第2話 痕跡、ある村のようなもの
2話目です。よろしくお願いします。
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ナハク・ヴェルフ(「AI-789」)なるロボットが、超光速航法機能を備えた宇宙船で、冥王星基地を出発したのは、西暦2318年4月の中頃。
目的とするところは、太陽系より約400光年離れた、とある地球型惑星。
仮称として「terra-001」と名付けられた。
以降、この惑星については「テラ001」と表記する。
そして、4年後。ナハクは「テラ001」に到達する。
着陸前にこの惑星系の状況と、調査目的の「テラ001」の情報を、ナハクは宇宙船のコックピットで調べ上げる。
先ず太陽。
これが地球の太陽より一回りほど小さく、且つ表面温度も若干低い。
かろうじてG型主系列星に分類されるというべきか。
次に「テラ001」。
第三惑星であることは地球と同じだが、公転している軌道がちょうど地球一つ分外側である。
こちらは逆に地球より一回り大きく、内核を初めとする構造と、それを構成する金属元素も同じなので、重量も地球以上である。
恐らく1.5G以上はあるだろう。
更に、北緯と南緯45~50度あたりから両極に至るまで、完全に氷に覆われ、地表と海水の割合はほぼ同じ。
赤道付近での大陸で草原や森林が確認できたが、生物の存在は地上も海中も微生物程度。
大気の各層だけは地球とほぼ同様だ。
ナハクは当然赤道付近のとある平地へと着陸した。
宇宙省の勤務服のまま外に出る。
霧深く、肌寒い。
気温は零下2度。
因みにナハクたちこのロボットは、痛覚や暑さや寒さを人間同様に感じる。
痛覚を人工頭脳で感じないと、故障個所に気付かず、最悪動作停止となるからだ。
「少し、この辺りを回るか」
一旦、宇宙船に戻ったナハクは、今度は宇宙船の下部から6輪の探査車両に乗って外に出る。
この車両には当然各種の解析装置が設置されているので、より広く詳細な調査ができる。
探査車両の形状は小型の偵察装甲車に近いが、武装は一切していない。
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「何だこれは?」
ナハク・ヴェルフは探査車両内のある解析装置の浮遊パネルで生物の確認信号を示す点滅を確認する。
「ここから北東に150キロメートルほどだな」
微生物ではなく、かなりの大型の生物の確認信号。
地上なので、仮に哺乳類なら全長1メートル以上はある。
探査車両を自動から手動に切り替え、ナハクはスピードを上げる。
途上、緩やかな勾配を登る状態となり、それにつれて周囲はぽつぽつと森林が点在してくる。
森林の形状は赤道付近だというのに、針葉樹に近い。
気候を考えれば、当然か。
この辺りは一年中、日中で10度を超えることは稀で、最低気温は零下10度を下回る。
両極が氷で閉ざされ、且つ海水面積が少ないので、降雨は少ないが、定期的に豪雪ではないが雪が降る。
アミナ・ラワーティ冥王星基地司令官がこの惑星を植民に適さない、と断じたのは両極の氷をある程度溶かせば、農耕や海中での魚類の放流に適するが、やはり重力が1G以上なのは、特殊訓練を受けた管理員か、それこそロボットを置き、食物生産惑星とすることしかないからだ。
もっとも、仮にこの惑星を食物生産惑星にしたとしても、生産物を流通させる超光速航法機能を備えた巨大な宇宙船が無い。
ナハクの操縦する探査車両はある平地に辿り着いた。
周囲は森林でここだけ低木もなく、草地となっている。
「凡そ、アソシエーション・フットボールのフィールドの広さだな」
そう、ナハクが感想を述べると、生物の鳴き声が聞こえた。
「ブヒヒィ~ン」
「!?」
どさり、その鳴いた物は、このフィールドに倒れこんだ。
ナハクは探査車両を降り、その鳴いた物に近づく。
「これは、い……イノシシ!?」
ぴくぴくとしたそのイノシシのような、いや完全にイノシシとしか表現できないそれは、ナハクに抱えられると、そのまま死んでしまった。
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「死因は単に寿命だな」
瘦せ細り、衰弱した姿。
ナハク・ヴェルフは上着の胸に付いた宇宙省の徽章をなぞる。
すると縦横1メートルほどの空中画像が浮かぶ。
これは端末装置である。
ナハクが空中に浮かぶ画像を操作し、この死亡したイノシシをスキャンする。
