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精霊②

 人魚の国。

 リュミエールはこの国へ帰る時、33歳だった。人魚の平均寿命は30歳だから、長く生きたといえる。

 もう少し待てば陸で佳子に会えたが、もう身体がギリギリだった。


「佳子さーん!本物だぁ!良かったよぅー」


 佳子たちは宝具ほうぐよって守られていて、海の中でも息や会話ができる。だが、今はフリューに抱きしめられて苦しそうだ。


「おお、フリュー。お前ホントに水陸両用なんだな」


「翔さん!なんで車みたいに例えるんですか!素直に人魚と言ってくださいよ!」


「仲がいいのね」


「嫉妬か?やきもち焼いてくれるのか?」


 翔はやたらと嬉しそうに言った。


「…ごめん、微笑ましく見てた」


 すぐにシュンと沈む。幻のしっぽが見えそうだった。






 リュミエールは王族の住む居城の端、陽の光のよく当たる場所で眠っていた。


 国の全ての生を終えた人魚が、そこで眠る。



「リュミエールが亡くなる前日、私佳子さんに会いに行こうって誘ったんです。今なら行ける気がするからって。そしたら、もう無理よ、って笑って。でも最期に佳子さんが無事だと分かって良かったって」



 リュミエールはフリューの『特技』について分かっていたようだ。フリューが会えると思ったと言うことは、世界の何処かに居ると言うこと。


 安堵が、時として人を殺す事があるとしても、それは幸せな死だろう。彼女の物語はめでたしめでたしで終わったのだ。


 フリューはそれを泣きながら話す。フリューに慣れるという言葉はない。目の前にあるリュミエールの名が新しく刻まれた墓石に手を置く。見上げる程の岩に、眠る人魚達の名が何千とある。その総てにフリューは涙を流す。


 歪な人魚姫が零す涙は、だが誰よりも美しい真珠となる。





「彼女は不思議な人魚ひとね」


 沢山の真珠が雪原のように広がる幻想的な景色の中、佳子がやや鬱陶しそうな顔をしていた翔に話しかけた。


「ああ、人魚と人間のハーフでさらに人魚の王サマと八百比丘尼を食べてるとかなんとか」


「確かに出生も不思議みたいだけど。そうじゃなくて」


 佳子が指差す先に、朱い髪の青年の人魚が泳いで来ていた。


「フリューが泣いているのを感じて、飛んてきたようよ。他にも心配している視線を感じる。とても愛されているわ」


「佳子様、翔様。私は現国王、ショーと申します。フリューにはまずこちらにお通しするようにと言っていたのですが」


「フリューに『おつかい』を頼んだのか?ホントに人魚は馬鹿だな」


「ヒドイ!」


 実際、おつかいを忘れていたのだから、それ以上何も言えない。フリューはまったく怖くない目で睨みつけた。


「私はこの際しょうが無いですけど!ショーは良い子なんですからね!ヒドイ事言わないでください」


「良い子かどうかは馬鹿と関係ないだろう」


 佳子はクスクスと笑った。


「そうね。フリューの賢さは分からないけれど、良い子だものね」


「え!?ツンデレだったんですか?」


「馬鹿か!!」



 ショーは呆気に取られる。言い伝えの吸血鬼と翔は、余りにも違う。

 しかし、それはフリューのなせる技だとリュミエールに聞いていた。ショーもまたフリューを誇らしく思った。


「改めて、祖母とフリューがお世話になった事にお礼申し上げます」







 その後しばらくフリューと一緒に人魚の国を見てまわった。人口は少なくないが、豊かな海のおかげで、生活面では村という感じだった。

 皆が本当に幸せそうな笑顔だ。特にフリューに向けられるものが1番優しい。



「あー物凄い平和だな。なんかかったるいわ。幸せなのを壊す趣味は無いが、別に見てて楽しいと思わん」


「…そうね、じゃあ。例えばここで私と暮らすのを想像するのは?穏やかで、健やかで、変わらぬ日々」


「そして、そこに私がお邪魔しに…」


「ホントに邪魔だな!」


 毎日佳子を抱きしめて暮らせるなら、ここに居る人魚達と同じ顔になるのだろうと翔は思ったが。ここには恋人を邪魔する者を蹴る馬がいない。


 そして。佳子は望むと望まざるに関わらず厄介事を引き付ける。



「あの……噂の仙女様ですよね?」

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