精霊①
聖なる物に宿る霊。魂のみの存在。
木の精霊であれば木とともに過ごし、木とともに消滅する。
彼等が人間に対して何かをする事は殆どないが、彼等は神に護られていて、粗末に扱うと神罰が下される。
人前に姿を現すことは滅多にないが、気に入った人間に対しては美しい異性の姿を現し、自らの住処に招待するという。
好意での行動だが、一晩を過ごしただけで外では何十年、何百年もの時が経過している場合がある。
※※※※※※※
「フリューは分かる?」
「波?……人魚?」
「推理しようとするなよ。どんな奴か分かる?」
「……わからない」
「凄い阿呆だ。次、リュミエールは?」
「光?……わからない」
「人魚の国の女王だった奴だ。この辺はまるっと無いな」
「すごくモヤモヤする。記憶を無くすのは不幸ね」
「まぁ、リュミエールは気にしないだろ。姿見ただけで喜びそうだ。フリューは知らん。なんでも喜ぶだろ」
佳子と翔は、約束通りフリュー達に会いに行く為に旅をしていた。
その休憩中、消された記憶を検証している。名前だけでどこまで反応出来るかを試していた。
「それにしても、本当に私と貴方はいつもこうやって話していたの?」
「恋人だからな」
「そうね。恋人らしいわね。でもすごく違和感がするの。私、こんな事するかしら?」
離れていた5年で、翔が強くなった分と佳子が仙女の力を抑えるのに慣れた分、二人は前よりきちんと触れ合える様になった。
だから、当然だと言う風に翔は佳子を膝に乗せて向かい合わせに座らせていた。
佳子は、顔の熱が取れずにいた。
「ケイ真っ赤だね。俺の眼とどっちが赤い?見つめて比べてみて?」
「………ねぇ。私、絶対こんな事してないと思うの」
「俺はこれで良いんだけど」
佳子はため息をついて、翔の膝からどいて隣に座った。
「そんな顔で見つめてもだめよ。……どうしてそんな捨てられる仔犬みたいな悲壮な顔ができるの? 少しずれただけじゃない」
「俺はもう少しも離れたくない。この5年でわかった。ケイが傍に居てくれるなら仔犬でもカリフラワーでもいい」
「……カリフラワー?」
「それもか」
翔は流石に落胆した。インパクトある名前だと思う。それに、自分から言うのは中々に恥ずかしい。
「全部ケイのせいなのに」
佳子は眉を寄せた。まさか、記憶にございません、なんて、人間みたいな言い訳をする日が来るとは思わなかった。
「俺見て第一印象何だった?」
「……えのき」
翔はグッと弾かれたように胸をおさえた。
「大丈夫?!どうしたの?」
「まさかもっと酷いこと言われると思わなかった…」
「え。じゃあ私が名付けたの? カリフラワーと?」
「そうだよ! しかもフランス語で! 顔がフランスっぽいとか言って! 俺はイギリス生まれで英語しか分からなかったのに!」
翔がだんだんと少年の口調になっていく。佳子が昔のように戻っているので翔も少し戻ってしまっていた。
佳子は5000年生きているが、翔はその十分の一を越すほどしか生きていない。出会った当初は圧倒的な力量の差もあって、親子か師弟かのようだった。
「だから……名乗っちゃったんだよ……」
翔は顔を両手で覆った。そのままズルズルと横に倒れていく。佳子もその場面を想像して。
「……ごめんね」
「それまでは『王』としか呼ばれなかったから、名前を貰って結構嬉しかったんだよなぁ。まぁ意味知るまでは」
翔は寝転んでいた体勢を元に戻した。
力ある者に名を付けられれば、それがその者の真名となる。自身で名を付けていれば良かったのだが、不幸にも翔は名乗るのも面倒くさがった。
そのせいでどんなに抗おうとも、死ぬまで彼は『ルシュフ・ロゥール』だ。
「それから意地で他国の言語も勉強したんだよ。お前色んな所につれて行こうとするし。その国で変な名前で呼ばれたら嫌だしな」
居たたまれなくなった佳子は、そういえば、と話をずらした。
「気になっていたのだけど、どうして私をケイと呼ぶの?」
「今は言えるけど、当時はジャウェイって言えなかったんだよ。いろいろ読み方教えてもらって日本読みの『ケイ』なら言えた」
「ああ、なるほど。なぜ佳子なのかと思ったら、貴方が呼びやすいようになのね。この字なら普通『ヨシコ』と読むはずだもの」
そこで、また佳子は顔を赤くした。今の自分を作っている端々に翔を想う何かがあった。それを見つける度に、なれない恋人と言う物を実感してしまう。
消された、と言うソルエラの言葉をそのまま受け取るなら、もう二度と記憶は戻らない。けれど、確かに二人が想い合っていた証がある。
佳子は困惑した。穏やかな感情だけではなく、何故、こうも照れてしまうのかと。頭の良い佳子にも分からなかった。
困惑の理由は今までに無い翔の積極性にあるから。
「さぁ、もう行きましょう。貴方は辛いかもしれないけど、昼間のうちに会わなくてはね」
甘々です。糖分ほきゅうちゅう




