第5話 そして、悠久の距離へ
5話目です。
本話で完結となります。よろしくお願いします。
1
西暦2327年1月25日。
Z県N町のC地域。
20世紀半ばまでこの地はC村と呼ばれていた。
ナハク・ヴェルフ(AI-789)が、この旧C村の空き家で過ごして初めてから一週間ほど。
彼の過ごし方は付近の散歩。
特に、晴れた夜ともなれば空は星々が眩しいほどに煌めいている。
「あの星々のどれかが『テラ001』の太陽なのかな?」
夜に出歩いたナハクは呟く。
降雪は稀だが、この地の冬の最低気温は零下5度を下回る。
日中でも5度を超えることは殆どない。
故に、ナハクは極力人に会わないようにしている。
見た目は屈強な2メートルを超える40代前半の男だが、彼はロボット。
つまり呼吸をしないので、白い息が出ない。
もっとも、この旧C村の人口は100人ほどなので、外を出歩いて人に会う、ということはほぼないのだが。
また、家にいる時はこの旧C村で起こったこと。
特に2020年代以前を重点的に調べていた。
分かったことは以下である。
2024年の1月に当時大学生の20歳の男性が、このC地域に天体観測に訪れ、ナハク同様に民泊していたが、行方不明になったこと。
2020年8月にN町出身の△△健則という当時38歳の男性が、C地域に出掛けたまま行方不明になったこと。
1997年の秋にN町旧C村出身の〇〇道彦という当時中学三年生の男子が、夜に家から出て行方不明になったこと。
この○○道彦と△△健則は同級生で小学校以来からの親友だったらしい。
また、1960年代、1940年代にも行方不明者が、まだN町と統合される前のC村から出ている。
ナハクは宿泊する家のインターホンが鳴る。
このC地域の責任者の〇〇氏だ。
彼はナハクに十個の蜜柑と何十枚のも煎餅を差し入れに持って来た。
差し入れの際、〇〇氏から注意をナハクは受ける。
「あなたはこの付近をよく散歩しているようですが、この辺りの上部はあまり行かないほうがいいですよ。熊は出ませんが、時折イノシシが出るからです」
「イノシシ……」
「まぁ、私も滅多に出くわしませんがね。こんな僻地。イノシシどももどこかに引っ越してしまったのでしょう」
そう言ってこの家の玄関から〇〇氏は出て行った。
2
次にその当時。
主に20世紀後半から21世紀半ばまでに語られてきた旧C村に関するうわさや、当時のソーシャルメディアの情報を調べる。
以下のようなことが語られていた。
主な発信者はオカルト好きな人たちのようだ。
「化け物が現れて喰われるそうだ」
「神隠しで有名な村だよな」
「実はあのC村って口減らしをやってた村らしく、今でもその奇習が残ってるんだってよ」
「何百年も前から、人々が消えているんだって」
炬燵に入りこれらを、炬燵の上に浮かぶ2D画像から、特別なアーカイブされた記録メディアにアクセスし、調べ上げたナハクは調査すべき一点を見つけた。
このナハクが宿泊しているところから、更に山道を登ると、森林がほとんどない平地があり、どうもそこが怪しそうだった。
ナハクはハンガーに引っ掛けた黒のジャケットの内ポケットに手を入れる。
彼が手にしたのは宇宙省の徽章。
これは一般の端末より、はるかに高性能で、様々な検査アプリもインストールされている。
「翌日の夜にそこに行こう」
25日の夜。ナハクは家の全ての電気を切って、就寝している状態にする。
翌26日。
この日は朝から珍しく降雪があり、山地であるC地域はそれなりに雪が積もる。
「この分だと、この辺りに住む人々は、先ず外出しないだろうな」
ナハクは好都合だと、居間の炬燵から外の白一色の状況を眺める。
炬燵の上には蜜柑と煎餅が入った、それぞれ二つの籠が置かれている。
前日にこのC地域の責任者の〇〇氏から差し入れで貰ったもの。
ナハクは、さてこれらをどうしたものやら、と考え込む。
炬燵の暖かい感じは、ナハクの人口神経系で感じる。
外の雪景色を見ながら、炬燵の中で蜜柑や煎餅を食べるのは、人間にとってなかなかに楽しいものではないか、とナハクは思う。
ここは日本の、いや地球の、意外な穴場スポットであろう。
3
日が完全に暮れてから、ナハクはそっと家を出る。
時刻を確認する。
地球における時刻はそのまま当地の時間。
地球外の時刻は火星を初め、自転や公転の関係から、UTCを用いている。
