人魚③
結局、3人は場所を移動する事にした。映画館へ向かって歩く。てくてく。スタスタ。とぼとぼ。
「すみませんです」
「マジで反省してくれ」
フリューは十四番目とはいえ、本物の人魚姫だ。それなのに何故こんなにも残念なんだ。
「ここで、さらに残念なお知らせです。彼女達は種族全体でこうです」
「………そうか」
「痛ましい目で見ないで下さいっ!」
人魚族は15歳になると地上へあがることが許される。ただ、王族は陸へ憧れる事は滅多にない。国の統治もあるし、伝承として陸へ上がった者の末路を聞かされているからだ。
そして。人間に化ける為には全ての鱗を取らないといけない。二足歩行も激痛が走る。海へ戻った時も鱗やヒレは歪にしか戻らず、泳ぐ事が困難になる。その試練をのりこえた者だけが人間の街へと来られる。ただの狂気の沙汰だ。
だから、王族は陸へあがらない。
「うーん、確か王族は賢かったはずだけどなぁ?」
「ならフリューはただの魚なんじゃねぇの?」
「ちゃんと人魚姫です!せめて人魚でいさせてくださいよ!」
でも、と佳子は思う。アイスブルーの髪と瞳。いつまでもとれない海の香り。僅かに真珠の光沢を放つ白い肌。どれも陸へ上がった人魚の特徴だ。一般的な。
「言っていいのか悩んだけど、…髪も王族らしくないよね?」
人魚国を佳子は何国か知っているが、王は全て朱色の髪をしている。美しい珊瑚の色だ。
「うぅ、やっぱり気になりますよね…。でも!ちゃんと王族の刺青はあるんですよ!」
ほら!とフリューは着ていたシャツを捲った。
大通りで。
「もうヤダ。人魚嫌い」
翔は頭を抱えてうずくまった。
シャツを肋骨辺りまで引き上げた所で、翔が腕ごと引き下げ流れる様に抱きかかえた。そして日曜なのに人気のないこの公園に跳んできた。自殺の為の足場だとか、浮浪者のベッドだかに使われると噂のベンチに、なかば放り投げるようにフリューを座らせたところだ。
「痛い…。うー嫌いなんて言わないで下さい」
「お疲れ、ルゥ」
「はぁ。まだ真っ昼間じゃねぇか。ホント疲れた。帰りたい。ていうか帰れ」
「ヒドイです!もう本当ずっとヒドイです!」
「ずっと?最初からずっと優しくしてるだろ。ケイがいるから紳士してるし」
「紳士はするものじゃなくて、なるものですよ!」
「なかなか話が進まないね」
クスクスと佳子は笑った。今頃は映画館で二人で話題の映画でも見ていたはずだ。でも、こっちの方がずっといい。翔が楽しそうだから。
「笑い事じゃねーよ…」
「まぁまぁ。ここなら何が起きても迷惑かからないだろうから話し進めちゃおう」
まずは、と弾んだ調子で言って、佳子はフリューの話しを聞くことにした。翔はより暗い場所に移動して、しゃがみ込んだ。耳に入る分は聞いてやろう、という態度だ。
「えっと。私、本当は姉妹のなかで一番年上なのにこんなありふれた髪色だから十四王女にまでおとされてしまって。こんな性格だから王になろうなんて思わないんですけど、でもどうせなら何か皆の役にたてないかなって思ったんです。だから翔さんの所へ来ました」
「は?何でそれで俺と…………あー…子供が欲しいと?」
直接的な単語は人魚でもない限りこんな所で言えない。ましてや恋人の前で。
「ルゥが吸血鬼だからだと思うよ」
佳子は苦笑した。翔は訳が分からないという顔だ。それを見て佳子は説明をする。まるで教師のような顔に変わった。
「普通の動物と同じように、各種族はそれぞれの雄と雌同士じゃないと子を成せない。有機ではないけど遺伝子みたいのがあって、種族ごとに構成がちがうからね。でも例外があるの。どんな種族だろうが相手の特徴をもった子供を作れる雄と雌。それが『真祖の吸血鬼の男』と『人間の女』」
「………マジか」
「そうだよー?ルゥじゃない他の真祖はそれはもう凄かったよ。まさに悪の吸血鬼」
まぁ目に余ったからねじ伏せたんだけどね、と佳子は照れた。フリューはそれを聞いて思わず背筋を正した。
「なんで、その2つなの?なんか種族がバラバラなのが気持ち悪いんだけど」
「気持ち悪いのを私に言われても。まぁ理由は単純に最強と最弱だからだよ。相手の遺伝子に吸血と怪力の能力をねじ込むほど強い遺伝子と、全てを受け入れてしまう器のような最弱の遺伝子。だから他種族でも子供が出来る」
「へー。いい迷惑」
「いや、だからって吸血鬼に自ら迫っていく人は初めてみたよ?」
「すみません」
そんなに常識破りだったのか、とフリューはやっと自覚した。




