天使①
神の御使い。聖霊。神使。神と人間の架け橋。
絵画などで子供や中性的な成人に白い鳥の羽根を持った姿で描かれるが、元々は人間と同じ姿をしている。それは、人間が神の姿に似せて作ってあるからで、その御使いもまた同じだからである。
愛の女神の子が翼を持って生まれた為、天使も羽根を持って描かれるようになった。
上位の天使の場合、2対4対の羽根と複数の目を持つ。人間をより良く見守る為だが、その姿は一般からすれば化け物のようである。
また、神の教えに背き地獄に落ちた者を堕天使と言う。
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日の沈みかけた、紫の空を翔ける。
地上から見上げたそれは、夜の闇を嫌って巣へと帰る一羽のカラス。
赤い雫を落としながら、一直線に飛んで行く。
「寒くないか?」
「揺れてないか?」
「帰ったら直ぐに治療するから、教えてくれ」
「…痛むのか?」
「それは、ルゥのほうでしょ?」
佳子は目を瞑りながら言った。人狼の呪いは佳子の身体を暴れまわる。
肩に深々と突き刺さった彫刻刀からは未だに呪いが吐き出されている。抜いてしまえればよかったが、骨まで刺さったそれは抜くには準備がいる。
血管の中を自分の暖かい血液とは違う、冷たい液体がゆっくりと這い回る異物感と、自分の仙女の力がそれにぶつかる時に生まれる痺れ。
包まれる安心感と身体の動かぬ不安感。そして。
「私、仙女の力、戻ってきてる。ルゥ、辛いでしょう?」
「絶対に離さないから安心してろ。でも出来れば、喋っててくれ」
「……うん」
空に月が昇る。時間が翔に味方をする。さらに速度を上げ、最古の吸血鬼はその名の通りに空を翔けて行く。
「フリュー!!」
翔にはドアなど関係ない。壁からそのままリビングへ飛んできた。
アイスブルーの人魚は慌てて食べ散らかしていたお菓子を片付ける。
「あ、お久しぶりです!翔さん!………え?佳子さん?」
「怪我をしてる。治療するから、なんか布団持って来い」
「分かりました!」
いつもなら翔が何か言うたびに反発するフリューだが、この時ばかりは素直に動いた。布団の他にタオルやガーゼなど要りそうな物を用意していく。
「ケイ、悪いけど、必要なもの教えてくれ」
「ん…、もう立てるよ?」
「馬鹿いうな。……俺の為にもう少し腕の中に居てくれ」
「……分かった」
佳子は自分が少々辛いくらいなら、簡単に無茶をする。だから翔はプライドを捨てる方を選んだ。翔が願えば、佳子はそれしか出来ない。
いくつかの液体薬と丸薬を持ってリビングへと戻る。そこにはリュミエールもいた。
「佳子様、私も手伝います」
「リュミエール!動いて大丈夫?」
「はい。佳子様のお蔭ですわ。家賃の代わりにもなりませんが、何かさせて下さいませ」
「ありがとう。正直助かります」
「ケイ。どうすればいい?」
「流れとしては、彫刻刀を抜く、仙女の力で呪いを解く、傷口を塞ぐ。かな?」
「俺が抜けば良いんだな」
「ちょっと待って。タイミングが大事だから。リュミエール!抜かれたらタオルで肩を押さえて?フリューは私がすぐにこの丸薬が飲める様に準備しておいて」
フリューは頷いて素早くコップに水を注いできた。真っ黒な丸薬は小さいが飲み込むのには苦労しそうな大きさのものが3粒あった。
「これで傷を塞ぐんですか?」
「丸薬は仙女の力を一時的に増幅させる物なの。飲んで力が戻ったら血液に乗せて呪いを出すから、暫く強めにタオルで押さえててね」
「お任せ下さい」
「全部出たらこの薬をかけて傷を洗ったら塗り薬を傷口に塗ってまた押さえる。重要なのは丸薬を飲んだ後の私の血に触れないこと。だから、手袋しておいてね。特にルゥは近づいてもだめ。」
「俺は呪いなんか受けない」
「そうじゃなくて、仙女の力も強くなってるからだよ」
翔は苦々しい顔をした。確かに今も少し辛い。
「でも、側にいる」
佳子は困った顔でルゥ、と呟き、短く息をはいた。
「良し、はじめよっか」




