第1話 冥王星基地への帰還
作品情報にありますように、この作品は「惑星への意思(N8349IZ)」と「湿度90パーセントの楽園(N8626KM)」の関連作です。
今回は24世紀の太陽系内をメインに扱っています。
1
太陽系外縁。
いわゆる「カイパーベルト」付近にワープアウトした宇宙船が出現した。
上部は白亜、下部は鈍い銀色。
全長は36m、最大全幅は10m、最大全高は12m。
形状は楕円形。
この超光速航法機能を備えた宇宙船は、はるか何百光年離れた惑星の調査から、太陽系へと帰還したのだ。
乗務員は一人。
いや、人はいない。
アンドロイド。
自分で思考可能な、完全なヒューマノイド型のロボットが操縦している。
「西暦2326年6月21日。時刻は23時過ぎか」
そう操縦しているロボットは船内時間を確認して独り言ちる。
時刻は協定世界時(UTC)である。
見た目は40代前半の屈強な男で、全長は2メートルを超え、重量もそれに見合った115キログラム。
宇宙省の勤務服である、ネイビーブルーのジャンバーと同色のスラックス、そして黒褐色のハーフブーツ。
これらが男(ロボットだが)の力感を強調している。
眼光鋭い瞳は黒褐色。
やや縮れた黒の髪は短く刈っている。(伸びることはないのだが)
全身の屈強な肉体を包む肌は褐色。
一見すると、要人警護のシークレットサービスを思わせる風貌。
通常航行で男は出発した基地を目指す。
その基地は冥王星にある。
数日ほどの航行で赤茶けた準惑星。
冥王星が肉眼で見えてきた。
その衛星のカロンもかろうじて確認できる。
この宇宙船には窓はないが、コックピット内の天井や壁や床は、そのまま外部を映すモニターに切り替えることが可能なのである。
男は信号を出し、それを受信した冥王星基地から通信が届いた。
「『AI-789』か。『terra-001』の調査から帰還したのだな」
「AI-789」と呼ばれた男は、「そうです」と答え、一応基地内部のUTCを尋ねる。
「西暦2326年8月12日だ。時間も必要か?」
「いえ、十分です」
男は答え、「数年の違いは覚悟していたが、まさか二か月ほどのずれとはな」、と感心する。
2
冥王星基地は地殻内にあり、この地殻は氷である。
比較的地殻運動が安定した箇所を掘削して、そこを特殊な断熱材で覆い、内部も同じく特殊な重力装置で1Gに保たれている。
当然、内部の大気は地球と同じで、気温は16.5度、湿度は35パーセントと固定されている。
「AI-789」が操縦する宇宙船は、その入り口となる、箇所へ下降していく。
窒素氷、メタン氷、一酸化炭素氷で覆われた、冥王星の表面のある一か所が、この宇宙船が入れるほどに開かれる。
この宇宙船を10機近く収容し、整備することが可能な格納庫に着陸すると、「AI-789」は宇宙船から降りた。
何人かの整備員(当然人間だ)が点検のためにこの宇宙船に群がる。
この基地の内部は約200名の人間と、10数体のロボット(全員宇宙省の関係者)が居住し、規模は7500000立方メートル。(おおよそ東京ドーム6つほど)
冥王星の地熱エネルギーを主として、周辺の氷をろ過した給排水、食料、電力等のプラントも設置されている。
太陽系内の各惑星からの200名の人間の生活物資の供給は、これで必要最小限に抑えられている。
「AI-789」は基地司令官のオフィスに真っすぐに進む。
この辺りはロボット。
周囲の人間からの労りの声はするが、どこか文字通り機械的で、彼も機械的に応じ、「terra-001」の調査データを司令官に渡すことを第一としている。
「『AI-789』です。任務を終え帰還いたしました」
「入れ」
司令官室のドアから女性の声がすると、ドアは自動的に開く。
基地司令官室のデスクには、太陽系内の宇宙省の各高官との通信装置があるのみ。
それ以外には10人ほど会議用のテーブルが置かれた、簡素で実務的な作りである。
「先ずはこれを」
「AI-789」は報告書を司令官に提出する。