スキャンした情報から、細胞を初め更に色々な検査すると、驚くべき結果が出た。
「完全に地球のイノシシだ。何故地球由来のイノシシがここに……」
このサッカーのフィールド上ほどの平地をナハクが端末装置で調査すると、更に驚くべき結果が出た。
「墓……、人間、それも地球人の墓か?」
数十の人間。
地球人が埋められたと思われる箇所が確認された。
だが、ほぼ全てが数百年前に埋められたので、殆どの遺体は埋められた土に同化してしまっている。
一番近年に埋められた箇所にナハクは行く。
「ん? 埋めた箇所に石があるな。これは何だろう?」
ナハクはこの墓所を掘り返し、30センチメートルほどの石を取り出す。
この石には表面に文字のようなものが刻まれている。
だが、悠久の時を経て、殆ど風化している。
刻まれたのは260年ほど前であろう。
ナハクは改めて端末を操作して、この石に刻まれた文字らしきものを解析する。
解析結果は以下であった。
「△△健則。日本国Z県N町出身。1982年生まれ。ここに死す」
「……な、なんだ、これは?」
ナハクのデータ内にある言語。
日本語だ。
人類社会が世界連邦となってから、全人類の共通言語は「世界連邦共通語(非英語話者が習得しやすいように、整備された英語)」と制定されたが、地球に居住する人類は、その箇所に於ける言語や文化を守っている。
24世紀。
地球人口は約15億人。
火星を初め太陽系内での、地球人口を含めた総人口は約150億人を超える。
地球を除いて次に人口が多いのは金星で、5000万人が居住できるスペースコロニーが金星の軌道上に5つ設置されている。
このコロニーの住民たちが主に行うのは、同じく軌道上に設置されている、太陽光を利用した天の川銀河を隅々まで見渡せる巨大宇宙望遠鏡の制御。
また、同じく軌道上に設置された巨大パネルにて太陽光発電を行い、その巨大蓄電池を収めた巨大宇宙船にて、火星を中心とした太陽系の各地へ送ることである。
地球。
そこは、基本的に太陽系の各地に住む人々による観光名所となっている。
世界連邦の首都は火星にある。
地球の「日本」とは、全人類が特に訪れる名所。
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ナハク・ヴェルフはこの四方を森林に囲まれているフィールドの一か所に、ある通路のようなものがあるのを確認した。
そこへ進むナハク。
約300メートルほど進むと、何やら朽ち果てた集落が現れた。
数件の木組みの家々。家畜小屋のような厩舎。そして明らかに開墾されたと思わしき田畑。近くにある河から水も引いている。
完全に人々が住んでいた痕跡。
だが、人や動物の気配は一切しない。
ナハクはある小屋を開ける。
「!?」
小屋の中には木組みのベッドで横たわるミイラ化した人間の死体が見つかった。
そのミイラのベッドの近くに机がある。
上には木片と筆と塗料のようなものが残されていた。
この小屋やベッドや机を作るために、樹木は十分にあるので、木片はその余りであろう。
筆はあのイノシシの毛と枝を接着させている。
接着剤はイノシシの皮や骨を煮詰めた膠。
塗料は木炭から墨を作り、それを水に溶かし、更にこの接着剤が混ぜられ、木片にしっかりと記入できるようにしている。
最も新しいものでも230年ほど前である。
ナハクはその木片を手に取り、書かれた痕跡を解析する。
「○○通彦さんが亡くなり、それからおおよそ地球時間で3年後に△△健則さんが亡くなった。健則さんが亡くなってから、どれ位だろう? 私がここに来た時は、20歳の時だった。今私は80は過ぎていると思う。もうずっと長く一人だ……」
ナハクが木片の数々を調べると、この木片を書いたのはこのミイラ化した人物のようだ。
そして、このミイラと△△健則と○○通彦の三者は、20世紀の終わりから21世紀の初めにかけて、日本国Z県N町のとある箇所から、400光年の距離を瞬時に飛び越える、ワームホールによってこの惑星、テラ001へと転移していたことが分かった。
「……これは、地球の当地にて調査する必要があるな」
ナハク・ヴェルフはこの村以外に、人間はもちろん、大型の生物の痕跡が、テラ001に無いことを確認すると、冥王星基地への帰還へと向かう。
時に宇宙船の船内時間は、西暦2322年5月の終り頃であった。
第2話 痕跡、ある村のようなもの 了
続きます。
私の作品群を読んでいる奇特な方々は、「あっ、これって!」となっていますね。
ネタバレは最終話のあとがきで行います。