登山用の姿で無いのに、雪の積もった山道を進むが、全く平衡を崩さない。
そして、目的地のやや広い平地に到着する。
おおよそタクシーが10台は停められる広さか。
草地は完全に雪に覆われ、ナハクの進みで新雪は窪む。
低木が平地の端に連なっている。
この低木を超えると通常の森林の山地だ。
ナハクは徽章をなぞり端末を起動させると、縦横1メートルほどの空中画像が浮かぶ。
それを操作して、特殊な磁場の発生源を探知するアプリを起動する。
低木に近い場所に異様な磁場の揺らぎを発見する。
解析しても'unidentified'(正体不明)としか表示されない。
分かることは、この揺らぎが一定間隔で、小さくなる大きくなることを繰り返すことだ。
ナハクは周囲の雪をかき集め直径50センチメートルほどの雪玉を作る。
そして、彼はそれを揺らぎが発生している低木の付近に投げつけた。
「ドスン!」
音をたてたが、雪玉は変化がない。
だが、磁場の揺らぎが雪玉が落ちた瞬間に極端に大きくなった。
「もしかしてある程度の衝撃をあの辺りに与えれば、揺らぎは人間一人を包み込むほどに大きくなる?」
ナハクは端末で時刻を確認する。
2327年1月26日22時30分。
これは日本の時刻を電波を受け取ったものである。
電波が届かなければ、補正されずただそのまま時を刻む。
ナハクは意を決して、その低木の磁場の揺らぎの中に入る。
そして、渾身の力を込めてその場からジャンプをして地に降り立つ。
地に降り立った瞬間。
彼の周囲は色を失い、音もせず、物が消え、まるで空中を浮遊している感覚に襲われる。
「……!」
ナハクの周囲が色をなし、音を感じ、物が見え、浮遊感が消えた時。
彼は既視感のある場所にいた。
「ここは明らかにあの時のアソシエーション・フットボールのフィールドの場所」
降り立った地が平地でうっすらと雪化粧され、気温も零下10度近くなので、あのC地域の山地の広場から遠くへ来たという感覚がない。
だが、ナハクはこの場所のある場所へと進む。
△△健則の墓だ。
そして、ナハクは端末で時刻を確認する。
2327年1月26日22時32分。
そう、ナハクは約4年半ぶりにこの「テラ001」に再びやって来たのだ。
それもほんの瞬時で。
そのままこの場を彼は後にして、更に300メートルほど進み、ある朽ち果てた集落に到達する。
その中のある小屋を開ける。
中には木組みのベッドで横たわるミイラ化した人間の死体。
「彼らやあの時のイノシシは、このようにして約400光年離れた惑星に転移していたのか……」
ナハク・ヴェルフはこの小屋で身動きせず、ずっと過ごすことを決める。
「さて、ニーナ・ネーガン(AI-927)が私を助けに来るとしたならば、私の地球での消息不明なる情報が冥王星基地に達するのが、最短で半年だとして、4年半ほど掛かる、といった具合だな」
ナハク・ヴェルフは、ここ「テラ001」へ同僚のロボットが救助にやって来ることを願うのであった。
「それにしてもロボットが『願う』という感情を持つとは、不思議なものだな」
ナハクは小屋の中で座し、まるで瞑想をしているかのように、身動き一つせず、4年と半年間は一切動かないと決める。
これは彼らロボットが通常の行動を起こすと、約10年で内蔵電池が切れるからだ。
なので、彼は一切の動きをしない。
思考も人工頭脳の電気の無駄である。
ナハクが最後に思考したのは、冥王星基地司令官のアミナ・ラワーティとの以下のやり取りである。
「貴官の地球行きを承諾する。これは超光速航法の更なる改良の可能性があると思われる」
自身が体験したこのワームホールの現象を、救い出されることによって、更なる超光速航法の発展を彼は願うのであった。
第5話 そして、悠久の距離へ 了
悠久の時と距離を経た発見 完結
この「悠久の時と距離を経た発見」を読んでくれてありがとうございます。
以下が本作と関連した私の短編です。
・「異世界転移 - ここは地獄か魔界か、それとも… -」(N3765GK)
・「永遠の冬」(N2362IP)
本作は私の過去作と無理やりつなげちゃいました。
3話の後書きで出した「蒼と朱の交換日記(N1537IQ)」も含めて、よければこれらも読んでいただけるとうれしいです。
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