナハクは自身の巨体を仰向けして寝る。
すると白いベットのようなものは反応して、ナハクの動力源にワイヤレスで充電を開始する。
3
当日。
ナハクは白のシャツ、ジーンズ、左胸に小さな一般の端末が付いた黒のジャケットを身につけ、地球へ赴く宇宙船が繋がっているステーションへ向かう。
ステーション内は多くの人々でごった返している。
全員、地球への観光客。
何となく富裕層が多い。
この観光客たちは地球に一年間の滞在をする。
1万人が乗れる巨大な宇宙船に人々は乗り込む。
ナハクもそうだ。
人々から観光の予定の言葉が出てくる。
「私たちは滞在期間中、地球の国々を可能な限り全てを巡る予定です」
「私はスロベニアを拠点にアルプス山脈やアドリア海の景観を見に行きますよ。で、あなたは?」
乗船中に声を掛けられたナハクは言葉を返す。
「私は日本にずっと滞在予定です」
「おぉ! 素晴らしい! 日本は海に囲まれ、山も多いので、川釣りや海釣りが楽しめる。それら山の幸、海の幸の料理が独特でおいしいですよね。もちろん多くの素晴らしい街々も魅力的ですな」
地球へは約1か月間の航行。
それ故、乗客たちは個室でくつろぐ。
ナハクの個室は一人用。
ベッドがあるそこそこ広い部屋とトイレとシャワー室。
無論、後者2つ、厳密には全てナハクには必要ない。
ベッドがある部屋には、小さなテーブルとソファがある。
ナハクは1か月間ソファに座って過ごすつもりだが、少し考える。
「ずっと部屋に閉じこもっていると、乗組員に怪しまれるな」
例えば、食事は室内に据え置かれた端末で注文したり、船内にはいくつかレストランやカジノがある。
要するに、この宇宙船は宇宙における一種のクルーズ船だ。
「たまには部屋から出てレストランで食事をしている振りをしていたり、カジノで遊んでいよう」
何やら宇宙省での勤務より、難しいミッションを課せられているな、と思うナハクであった。
4
24世紀の地球には250を超える国や地域がある。
と、言いたいところだが、「国」という概念が無くなっている。
これらの地域は単にその国名で呼ばれているだけで、地球自治政府の名の元、国境は無いに等しい。
地球自治政府の所在地はインドにある。
インド洋のモルディブ諸島に軌道エレベーターがあるからだ。
インドの人口は約1億3000万人。
地球で最も多い人口の地域なのもその理由だ。
さて、地球では産業というものが無い。
いや、観光業やその土地の伝統的な工芸品を作る産業はあるが、全人類必須の工学・電子機器を初めとする工業製品を造る工場自体が完全に無くなっている。
各地の人々は伝統的な手工業に携わっているか、でなければ同じく伝統的な農業や牧畜や漁業に就いている。
後は、その地域におけるガイドや飲食店を初めとするサービス業。
何より各地に住む人は、その土地の言語を習得することが必須とされ、世界連邦共通語を耳にするのは地球外からのニュース報道くらい。
日本なら、そこに住んでいる人々は日本語しか話せず、せいぜいガイドやサービス業に携わる人々が世界連邦共通語を話せるだけ。
日本の人口は約2900万人。
そこに住む人々は、サービス業や伝統的な工芸品を作ったり、やはり同じく伝統的な農業や漁業に就き、それらを火星を初めとする、地球由来の工芸品や飲食を求める人々に輸出をしている。
当然、他の地域(国)も似たり寄ったりだ。
地球で唯一、宇宙船が接舷できる巨大な宇宙ステーションに、ナハクが乗船している宇宙船は到着した。
この宇宙ステーションから軌道エレベーターでモルディブ諸島に乗客は皆降り、続いてインド亜大陸に今度は巨大な文字通りのクルーズ船で到着し、そこから地球自治政府のあるデリーまで、高速鉄道で赴く。
デリーには地球で最も巨大な空港があり、ほぼ地球の主要な地域にある空港へ旅客機が飛んでいる。
ナハクは日本行きのターミナルへ向かい、日本行きの旅客機に搭乗する。
時に西暦2327年1月15日。
ナハク・ヴェルフは日本の地に到着するのであった。
第3話 地球へ 了
続きます。
>このエレベーターは「フルヤ・アラキ」と呼ばれ、22世紀の半ばに火星での通信環境の開発に尽力した夫婦の姓を合わせたものである。
~
これについては私の作品の「蒼と朱の交換日記(N1537IQ)」の一種の後日談となっています。




