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桃源の乙女たち  作者: 星乃 流
十三章「銀の双子」
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第四話(第五十二話)

 「……どういうことだ」

 木彫りの仮面で顔を隠した少女はアズミを睨みつける。

 「いやね、この嬢ちゃんに先手打たれちゃってね、細工も無しじゃ私に勝ち目ないじゃん? だけど私に興味ないからアンタのところに案内しろっていうの。まぁしょうがないじゃん?」

 悪びれる様子もなくアズミは肩を竦める。

 ――頭を空にしておけ――

 アズミの態度にイラッとすると同時に急に声がした。いや、声じゃない、頭の中で言葉が鳴り響くような感覚がした。アズミのほうを見ると軽く片目を瞑って肯定した。

 (例の術とやらを掛けてくれるってことか)

 まぁ、遅かれ早かれこの時は来るんだ。反動疲労も少しはとれた。今ここがケリをつける場面なのだろう。この死に損ないとのケリを。

 「仮面のかた、戦いに臨む前に一つお願いがあります」

 こちらが臨戦体勢をとろうとすると奴は何か言ってきた。

 「……さっさと言え」

 「その七画の刻印のうち……自分の意思で譲渡できる六画、それを私に譲っていただけませんか」

 奴は――エリンという少女はそう言って微笑んだ。

 「……は?」

 何を考えてるんだこのガキは。アズミを見ると今にも大笑いしそうなのを必死に堪えていた。

 里の人間を、お前と同年代の女を殺して回ってる殺人鬼相手に何を言っているんだ。どこまでおめでたいんだ? 何でも話せば解決するとでも思ってる口なのか? 大体オレはあのねーちゃんの仇だろ。

 「お前……自分がどれだけ馬鹿なことを言ってるか分かってるのか? オレはもう何人もぶっ殺してる殺人鬼だぞ?」

 だが、穏やかな微笑みを浮かべた少女は動じない。

 「やはり……応じてはいただけませんか」

 「アハハハハ!」

 アズミはまだ我慢しているが、仮面の少女はもう我慢しきれず派手に笑い声をあげた。

 「当たり前だろ、オレが何してきたか本当にわかってんの?」

 「……そうですよね」

 エリンは少しだけ悲しそうな表情をしてそう言った。……本当に、どう育てばこんなおめでたい思考回路になるのか。

 「話し合えば皆分かりあえるー! とでも思っていたのかい?」

 笑いが止まらない。アズミもエリンの死角で必死にひーひーと笑い堪えている。もう我慢せず笑っちまえばいいのに。

 「うーん、でも、もう少しお話したいので……先にその仮面、取って頂けませんか?」

 一瞬で笑いが引き、真顔になったのが自分でも分かった。

 「なんだ、そんなにオレの素顔が気になるか?」

 「そういうわけでもないんですけど、やはり顔と顔を突き合わせて話をした方が、まだ意味がある気がするので」

 再び仮面の少女は笑い出す。

 「だから馬鹿かっての、話し合いもくそもあるかよ、いい加減わかれよ平和ボケ!」

 笑い続ける仮面の少女に向かってエリンは呟いた。

 「――その仮面の下、見させてもらいます」

 次の瞬間パキンと、今までずっとその素顔を隠し通してきた白木色の仮面は呆気なく縦に半分に割れ、地面に落ちた。

 「あー……やっぱり……。それにしても似てますね。――あぁ、そうか。ただの姉妹じゃなくて、双子ということですか」

 瞳の色以外、全てがリサ・ウ・エルと瓜二つの顔を持った少女は、決してリサがすることはないであろう、恐ろしい面様でエリンを睨みつけていた。

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