次に会議用のテーブルに自身が体験した「terra-001」のデータを、自身の内部にある記録装置からテーブル上のデバイスに無線接続し、アップロードする。
「ご苦労、『AI-789』。確かにこの惑星は我々人類が居住するには困難だな。特に重力面で」
司令官。
「AI-789」と同じく、40代前半の人間の女性が「terra-001」のデータと報告書を確認しながら言う。
冥王星基地司令官。つまり、この冥王星の総責任者は宇宙省の高官。
「AI-789」と同じく、宇宙省の勤務服を着ていて、彼女の身長は178センチメートルほど。
引き締まった体幹とベリーショートの黒褐色の髪が印象的な軍人然とした感じ。
彫りの深い顔立ちの双眸はやや薄い茶色で、明るい褐色の肌の持ち主である。
「何なのだ、これは? ふむ、地球の一部の地域で使われている言語のようだが……」
司令官。
アミナ・ラワーティは不思議がる。
「そうです。この惑星には驚くべきことに地球の言語が残されていました。なぜこの言語が残されていたのか。その真相を知りたく、地球へ赴きたいのですが、宜しでしょうか?」
更に、「AI-789」は様々な報告と提案をしている。
ラワーティ司令官はそれらを全て認めた。
「貴官の地球行きを承諾する。これは超光速航法の更なる改良の可能性があると思われる」
ラワーティ司令官は「AI-789」の乗って来た宇宙船の整備が終わったら、彼が地球に赴くことを命じた。
3
「地球に行く際には、人間の名を使え。確か持っているはずだな?」
アミナ・ラワーティ司令官が問うと、「AI-789」は、「『ナハク。ナハク・ヴェルフ』という名を持っています」、と答えた。
「ではナハク・ヴェルフ。分かっていると思うが、ロボットが宇宙省に所属しているのを知るのは、この基地と一部の宇宙省高官のみ。地球では『人間』として振る舞え」
ラワーティ司令官はナハク・ヴェルフに命じた。
ナハク・ヴェルフ。
この「AI-789」が「terra-001」で到着して調査したのは驚くべき痕跡が残されていたからだ。
その痕跡の前に。
「terra-001」と称される地球型惑星の簡単な詳細について。
先ず、おおよそ地球より一回り大きく。それゆえ重力が1G以上である。
また、太陽は我々の太陽よりも若干小さく活動状況も弱い。
更に公転している軌道はその太陽より地球一つ分ほど外を回っている。
要するに、この「terra-001」は惑星全体が一年中冬のような気候だ。
この冥王星基地のように断熱材や重力装置を使えば、人類の居住は可能だが、そこまでして行う理由はない。
ラワーティ司令官が人類植民の難色を示したのも当然である。
それより!
「AI-789」ことナハク・ヴェルフが当地で見つけたのは、実に驚くべきものだった。
時を戻して、ナハク・ヴェルフが「terra-001」へ出発した、2318年に戻ろう。
彼が乗った宇宙船は約400光年先の地球型惑星。「terra-001」へ出発した。
この宇宙船は超光速航法を備えていて、1年で100光年の距離を跳躍することが可能。
つまり、4年で400光年の距離を跳躍できるのだ。
そして、この宇宙船には、様々な慣性や重力や位相の制御がされているので、船内時間は地球の時間と一致している。
なので、帰還した際は、地球時間と同じである。
実際にナハク・ヴェルフは二か月ほどのずれで戻った。
時に、西暦2326年8月後半。
既に数機のこの超光速航法を備えた宇宙船が外宇宙へと飛び立っている。
ただし、その乗務員はロボット。
なぜロボットかというと、その理由の一つは、単純に危険だから。
もう一つは、ロボットなら、飲食物の保存スペースや給排水や酸素供給のシステムを、船内に造る必要が無いから。
こうして世界政府の宇宙省はロボットを地球型惑星調査に向かわせていたのだ。
さて、「AI-789」ことナハク・ヴェルフが「terra-001」で見つけたのは何だったのか?
それは次回で説明させていただこう。
第1話 冥王星基地への帰還 了
続きます。
冒頭の宇宙船のイラストはAIで作ったものですが、これって「AI使用状況」に抵触するのでしょうか?




